006 交換条件
《ラクシャディア共和国/古代都市アムゼリア》
ラクシャディア共和国の中でも一番歴史の古い街であり。
この国の中心地でもある《古代都市アムゼリア》。
この街のシンボルとも言える建物は5つ。
街の中央に位置する《古代図書館》。
北に位置する《アムゼリア教会》。
南に位置する《古代博物館》。
西に位置する《月の秒針》。
そして東に位置する《議事堂》。
俺達は街に到着するや否や、東に位置する議事堂へと急ぎ足で歩を進める。
「宰相さんは官邸にいるアルか?」
「ああ! さっきアムゼリアの兵士に伝えたから、すぐに通してくれるってよ!」
「カズハ……。恥ずかしいのでそろそろ降ろしてもらえませんか……」
俺の頭上で幼女が呻く。
ルルの歩調に合わせてたら、いつまで経っても首都に到着しないと考えた俺は、強制的にルルを肩車しランニングする事に決定。
タオは自身に《速度上昇》をエンチャントしているから、俺のスピードに付いて来られている。
「もう着くから我慢しろ!」
「でも……。さっきから街の住人が私の事を……」
「お母さんに遊んで貰っている子供の様に見えるのかも知れないアルねぇ」
「誰がお母さんだよ!」「誰が子供ですか!」
「はいはいアル」
ヤレヤレといった表情で俺に付いてくるタオ。
もう何度も何度も同じ様なやり取りで呆れているのだろう。
でも『お母さん』は酷くないか!
何度も言って申し訳ないけど!
議事堂の裏にある宰相官邸に到着する俺達。
入り口にいる兵士に声を掛けると、表情を変え敬礼の姿勢になる。
まあ、一応王様だし、俺。
「はぁ……。ようやく降ろして貰えました……」
スカートをパンパンしながらも溜息を吐く幼女。
兵士にも『カズハ様にお子様がいらっしゃったとは……』とか言われて、テンプレ通りに否定する俺達だったのは言うまでも無く――。
◇
《宰相官邸最上階/特別応接室》
「おお! お待ちしておりましたぞ! アックスプラント女王陛下!」
さっそくお出迎えしてくれた宰相のおっさん。
いつもながらにおでこが脂ぎってるけど、今はそれどころでは無い。
「社交辞令はいいから! どういう事か説明してくれ! おっさん!」
「おっさん……。こほん、良いでしょう。とりあえずはそちらにお掛けになって下さい」
興奮している俺を宥めるようにそう言う宰相のおっさん。
確かに今更焦っても仕方が無いのだが、何となく落ち着かない。
「カズハ。一国の女王がそれではみっともないですよ」
「う……」
「とりあえず座ってお茶を頂くアルよ……。もう喉がカラカラアル……」
「分かったよ……」
豪勢なソファーに腰を下ろす俺達3人。
3人のメイドがそれぞれにお茶を用意してくれる。
そのメイド姿が普段のレイさんの姿と重なってしまって、余計にソワソワしてしまう俺。
「……では、お話しましょう。少し長くなるが、宜しいかな? 女王陛下――――」
◇
「『弓』、『扇』、『刀』、『爪』……。何アルか……? その聞いたことも無いものは……」
宰相が俺達に伝えた内容の1つ。
重要文化財の1つでもある『四宝』。
「……聞いた事があります。確か《精魔戦争》の時代に活躍した神器では無かったでしょうか」
「おや、お嬢さん。よくご存知ですな」
数千年もの間、この世界で続いたと言われている《精霊族》と《魔族》の戦争。
当時は魔族が勝利を飾り、精霊族を率いていた《精霊王》は聖杯に封印され。
そしてこの土地の地下深くに封印されたのだ。
(やっぱり『精霊王』絡みなんじゃないか……?)
俺の表情を察したのか。
ルルは静かに首を振る。
ここまで来ても『精霊王』の気配は全く感じないという事か。
「ていうかそんな事よりも、レイさん達の安否の方を――」
「まあ、待ちなされ。女王陛下。この『四宝』と陛下の直属部隊である《インフィニティコリドル》の全滅は関連性がありますので……」
『全滅』という言葉に、俺の心は締め付けられる。
この宰相のおっさんからしたら、自分の部下が全滅したくらいで何を慌てているんだか、とか思っているのかも知れないが。
恥ずかしいけれど、あいつらは俺にとって――。
「……家族アル」
「? 何か仰いましたかな?」
「直属部隊とかじゃ無いって言っているアル! 家族アルよ! レイやアルゼインやセレンや……! グラハムやリリィ達は……!」
「タオ……」
俺の言葉を代弁し、そう言い放つタオ。
家族……。
この世界で俺が求めていたものは――?
「……失礼致しました。少し言葉が足りなかった様ですな」
素直に謝罪をする宰相。
「彼女等は無事なのですか?」
先を促すルル。
そうだ。
まずはレイさん達が生きているのかどうかの確認が先だ。
「……これを」
宰相が懐から取り出した一通の封書。
宛名は……俺?
「《インフィニティコリドル》の任務失敗の知らせと同時に、《魔法便》で送られてきた物です。直接お渡しした方が良いかと思いましてな」
「なんて書いてあるアルか?」
宰相から封書を受け取り、中を確認する俺達。
そこにはこう記されていた。
====================
最愛の女王様へ
貴女の仲間と四宝は預からせていただきました
交換条件はただ一つ
この世界の何処かに存在すると言われている『魔術禁書』
これらを3つ用意し、指定する場所まで運んで欲しいのです
用意する魔術禁書は《氷の魔術禁書》、《闇の魔術禁書》、そして《気の魔術禁書》です
貴女ならば何処に存在するのかを知っている筈です
まずは《氷の魔術禁書》を用意し、ラクシャディア共和国の最南端に位置する盗賊の街《和漢》までお持ち下さい
そこで待つ二人の剣士を貴女様にお返ししましょう
貴女を愛する者より
====================
「これは……」
ルルが書面を読み驚愕する。
「《魔術禁書》を用意しろ……? しかもどうして私の故郷の《和漢》アルか……?」
タオがルルに続く。
「女王陛下。非常にお聞きし難い事なのですが、陛下は『世界を滅ぼす』とまで言われている禁断の書物、《魔術禁書》の在り処をご存知なのですか?」
宰相が鋭い視線を俺に向けそう話す。
しかし、俺は今、そんな話はどうでもいい。
何故なら――。
「く……くくく……」
「? カズハ?」
俺の様子がおかしいことに気付いたのか。
タオがそっと声を掛ける。
「どうしたのですか、カズハ……」
「え? くくく……! だってよ……! 生きてんじゃん! あいつ等!」
俺はソファーから立ち上がる。
なんだよ。
みんな死んじまったと思っちゃったよ……!
すげぇすげぇ落ち込んでたんだよ実はよ……!
「誘拐? 何だよあいつ等だらしねぇなぁ……! 魔術禁書だぁ? そんなん幾らでも集めてやるっつうの!」
「女王陛下……! 何を仰るのですか貴女は……! 《魔術禁書》はたった一冊でもこの世を滅ぼす程の力を宿していると言われているのですよ! そんなものを賊に渡したりでもしたら……!」
「だから?」
「は?」
「それ以上に大切な者を救う為に、魔術禁書を渡したら駄目だっていうの? 宰相のおっさんは」
「いや……しかし……!」
世界を滅ぼす程の力?
だから何だよ。
俺にとったらそんなモンよりも、もっと大切なものがあるんだよ。
なぁんだ。
じゃあちゃっちゃと《氷の魔術禁書》をかっぱらって、仲間と交換してもらおう。
「カズハ……。貴女は本当に……?」
「大丈夫だよルル。あいつ等が生きてるんだったら、上手い事やって人質と交換するさ。最悪《魔術禁書》を渡しちまっても、すぐに取り返せば良いんだし」
「何だかもう話が大きすぎて何がなにやらアルよぅ……。うぅ……。頭が痛いアル……」
顔面蒼白になりながらも頭を抱えてしまうタオ。
だから大丈夫だって!
なんか俺、急に元気が出てきた!
「……で、宰相のおっさん」
「……」
「その顔は分かってんだろう? 《月の秒針》の最上階に隠してある氷の魔術禁書。渡してくれるよな?」
「!!!」
12種類ある全ての《魔術禁書》の在り処を知っている訳では無い。
でも指定された3つの《魔術禁書》ならば、場所は分かっている。
問題は――。
「……何処で情報が漏れたのかは知りませんが……。私が女王陛下にお渡しするとでもお思いか?」
いつの間にか兵士達が俺達の座っているソファを取り囲んでいる。
まあ、そうなるわな。
世界の危機なんだし。
それだけの代物だって事も、分かっている。
「思ってねぇよ。だから――――《隠密》!」
「なっ――」
陰魔法の《隠密》を使用し、途端に半透明になる俺。
「あっ! ちょっとカズハ!」「何するアルか!」
両脇に座っていたルルとタオを、その名の通り両脇に抱える。
俺と同じく半透明になる2人。
「逃がすな! 陽魔法の《凝視》を使える兵士は女王陛下一味を発見し捕らえろ!」
宰相のおっさんの叫び声が応接室に木霊する。
「(タオ! 付与魔法頼むぜ!)」
「(まったくもう……! ラクシャディア共和国を敵に回したりなんかして……! 知らないアルよ私は……!)」
タオの《速度上昇》により途端に身体が軽くなる俺。
目指すは《月の秒針》。
「(滅茶苦茶です……。ここまで馬鹿だったとは知りませんでしたよ……)」
馬鹿言うな。
これ以外に方法が無いんだから仕方ないだろうがよ!
後で全部解決したら『ごめんなちゃい』って言えば許してくれるよ!
たぶん!
「・・・・・・・・・・・・!!!!」
「・・・・・・・・・!!!!!」
宰相官邸は大騒ぎ。
もう、後には引けない。
待っていろよ皆。
絶対に助けてやるからな。
(誰だか知らねぇが……俺を敵に回す奴は絶対に許さねぇ……!)
俺は静かに決意する。




