015 光と闇
「ガクガク……ブルブル……」
「だあああ! もう、重いアルよ! どうして私がカズハをおぶって戦わなきゃならないアルかぁ!」
「ごめん。ホントもう俺、無理。寒い。きぼちわるい」
タオにおんぶされながら弱音を吐く俺。
もう完全に風邪を拗らしちゃったみたい。
こういう時に限ってモンスターから急襲されちゃうし。
お前ら、あとは頼んだ。
それとタオ。
あんまり強く揺すらないで。
吐いちゃう。
「セレンとアルゼインがいなければ危なかったですね。しかし、こうやって改めて彼女らの戦いぶりをみると……」
傍らでついでにモンスター共からタオに守ってもらっているルルが呟く。
俺達の前方ではモンスターの集団に対し無双している二人の剣士が。
というか化物剣士が。
「ははっ! 久しぶりの戦闘だからねぇ……! こちとら鬱憤が溜まっているんだ! せいぜい感じさせてくれよ……!」
魔剣を振り回しモンスター共の中心で咆哮しているアルゼイン。
ものすっごい良い笑顔をしている。
戦狂乱か。
ちょっと敵がかわいそうになってきた……。
「囚われの生活でだいぶ身体が鈍ってしまっているな……。多少の準備運動にでもなれば良いがな」
同じく魔剣を手にモンスターの集団へと向かうセレン。
モンスターの中には魔族も何体か混ざっているのだが、全然気にしていない様子だ。
もう完全に魔王としての責務から解放されたって感じなのかな。
ていうか俺の正体を知って色々と人生を考え直したっぽいけどな。
「タオ」
「? どうしたアルか?」
「……吐きそう」
「ぶっ! ちょ、待つアルよおおおおお! ここで吐くのは勘弁してくれアルううぅぅ!」
なんとか俺を無理矢理降ろそうとするタオ。
でもここで降ろされたら敵の標的にされてしまう。
こんなに弱っている俺を見殺しにしようとするタオさんマジ鬼畜。
ていうかそんなに動かさないで。
余計吐きそう……。
「……何をしているんだろうねぇ、あいつ等は……」
アルゼインがこちらの様子を気にしながらセレンに話しかける。
「気にするな。それよりもどうだ? 魔剣を振るうもの同士、勝負と行かないか?」
「勝負? へぇ、面白そうじゃないか」
お互いに背を預けながら悪い顔をするセレンとアルゼイン。
「どちらが多くの敵をなぎ倒せるか……。負けた方が次の街に到着したときに酒場で奢るというのはどうだ?」
「はっ、いいねぇ……! 当然あたいが勝つに決まっているけどねぇ!」
「笑止。我は元魔王ぞ? 魔剣の本来の主の力……その目に焼き付けるが良い……!」
セレンの言葉が合図となり、お互いに前方の敵集団に突進する。
世界最狂の魔剣を持つ、俺のパーティでも屈指の魔剣士であるセレンとアルゼイン。
確かにどちらの方が強いのか興味がある。
……体調が良かったらの話だけど。
「ルル」
「なんでしょうか?」
「気持ち悪いからハグさせて」
「……」
何も言わずにそっぽを向いて溜息を吐いた幼女。
もう突っ込んでもくれなくなりました……。
「はぁ……。やっと他のモンスター達もセレンの方に向かって行ったアル……。このまま私達は隠れて戦況を見守るアルよ」
俺達をしつこく付け狙っていた数匹のモンスター共が、セレンの方へと向かって行く。
たぶん何かのスキルを発動したんだろう。
自身にモンスターの注意を引きつけるスキルとか。
いまちらっとこちらを目視し笑みを浮かべたセレン。
それに答える様に手を振るタオ。
痒い所に手が届く、良く出来た元魔王様です。
ホントあの魔王城からお持ち帰りして良かったと思うよ。
岩陰に隠れながら戦況を見守ることにした俺達3人。
後は頼んだぞー。
◇
「黒銀の闇よ、怨念の元に全ての正義を喰らい尽くせ! 《ダークサーヴァント》!」
「闇を払いし光の槍よ、その矛先を悪しき者達へ! 《ライトニングスピア》!」
セレンの闇魔法とアルゼインの光魔法によりモンスターの上空に無数の刃が出現する。
暗黒を纏った刃と光を纏った槍は共鳴しながら敵集団に降り注ぐ。
「せいっ!」
「おらおらおらぁぁぁ!」
それと同時に無数の斬撃を繰り出す二人。
断末魔を上げる事無く真っ二つにされて行くモンスター達。
「全ての闇を払う力をここに! 《シャインイクスプロウド》!!」
「聖者の魂よ! 今こそ全てを焼き尽くしてくれよう! 《グラビティバースト》!!」
光の凝縮と闇の凝縮。
それぞれが相まって周囲の空間が歪んで行く。
圧縮された空間は行き場を失い、エネルギーを放出する為に爆発を起こす。
相変わらずエグイ魔法だなどっちも……。
「こうして見てみると、二人とも戦い方が似ているアルねぇ……」
「確かにそうですね。『光』と『闇』。使う魔法は真逆の属性ですけれど、戦闘のスタイルは似通っていますね」
タオとルルが戦況を分析する。
まあ確かにどっちもボインだし酒好きだし戦狂乱だし。
ていうか同じ魔剣振るっているんだし、もはや悪魔のような強さなんだけど……。
「ははっ、ここまで五分か……! いいねぇ……! 濡れてきちゃうよ……!」
「……その表現は好まんがな」
再びお互いに背を預けながら何かを話し合っているセレンとアルゼイン。
どうせ下ネタだろう。
アルゼインのあの悪い顔から察するに。
そして再び地面を蹴り無双を再開する。
当分は俺が戦わなくても、こいつらがいれば平気だろう。
たぶんこの風邪長引きそうだし、安静にしていよう。
良い部下を持って、俺、幸せ。
「スライドカッター!」
「グレイトブレイド!」
鮮やかな剣閃が舞い、数体のモンスターが一刀両断される。
まるでダンスでも踊っているかのような剣捌き。
……ダンスとか最も似合わないな……あの二人……。
◇
「くっ……! 124対126……! あたいの負けかい……!」
悔しそうに石ころを蹴飛ばすアルゼイン。
何故、俺のいる方角に蹴飛ばす。
「約束は約束だ。次の街の酒場で奢って貰うぞ、アルゼイン」
ふっと笑みを零し勝ち誇るセレン。
いまだいぶ鼻の穴広がってたぞお前。
「やっぱ二人とも鬼の強さアルねぇ……。はぁ……」
「タオ。あんな化物達と比べては駄目ですよ。人間でいられることにもっと誇りを持ってください」
うな垂れたタオを宥めるルル。
なんでその言葉を俺に向かって言うのか分かんないんだけど。
アルゼイン達に向かって言えよ!
「あ、やばいやばい。気持ち悪い……」
こみ上げて来た吐き気を抑えながら、岩陰で横になる俺。
なんだろうな、この吐き気。
普通の風邪じゃないのかな……。
「つわりアルか」
「言うと思ったよ! 違うに決まってんだろ! ……うっ……」
お決まりの文句にお決まりの突っ込みをしたらちょっと出て来ちゃった……。
もう大人しくしていよう……。
「もう少しでミューヘンツ渓谷も超えますね。港町サウザンタウンまでの辛抱です。タオ、カズハを頼みますよ」
「えー? もう嫌アルよぅ……。重いし暑いし、いつ戻しちゃうか分からないアルし……」
「ひどい!」
女王である俺を邪険に扱うタオさんマジ鬼畜。
今度お前の給料減らしちゃうからな!
覚えてろよ!
「さあ、とっととこの渓谷を抜けてしまおう。我が先頭を歩くから、後ろは頼んだぞアルゼイン」
「はいはいー。敗者は勝者のいいなりってねぇ……」
両手を頭の後ろに組みながら最後尾に付くアルゼイン。
俺的には後方はセレンに頼みたかったんだけど。
こいつ絶対俺に悪戯とかするから……。
後ろを預けるのが非常に怖いんですけど……。
そして俺達は一路、港町サウザンタウンへと向かう――。
 




