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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず取引することでした。

「そこまでっ! 勝者、カズハ・アックスプラント!!」


「どうもー」


 試合を終え、俺は待合室に備えられているシャワー室で汗を流すことにしました。

 エーテルクランに滞在してから、すでに十日が過ぎちゃったんだけど……。

 今現在の対戦成績は91勝24敗。

 やっぱアルゼイン以外はザコばかりで、正直飽きてきたよ。

 ていうか手加減ってかなり疲れるんだね。

 どうしよう。もうおうちに帰ろうかな……。 


「これ以上縛りようもないし、手加減してるのに変に目立っちまうし……。優勝するのは簡単なんだけど、それだと俺の計画が――」


「へぇ。優勝するのが簡単、ねぇ」


「うん。だって前回だって手を抜いてて六位に入賞したし、あの褐色ボインみたいなのに当たらなければ、今の縛りのままでも余裕で優勝……ん?」


 あれ……? 今、俺は誰と話して――?


「詳しく聞かせてもらおうかねぇ。カズハ・アックスプラント」


「褐色ボインっ!?!?」


 急にシャワー室のカーテンが開いたかと思えば、そこには全裸の女が立っておりました。

 あまりにもデカい胸を隠しもせず、健康的に焼けた肌は熱を帯びていて、そりゃもう世の男性陣はノックアウト寸前みたいな状況ですね。

 ……うん。

 呑気に解説している場合じゃないっ!!!


「アルゼイン……!! なんでお前がここに――」


ぷにゅん。


 慌てて手を突き出したら、思いっきり巨乳に手がめり込んでしまいました。

 それにも関わらずアルゼインは動揺することなく、軽く溜息を吐いて再び俺に視線を向けます。


「何でって……。ここはシャワー室だろう? 試合を終えて汗を流そうと思ったら、中から声が聞こえてきて、誰かと思えばあんたじゃないか。別に立ち聞きするつもりはなかったけど、あんたは独り言が大きいからねぇ。聞かれてマズいことをブツブツ言うほうが悪いと思わないかい?」


「……はい。一つも言い返せません……」


 完全に論破された俺はその場で膝から崩れ落ちました。

 

「それよりも、今の話は何だい? 『前回は手を抜いて六位』? 縛りっていうのは、やっぱりあのツヴァイハンダーにも仕掛けがあったんだねぇ。あんたの『計画』っていうのは、闘技大会で優勝するよりも重要なことなのかい?」


 崩れ落ちた俺を見下ろしたままアルゼインは追撃を仕掛けてくる。

 こいつ……完全なるドSだ……!

 容赦ねぇなぁ……!


「……その、俺って妄想癖があってですね。たまに変なことを口走るというか」


 こうなったら変人扱いされても構わん!

 どうにかしてこの窮地から抜け出さなければ!


「あたいの目は誤魔化せないよ。あんたは強い。それぐらい剣を交えたら分かるさ。さあ、正直に白状しな」


 褐色ボインが俺を立たせ、真っ直ぐに目を見つめてくる。

 へー、瞳の色はちょっとだけ緑が入ってるね。珍しい。

 ……とか、そんなこと考えている場合じゃない!


「やめて! 誰か……誰か助けてー!」


 こうなったら警備さんを呼ぶしかない!

 こいつを気絶させて逃げるのは簡単だけど、それだとさらに俺の力を疑うだろう。

 もうこれ以上目立つのは断固阻止せねば……!


「白状しないのなら……こうだ!」


「うおっぷ!?」


 アルゼインは騒ぐ俺の口ごと自身の胸に埋めた。

 息が……! 息ができない……!

 やわらかい! あったかい!


「ほらほら、どうした。これでも言わないかい? 言わないのなら、もっと凄いことをするよ……!」


「もご! もごご!」


「大丈夫ですか! 悲鳴が聞こえたのですが、何か事件でも――」


 シャワー室の扉が開き、警備さんらしき数名の足音が聞こえた。

 アルゼインの胸に埋もれてる俺にはまったく見えないが、何故か静まり返るシャワー室。

 どうしたの! 早く俺をこいつから解放してくれ!

 そして警備兵は一斉にこう叫んだのだ。


「「「………………ありがとうございます!!」」」


 ……おい。

 




 街外れにある鍛冶屋。

 そこで深く溜息を吐く髭の爺さん。


「まったく……。いらん騒ぎを起こしおって……」


 茶を淹れ直したゼギウスは俺の横に座った。

 俺は木のテーブルに全身を預けたままうな垂れている。


 あの後、シャワー室は大変なことになりました。

 駆けつけた警備兵が組み合う俺とアルゼインの全裸を見て歓喜の叫びを漏らし。

 そのまま敬礼のポーズで鼻血を噴き出し気絶するっていう……。

 この世界には馬鹿しかいないのか。


「くっくっく……。まさかカズハがじじいの知り合いだったなんてねぇ」


 ゼギウスの淹れた茶を旨そうに飲むアルゼイン。

 お前のせいだからな!

 俺は何一つ悪くないからな!


「笑い事では無いわい。警備兵を四人も負傷させおって……。ワシがいなければ、二人とも留置所送りだったのじゃぞ」


 俺とアルゼインの身元引受人になってくれたゼギウス。

 ていうかあの警備兵たちが勝手に鼻血出して気を失ったのを説明するのに、すごい苦労したんだけどね!

 まあ奴らのうちの一人がすぐに目を覚まして、証人になってくれたから助かったけど……。


「ふん、一応礼は言っておくけど、それよりもカズハのことだ。こいつは一体何者だい? じじいなら知っているんだろう?」


 さっきからゼギウスをじじい呼ばわりするアルゼイン。

 この二人が一体いつ知り合ったのかは知らないけど、まあ興味もないしどうでもいい。

 

「ふむ……」


 髭を弄り考え込んでしまったゼギウス。

 もう誤魔化せそうにもない……。

 爺さんとも知り合いみたいだし、話してもいいかなぁ……。


「本人から直接聞いたほうが良いじゃろう。カズハ。こやつは口は悪いが信頼できる奴じゃ。どうじゃ? 話してみんか?」


「……」


 確かにゼギウスの言うとおりだ。

 ていうかあまり敵に回したくないタイプだし、事情を説明しないとこのまま付きまとわれる可能性もある。


「ほら。じじいもこう言ってるんだし、さっさと吐きな」


 テーブルに伏したままの俺の後頭部に巨乳を押し付けるアルゼイン。

 重い。鼻が潰れるからやめて。

 というわけで、アルゼインに洗いざらい説明することにしましたー。


 ――10分後。

 

「カズハが過去に二回も世界を救った『勇者』……。この世界がループしていて、お前は三度目の人生を歩んでいる……」


 険しい顔で考え込んでしまったアルゼイン。

 まあ信じろっていうほうが無理だよな。

 だから言いたくなかったんだけど……。


「その二本の剣が証明じゃ。勇者の剣と魔王の剣――。ワシもこれを見せつけられたら信じんわけにはいかんからな」


 爺さんが助け舟を出してくれる。

 アルゼインは二本の剣を手に取り、光に翳して眺めていた。


「……勇者の弱点属性は『光』と『闇』であることは有名な話だ。そしてカズハ自身の持つ力……。これだけ揃えばカズハの妄言とは言い難いねぇ」


「納得したんならもう帰ってください。お前と関わるとロクなことがないから」


「へぇ……? このままあたいを帰しちゃってもいいのかい? こんなおいしいネタ、放っておくと思っているほど甘ちゃんだったとはねぇ」


 ニヤリと笑ったアルゼイン。

 その顔があまりにもドS顔で俺は鳥肌が立っちゃいました。


「おいゼギウス! どこが『信頼できる奴』だよ! いきなり強請られちゃったよ!」


「ふむ……。もしかしたらカズハの良き仲間になってくれると思ったのじゃが……。ワシも歳をとったかのぅ。ふぉっふぉっふぉ」


「笑ってる場合か! このボケじじいが!」


 どうしてこう、俺の周りは馬鹿ばっかりなんだよ!

 どうするんだよ、俺の計画!

 名付けて『なるべく目立たないようにしながらある程度の実力を示せるくらいの知名度を得つつ金持ちに取り入って傭兵として雇ってもらって金貯めて国作っちゃうおうぜがっはっは』計画を……!!


「ふふ、だからあたいと取引をしないかい?」


「……取引?」


 ほーら、さっそく始まった。言わんこっちゃない。

 金よこせとか言われても断固拒否するからね。

 ていうか爺さんに請求書を渡すから。

 ちゃんと責任取ってよね。

 俺は知らん。




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