011 再会
《ラクシャディア共和国/和漢》
あれから丸半日。
延々と続く荒原を走り続けた俺達。
というか俺。
「マジ無理……。もう足がパンパンだよ! 温泉入りたいー! フットマッサージとかしたいー!」
宿のベッドでじたばたする俺。
ていうかフルマラソンかよ!
なんか乗り物とか無いのかよ! この世界は!
「でも本当に良いのですか? 宿代が無料なんて……」
「あー、うん。大丈夫アルよ。ここの女将さんは昔からの知り合いアルから」
「とりあえずお腹空いたー! あいつら助けんのその後でもいいだろー! もう足が痛いー!」
さっきから一人騒いでいる俺。
でも完全にスルーされている……。
ひどくね?
お前ら担いで半日も走ったのに……。
ていうか何度も言うけど、俺……王様ね。
うん。
「もう時間も遅いアルし、夕飯は軽くでいいアルよね? ルルちゃん?」
「はい。私は構いません」
「がっつり喰いたいー! 美味しい物食べたいー! 俺腹ペコー!」
「……」「……」
……凄く、凄く冷たい目で睨まれました。
少しくらい我侭言ったっていいだろ!
俺マジ疲れたんだから!
「……まったく。じゃあ、カズハの分は別に作るアルから、ルルちゃんと一緒に風呂でも入って来るといいアルよ」
「お! 流石はタオ料理長! んじゃ早速――」
「私は大丈夫です。タオのお手伝いをしますから、カズハは一人で入って来てください」
「…………うん」
やんわりと断られる俺。
そんなに俺と二人は嫌か!
いいもん!
俺、一人で入って来るもん!
ぷんぷん、だ!!
――そして一人寂しく俺は風呂に入る事に。
◇
《和漢/大浴場》
「いやマジ天国……」
誰もいない大浴場。
これぞ貸切状態。
「嗚呼……。疲れが取れますなぁ……」
満天の星空を眺めながらの露天風呂。
そして風呂上りにはタオの料理が待っている。
ついでに足でもマッサージして貰おうかな。
ルルに。
…………無理だね。
「あいつら無事かなぁ……。ちゃんと飯とか喰ってんのかなぁ……」
湯船に浮かびながらも仲間の事を考える。
レイさん達を全滅に追い込み。
そして今も捕虜として捕らえている人物――。
世界一強い筈の傭兵団の主要メンバーを全員捕らえるなんて事が、本当に可能なのだろうか?
何かの束縛系の魔法で拘束でもしているのか?
それとも――。
「俺でも全員いっぺんに捕まえるとかは無理なんじゃないかな……」
となると複数での犯行か?
それとも俺以上に強い奴がこの『3周目の異世界』に存在するのか――。
うーん。
イメージ湧かないな、それ……。
精霊王は復活した訳では無い。
ルルは自信を持ってそう答えている。
となると心当たりがあるやつ等は――。
むにゅ――。
「ひっ!?」
いきなり背後から胸を掴まれ悲鳴を上げる俺。
誰だ――?
「よう。相変わらずやらけーな。他の部分は硬いくせに」
「な、ななな、なななな……!!」
背後から聞こえた声に驚愕する俺。
この声は――。
「デボ――」
「おっと。声は上げないでくれるか、カズハ」
そのまま口を手で押さえられる。
でももう片方の手はそのままの形に。
「(おい! デボルグ! 何でお前がこんな所にいるんだよ!)」
口を押さえられながらも声の主――デボルグ・ハザードにそう問い詰める俺。
ていうかどこ触ってんだよ!
ここ風呂場!
お前は相変わらずの変質者か!
「(まあまあ、そうカリカリなさんなって。せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ)」
「(うるせぇ! 手ぇ離せよ! くすぐってぇんだよ!)」
「(ちぇ、つまんねぇ奴……)」
大人しく俺を解放するデボルグ。
というかここにこいつがいるという事は――。
「(ああ、ユウリ達はいねぇぞ。俺は別件で個別に動いているからな)」
「(別件?)」
俺の心を読んだのか。
というか少しニヤニヤしながらユウリの名を出したのが気になる……。
なんだろう、このソワソワした感じ。
凄く嫌だ……。
「(場所を変えようぜ。流石にここじゃまずい)」
「(なら《気魔法》を使って風呂場に瞬間移動してくんじゃねぇよ! 出てくるまで外で待ってろよ!)」
「(はあ? お前は馬鹿か? そしたらお前の裸が見れないし触れねぇじゃねえか)」
「馬鹿はお前だあああああああああああああああ!!」
つい顔を真っ赤にして大声を出してしまう俺。
何事かと駆けつけて来る足音が聞こえて来る。
「ちっ、阿呆め」
「ちょ、おい!」
そのまままた俺に抱きついたデボルグは詠唱を始める。
まさか――。
「――――」
一瞬の眩暈。
そして目を開いた瞬間――。
「あぶねぇあぶねぇ……。もう少しで見付かっちまう所だったぜ……」
「へくしっ! ……って外じゃねぇかよ! お前、俺ごと瞬間移動しやがったな! ……へくしっ!」
露天風呂から少し離れた、武器倉庫の様な場所に瞬間移動した俺とデボルグ。
窓の隙間からは温泉宿の湯気が見える。
「ほらよ」
ぽいっと布の様なものを手渡してくるデボルグ。
恐らくはその辺に干してあった物だろう。
ジト目で睨みつけた俺はそれを受け取り身体の水分を拭い取る。
風邪引いたら恨むぞお前……。
「……」
「? どうした? 変な顔して?」
「てかお前か! 誘拐犯は!」
「はあ? 誘拐犯? なんじゃそら」
「しらばっくれんじゃねぇよ! 『お前』じゃないなら『お前等』だ! 何を企んでいる? 仲間を返しやがれこの変態!」
俺が考えていた可能性の一つ。
ユウリ率いる傭兵団が誘拐犯であるという可能性。
こいつ等だったら実力は申し分ない筈。
しかし――。
「……なるほど。世界最強の傭兵団である《インフィニティコリドル》のメンバーが誘拐、か……。くくく、何だそれ……! クソ面白い事になってるじゃねぇかよ……!」
腹を抱えて笑うデボルグ。
こいつ等じゃ無い――?
それは本当の事なのか?
「……お前等じゃ無いっていう証拠はあんのかよ」
「証拠? はっ、そんなモンねぇよ。第一、俺らがお前等《インフィニティコリドル》を誘拐して何の得があるんだ? 身代金か? それだったらもっと金を持っていそうな奴を誘拐するぜ」
「それは――」
確かにそうなのだが、これはただの誘拐では無い。
世界を滅ぼすとまで言われている《魔術禁書》と仲間の交換なのだ。
デボルグは嘘を言っている様には見えない――。
という事は《魔術禁書》の事も、何も知らない――?
「くく、こりゃとんでもない情報を手に入れちまったなぁ……! 最近音沙汰が無いとは思っていたが、まさか『誘拐』とは……! くく、マジで笑えるぜ……!」
「……それぐらいにしておけよ」
先程から笑い転げているデボルグに睨みを利かす俺。
一瞬のうちに空気が変わる。
「……へぇ。仲間の事になると、そこまで残虐な『闘気』を纏えるのか……。闘技大会の比じゃねぇな、カズハ」
少しも臆さないデボルグ。
俺はふぅ、と大きく息を吐き殺気を鎮める。
ちょっとマジになりすぎたか……。
「……良く分かった。お前等じゃ無いのなら、それでいい。で、どうしたら黙っていてくれる?」
「ほう?」
下から出た俺を興味深そうに見つめるデボルグ。
頭の先から足の先まで。
なんか知らんが鳥肌が立ってきたし……。
「……まあ、今回はやめておこうか」
「?」
「いや、こっちの話だ。ならばカズハに頼みがある。さっきも言っただろう? 俺は『別件』で動いているって」
何か今、凄いことを言われそうな気がしたが、俺の気のせいだろう。
全身にこれでもかと鳥肌が立ってるし……。
早く服を着たい……。
「俺にも時間が無いんだ。今夜中しか手伝えないが、それでも良いか?」
「ああ。ちょうど『相棒』がいないと駄目だったからな。助かるぜ」
……『相棒』?
一体何をするつもりなんだ……?
そう――。
この時の俺は、想像もしていなかったんだ――。
――まさか、『あんな事』をさせられるなんて。




