009 死闘
『グルルルル……』
「はいはい。涎垂らしながら唸らない唸らない」
演習場に降り立った俺と《氷の神獣》。
予想通り人っ子一人いない。
これくらい広い場所だったらなんとかなるだろ。
俺は剛炎剣を構える。
「来いよ。俺の力量を試したいんだろう? 主と認められる程の力を宿しているのかどうかを」
『グオオオオオオン!!』
言い終わるか終わらないかのタイミングで《氷の神獣》が物凄いスピードで突進してきた。
相変わらずのスピードだな。
最強装備じゃない今の俺にしたら、本気で戦わないとやばいレベルだ。
「《ツーエッジソード》」
ギリギリの間合いで突進を避けた俺は二刀流スキルを発動。
これで攻撃力は2倍。
「《弐乗》」
間髪入れずに陰魔法を発動。
2倍に上がった攻撃力を二乗し、これで攻撃力は4倍。
さて、問題は――。
『ガアアアア!!』
「いっ!?」
振り向き様に口から馬鹿でかい氷塊を発射してきた《氷の神獣》。
咄嗟に剛炎剣で防御する俺。
「やっべ! 防御しちった!」
剛炎剣ごと俺の両手が凍り付く。
こいつの攻撃の厄介な所は、少しでも触れてしまうとたちまち凍り付いてしまう所にある。
前回もこれでだいぶ苦戦したんだった……。
「ええと、スイッチスイッチ……」
何とか指先だけでもと剛炎剣のスイッチをまさぐる俺。
ちべたい。
指が悴んで動かない。
ていうか凍ってて動かない。
『グオオオオオオン!!』
「ちょっとタンマ! くっそ、動け指……!」
再度突進して来る《氷の神獣》。
俺は渾身の力を指先に込め――。
「届いた……! そらよ!」
ゴオオオオ!!
剛炎剣から放たれた業火が氷を溶かして行く。
そして間一髪、突進を避ける俺。
あぶねぇ……。
凍りつかせて突進ダメージを与えて、そのまま内部破壊っていうのがこいつの攻撃パターンの1つだ。
下手したら一瞬であの世行き。
「くっそ……。火魔法が使えりゃ、もうちょっとマシに戦えるのに……」
『グルルルル……』
今のところ火炎放射しか使い道の無い剛炎剣では、《氷の神獣》には太刀打ち出来ない。
動きもすばやいから、いくら攻撃力だけを上げてもこのクソ重い剣で攻撃を当てることは至難の業だ。
どうしよう。
陰魔法と体術のみで戦うか?
でも確かこいつは『魔法耐性値』もかなり高かったはず。
陰魔法はそのほとんどが『束縛系』に分類されるから《氷の神獣》に効果があるものは非常に少ない。
《緊縛》だって当然効かないし《鎖錠》や《奈落》も効果が無い。
となると、やはりこいつの唯一の弱点属性である《火》で戦うしか無いという事だ。
「何か他に無いのか……? 本当に火炎放射だけかよ……。この剛炎剣は……」
かっちゃかっちゃとボタンを押しては火炎放射を撒き散らし、思案する俺。
当然その間も《氷の神獣》は氷塊攻撃や突進攻撃を繰り返して来る。
そろそろ対応しないと、あのとんでもない《氷魔法》を唱えてきやがるから早く何とかしないと――。
カチャン――。
「ん? あれ……。何か親指が入る所の奥に、もう一個ボタンみたいなのが……」
色々と弄っていたら新たなボタンを発見する俺。
なんだろう。
何か中途半端に剣がずれた様な……。
「まさか……」
俺は剛炎剣を持ち直し、対照の位置にある窪みに親指を入れる。
案の定、奥の方に同じ様なボタンの感触を親指に感じた。
おいおい……ゼギウス。
こういう事かよ。
この剣がクソ重い理由はよ……!
ガチャン――。
『ガアアアアアアア!!』
ボタンを押したと同時に特大の氷塊が俺を襲う。
しかし俺はそれを避けない。
もう、避ける必要が無い――。
「おりゃあああああああああああ!!」
咆哮と共に剛炎剣を振るう。
炎を纏った剣は氷塊を十字に切り裂き破壊する。
そう、十字に。
両手には炎を纏った剣が二本。
重いのは確かだが、それをカバーできるほどの『熟練度』が今の俺にはある。
既に二刀流スキルをマスターしている俺には。
「『炎の剣の二刀流』か……。ゼギウスじいさんめ……。奇作過ぎるだろうこれ……」
しかも全く同じ剣が二本という訳では無い。
恐らくは元々別の剣を鍛冶により一本に繋いだ『変則剣』なのだろう。
たぶん、右手に持つ刃の広い片手剣が『剛剣ドルグ』。
左手に持つ少し細めの片手剣が『炎剣ドグマ』か。
足して『剛炎剣ドルグドグマ』。
あのじいさんが考えそうなネーミングだな。
『グルルルル……』
「やっぱ俺、まだまだ大剣の熟練度は低いんだな……。建国してからはずっとサボってたし、自業自得って事か……」
それぞれの剣を振り感触を確かめる。
この掌にしっかりとフィットする感じ。
うん。
もう負ける気がしない。
「悪ぃな、《氷の神獣》。ちょっと時間が無いからちゃちゃっと終わらせ――」
素振りを終えた俺は《氷の神獣》を振り返り言葉を止める。
『……௧ஊ௩௪௫ ௯௰௱கஅ
உஔகட ணதநன ௩௪௫௬௭
ஆஇஈஉ ஊஎஏ கஙசஜ ஞதநன
ப௭௮க ஙசஜரலள……』
「《氷の禁術》……! やべえ……!!」
俺は地面を蹴り《氷の神獣》へと突進する。
あれを発動されたら多分、この街は消滅する――。
「《スライドカッター》!」
そのまま右手の剛剣で片手剣スキルを発動。
しかし《氷の神獣》の全身を覆っている幾何学模様の魔法陣に弾かれる。
「まだまだ! 《アクセルブレード》! 《ダブルセイバー》! 《ライジングソード》!!」
連続で片手剣スキル、二刀流スキルを駆使し魔法陣に攻撃を仕掛ける。
詠唱が終えるのが先か。
魔法陣を崩すのが先か。
「もっと……もっと速く繰り出せる筈だ……! 俺の『二刀流』はこんなモンじゃねぇ……!!」
無心で乱舞を繰り出す。
俺の全身が炎に包まれて行く。
『ググ……』
《氷の神獣》が怯みかけている。
そして徐々に魔法陣にヒビが――。
「うおおおおおおおおおお!」
パリン、という音ともに崩れ去る魔法陣。
しかし俺は手を止めない。
そのまま乱舞を《氷の神獣》の首、胴体、足へと叩き込んで行く。
『ググ……グググ……!』
全身が鋼の様に硬い《氷の神獣》だが、流石に俺の乱舞には耐えられないのだろう。
超至近距離からの特大の氷塊を発射しようとし――。
『!!』
発射と同時に空高く飛び上がった俺は――。
「これで終わりだああああああああああああ!!!」
二刀を一つに合わせ――。
――渾身の力で振り下ろした。




