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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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012 闇ブローカー

 俺がデボルグに連れて来られた場所。

 街の北にある小高い丘に立てられた豪勢な屋敷。

 そこの地下で開かれた、《和漢ホウハン》を支配している闇ブローカー主催のパーティ。


「がっはっは! 今回もちょろいモンだったよなぁ!」

「おっほっほ! ここは天国ですわ。盗みを働いても政府は完全に放置ですし」


 いかにも高そうなスーツや煌びやかなドレスに身を包んだ数十名の来賓。

 恐らくはどいつもこいつも、各国で名の知れた盗賊団の頭や賞金首なのだろう。

 一際大きな笑い声を上げているのは恰幅の良いおっさんとチェーンの付いた眼鏡を掛けたおばさんだ。

 ていうか――。


「おい。デボルグ。なにこれ」


「(アホか。言葉遣いを正せって、さっき注意しただろ)」


「いやいやいや。だからなにこれ」


 俺が伝えたい事。

 びしっと黒のスーツに身を包んだデボルグは良いとしても――。


「(くく、似合ってんぞカズハ。その胸の部分はあれか? パッドでも入ってるんだろう?)」


 俺が着ているフリフリの白のドレスを眺めながらもそう言うデボルグ。

 長い髪は後ろに一つに纏められ、お化粧までしてもらって。

 大きく開いた胸の部分にはパッドまで入れてもらって。

 寄せて上げてでボインになっちゃいました。

 私、可愛い?

 違うだろ。


「(そうじゃねぇよ! 何で俺がこんな格好をしなくちゃならないんだって聞いてんだよ!)」


「(仕方ねぇだろうが。潜入捜査なんだから)」


 そう言いながらも俺の胸に手を伸ばそうとするデボルグ。

 俺はキッと睨みながらもその手を思いっきり抓ってやる。

 こんな所でもセクハラするつもりかお前は。


「(はぁ……。こんな姿をルルやタオに見られでもしたら……)」


 考えただけでも恐ろしい。

 きっとこれから先、一生ネタにされるに違いない。

 それにしたって動き辛い。


「お客様。失礼ですが、どなたのご紹介でしょうか?」


 若いボーイ風の男が俺達に声を掛けて来る。


「ああ。シュナイゲル卿の使いだ。これが招待状」


 胸のポケットから一枚のカードを取り出すデボルグ。

 それを確認した若い男は表情を緩ませる。


「お飲み物は如何なさいますか?」


「俺はワインを。お前はどうする?」


「え? あ、俺――私は……オレンジジュースを」


「畏まりました」


 俺に視線を向け笑顔で去って行く若い男。

 あぶねぇ……。咄嗟に言葉遣いを正せて良かった……。


「(くく、やれば出来るじゃねぇかよ)」


「(うるせ!)」


 ニヤニヤするデボルグの視線に耐えられなくなった俺は背を向ける。

 これは潜入捜査だ。

 俺はデボルグの連れの女として振舞わなくてはいけない。

 色々と納得が行かないが、これも奴との約束だから仕方が無い。


 デボルグの目的は闇ブローカー達に取引されている『商品』の情報だ。

 依頼主は《ゲヒルロハネス連邦国》で流通業の第一人者と言われているシュナイゲル・アラモンド卿。

 闇ブローカーから招待状が届く時点で、色々と黒そうなお偉いさんという気もするが……。


 先程の若い男がワインとオレンジジュースを俺達に手渡す。

 それを受け取る瞬間に少しだけ男の手に触れてしまったのだが、何故か彼は少し顔を赤くして戻って行った。

 うん。

 凄く、気持ち悪い……。


「(若い男を喰うのは捜査が終わった後にしておけよ)」


「(お前死ねよ! 絶対わざと言ってるだろ!)」


 デボルグは笑いを殺しながらもワインを喉に流し込む。

 酒飲みながら潜入捜査とは良い御身分ですね。

 俺はジト目で睨みながらもオレンジジュースに軽く口をつける。


「お、始まるみたいだぜ」


 会場の照明がやや暗くなり、壇上には頬に大きな傷をつけた男が登場する。

 このパーティの主催者。

 確か名を『瑠燕リュウヤン』とか言ったか。

 事前にデボルグより渡された主催者リストの一番上に載っていた名前だ。


 そして壇上に集められる盗品の数々。

 骨董品、武器、防具……。中には希少動物のミイラや古代聖書まで並べられている。


(まさか《魔術禁書》まで取引されているとかは無ぇよな……)


 流石にそれは無いと思いたいが、何が起こるのか全く予測が出来ないのがこの『3周目』の世界なのだ。

 この闇ブローカー達も以前・・には存在しなかった筈なのだから。


「200,000G!」

「205,000G!!」


「おーおー、景気の良い事で……」


 次々と高値で取引されて行く盗品。

 それらを一つ一つメモをして行くデボルグ。

 来賓客リストの横に盗品の名称を記入している所を見ると、誰の手にどの盗品が渡ったのかを報告するのだろうと予想できる。

 ていうか俺、本当に付き添いとしてドレス着て化粧させられただけなのね。

 手頃な女を金で雇うのが面倒臭かっただけかよ……。


「1,000,000G!!」


 一際大きな提示額によりわーっ! と沸く会場。

 一体今回の闇取引でどれだけの金が動くのか。

 どうせだったらこいつら全員に《緊縛》を掛けて、その金を全部奪っちまおうかな。

 元手が分からない汚い金なんだし、俺の国、金銭的にも厳しいし……。


「……問題だけは、起こすんじゃねぇぞ」


「あ、ばれた? でへへ///」


 俺の照れ笑いに溜息を吐くデボルグ。

 確かにただでさえ《氷の魔術禁書》をかっぱらって来て《ラクシャディア共和国》に目を付けられてしまったのに、《ゲヒルロハネス連邦国》にまで目を付けられたらめっちゃ怒られるだろう。

 金は欲しいが、ここに来た目的は違う。

 さっさとデボルグに借りを返して、明日早朝にでも魔術禁書と仲間の交換を――。


「お、次で最後みたいだな」


 全ての盗品が落札された後で、なにやら大きな物が目隠しをされて舞台へと運ばれている。

 なんだ?

 マジックショーでも始まるのか?


「それでは、今回の大目玉! 落札価格は30,000,000Gからお願い致します!!」


 その巨額な提示額にどよめく会場。

 最低落札価格が3000万?

 なんか珍獣でも発見したのか……?


「……恐らくは、人身売買だな。どこかの有名な御令嬢でも誘拐されたか、それとも――」


 デボルグの言葉に眉を顰める俺。

 ていうか……誘拐・・


 目隠しが取り払われた先に現れた大きな牢。

 その中に虚ろな目で佇んでいる二人の女性。

 首や手首、足首には鎖が繋がれている。


「――――え」

「おいおい、あいつらは――――」


 同時にそう呟く俺達。


「世界最強の傭兵団、《インフィニティコリドル》! その主要メンバーである女剣士二名が今回の目玉商品で御座います! そして何と! 『世界最狂』とも言われている魔剣、《咎人の断首剣クリミナルダークネス》が二本!!」


 牢の横に用意された台座には魔剣が二本――。

 何故だ――?

 何故、ここにこいつ等・・・・がいる――?


「(アルゼイン・・・・・……! セレン・・・……!!)」


 無数の傷が痛々しくそのボロボロの着衣姿に、俺は――。


「(待て、カズハ! ここで問題を起こすのはまずいって言ってるだろうが!)」


 俺の腕をがっちりと掴むデボルグ。

 しかし俺は止まらない。


「(お前は阿呆か! あれは間違い無く『束縛系』の魔法が掛けられてるだろ! ここは抑えて術者を探せ! 冷静になれ!)」


「(……デボルグ……)」


 俺達の様子に気付いたのか。

 数名の黒服らが近づいて来るのが見える。

 駄目だ。

 落ち着くんだ。

 デボルグの言うとおり、今出て行ったらあいつ等を助ける事が出来ないかも知れない。

 そもそも俺の目的は《氷の魔術禁書》と仲間の交換だった筈。

 ならばこれは罠なのか?

 何故、奴隷としてアルゼイン達が出展されているんだ――?


「35,000,000G!!」

「40,000,000G!!」


 途方も無い金額が会場に飛び交う。

 無理も無い。

 世界最強の傭兵団のメンバー二名と、世界最狂の魔剣が二本――。

 軽く『億』の額は超えてしまうのだろう。

 俺は震える拳を握り締め、何とか自身を抑えようと葛藤する。


「どうかなさいましたか? お嬢様」


 黒服の一人が俺に声を掛けて来る。

 デボルグが俺に注視している。


「い、いえ……。少し……気分が……優れなくて……」


「そうでしたか。無理もありません。貴女の様な美しい方が、奴隷売買の現場など似つかわしくもありませんからね」


「は、はい……」


 胸を押さえて深呼吸をする。

 大丈夫だ。

 運良く勘違いをしてくれている。

 ここはこのまま乗り切って――。


「貴女の様な高貴な女性と、あそこで売られているメス豚などは天と地ほどの違いがありますな。ああはなりたくは無いものですね」


「…………あ?」


「(カズハ……!)」


 俺の様子に気付き、静止しようとするデボルグ。

 しかしもう遅い。

 お前いま、なんつった――?


「おや? どうかなされまし――ぶはあっ!!」


 俺の渾身のアッパーが黒服の顎を捉える。


「やりやがった……! カズハのやつ……! くそっ!!」


 すぐさま《気魔法》を使い瞬時に消えて行くデボルグ。

 厄介事に巻き込まれない為に離脱したのか。

 奴の立場からしたらそれも仕方が無いのかもしれない。

 しかし、そんな事は今はどうでもいい。


 もう、俺は我慢しない――。


「賊だ! 捕らえろ!!」


「どけ!」


「ぎゃあああああ!!」


 周囲に群がる黒服を一蹴する。

 悲鳴が鳴り響く会場。

 俺はドレスのスカートを引きちぎり、大きく前方に跳躍しながら仲間の名を叫ぶ。


「アルゼイン!! セレン!!」


「……? カズハ、か……?」


「くく……くくく……あの馬鹿……。なんだい? あの格好は……」


 虚ろな目で俺に視線を向ける二人。

 良かった。

 ボロボロな姿だが、意識はあるようだ。

 ならば俺がやるべき事は、ただ一つ――。


「競りは中止だ! 賊を捕らえろ! 商品を渡すんじゃないぞ!!」


 瑠燕リュウヤンという男が俺に向かいそう叫ぶ。

 既に会場は阿鼻叫喚に包まれている。

 

 そして俺は彼女等に向かいこう叫んだ。



「今助けてやるからな!! 俺、今めっちゃ機嫌悪いし!! 先に謝っておくわ!!!」


















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