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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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016 スピリットガーディアン

 港町サウザンタウン。

 ラクシャディア共和国とゲヒルロハネス連邦国を繋ぐ唯一の港町である。

 この街を通過せずに出入国をする輩も多いが、そのほとんどは密入国者であり、法の裁きを受ける対象となる。

 それはさておき俺はというと――。


「さぶい……」


 本格的に風邪を拗らせた俺は、意識が朦朧としながらタオに背負われ。

 サウザンタウンに到着した頃にはついにダウン。

 少し高めの宿に宿泊し、ベッドに横たわり呻いている最中である。


「こんなに熱を出して……。今どき子供でもこんな高熱は出しませんよ」


 おでこに乗せられている濡れタオルを交換しながらルルが呟く。

 ベッドの横に椅子を移動させ、その上にチョコンと乗りながら介抱してくれるルル。


「今夜はカズハだけはおじやを作るアルね。まったく……皆に迷惑を掛けて……」


 タオが宿に備え付けられた台所に向かいながら悪態を吐く。

 しかし顔は穏やかなままだ。

 本気で言っていないのはすぐに分かる。


「タオ。私もおじやでいいですよ。どうせアルゼインとあの元魔王は酒場で飲んでいるのですから、お夕飯はいらないのでしょうし」


「あー、確かにそうアルねぇ……。じゃあ今夜は3人ともおじやにするアルね」


 アルゼインとセレンは街に到着したと同時に酒場へと向かって行った。

 恐らく夜通し飲んだ暮れるつもりだろう。

 それで少しは幽閉されていた時のストレスが発散されればいいのだが。


「ルル……タオ……。おまえら大好き」


 いつもの元気な声とは程遠い、今にも消え入りそうな声でそう伝える。

 もしかしたらこのまま死んでしまうのかもしれない。

 今まで調子に乗って色々暴れすぎたから、神様が天罰を下したのかも……。


「はぁ……。流石にここまで弱っていると、いつもみたいに毒を吐くのも躊躇われますね……」


 いつもとは違い心配そうな顔で俺の顔を覗き込む幼女。

 その綺麗な蒼い瞳が俺の顔を鮮明に映し出している。

 ルルのこんな顔を見るのはいつ以来だろう。


 優しく俺の額に手を当て、もう一度濡れタオルを交換してくれる。

 ひんやりとしたルルの手とタオルが心地良くて眠くなってくる俺。


「ゲヒルロハネス連邦国に出発するのは、カズハの体調次第にした方が良さそうアルね。和漢ホウハンからの追っ手も今のところ大丈夫そうアルし」


「そうですね。この宿も偽名を使って泊まっていますし、いざとなればアルゼイン達もいますから。同じ輩に二度も捕まるほど馬鹿ではないでしょう」


 遠くの方で二人の話し声が微かに聞こえる。

 あ、やばい……。

 落ちる……。


 そして俺は深い深い意識の底へと――。





『ねえ、カズト。君は考えたことがあるかい?』


 誰だ……?

 俺の名を呼ぶのは……?


『この世界の不条理を。人間の浅はかさを。強さとは一体なにかを』


 この香りは……?

 やっぱりお前が首謀者なのか……?

 何故こんな回りくどい真似を……?


『僕はね、カズト。この目で確かめてみたいんだ。この世界の行く末を』


 何を言っている……?

 お前は何を企んでいるんだ……?

 レイさん達は無事なのか……?

 魔術禁書を集めて、お前は何を――。


『もうそろそろいいだろう? 延々と続く生の地獄から君を解放してあげよう』


 お前……。

 まさか、俺の『呪い』を知っているのか――。

 解放?

 俺をこの世界から解放する――?



『また逢える日を楽しみに待っているよ。愛しの戦乙女、カズハ・アックスプラント――』





「ん……」


 目を覚ます。

 俺のすぐ横でルルが寝息を立てている。

 俺を介抱したまま眠ってしまったのだろう。

 俺は軽く上半身を起こし、シーツをルルの肩に掛けてやる。


「むにゃむにゃ……。ユウリ様……。でへへ……///」


 その向こうでテーブルに顔を伏せながら涎を垂らしているタオを発見し苦笑する。


「タオの寝言が原因か……。さっきの夢は……」


 まだ身体のダルさは解消されていない。

 熱もまだまだ高いみたいだ。

 俺はそのまま身体を横にし、ルルの頭を撫でながら思考する。


 デボルグの残した魔法便――。

 指定場所はゲヒルロハネス連邦国――。

 魔法都市アークランドといえば、ルーメリアの出身地だ。

 新技術である無属性の魔法を作り出した街。

 《夢幻魔道士ゼロ・ウォーロック》という俺が初めて聞く職業が生み出された街。


 恐らくアークランドに到着すれば、待っているのはルーメリアなのだろう。

 そして彼女に指示を出しているのは――。


「ユウリ・ハクシャナス……」


 最近、急激に知名度が上昇している傭兵団《スピリットガーディアン》のリーダー。

 主要メンバーであるデボルグ・ハザード、ルーメリア・オルダイン。

 そしてエルフ族のエアリー・ウッドロック……。

 俺がエーテルクランの闘技場で戦ったメンバー達。

 そして全員が『勇者候補』として昇進したエリート集団――。


 俺の仲間を拉致したのは彼らに間違いないと思う。

 問題はその理由だ。

 何度考えてもその答えが浮かばない。


「……『延々と続く生の地獄から君を解放してあげよう』……か……」


 さきほどの夢を思い出す。

 当然ユウリには話していない。

 俺の秘密を知っている人物はごくわずかだ。

 まさかゼギウスが俺を裏切ったのか?

 一番最初に俺の秘密を話したのはゼギウスだ。

 そしてユウリはゼギウスの孫……。


(いや、考えすぎだろう……。あのじいさんは信頼出来る……)


 それに孫とは言っても本当の孫では無い。

 血は繋がっていないとゼギウスは話していた。

 こんな事ならもう少しユウリを引き取った経緯を聞いておくんだったか。

 今となっては後の祭りだが。


「ん……」


 俺の横でルルが寝言を言っている。

 どうしよう。

 このままの格好だと寝辛そうだからベッドに寝かせるか。


「みんな……無事で……」


 仲間が全員無事に戻って来た夢でも見ているのだろうか。

 軽く微笑んだ俺はルルを抱き上げ、タオの横のベッドへと寝かせてやる。

 少し動いただけで吐き気がする。

 まだ駄目だな。

 さっきタオが言っていたとおり、もう少し休まなきゃまともに動けない。


 明日は一日ここで寝ていよう。

 しかし、そんなに何日もこの街に停泊している訳にはいかない。

 そしてゲヒルロハネス連邦国に向かう途中に『あいつ』を倒さなくてはいけないし。


 二冊目の魔術禁書。

 《闇の魔術禁書》。

 その在り処は――。




「はぁ……。今回はアルゼインとセレンを頼る事になりそうだな……。闇の神獣に対抗できる武器は魔剣である《咎人の断首剣クリミナルダークネス》だけだからな……」


















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