005 剛炎剣ドルグドグマ
次の日の早朝。
俺達は港町リンドンブルグから南に向かい《古代都市アムゼリア》へと向かう道中にいる。
ここら辺のモンスターはアゼルライムス帝国やアックスプラント王国周辺のモンスターよりも、一際強いやつ等が出現するのだ。
前回とは違い、今回は3人での旅だ。
当然俺は大丈夫なのだが、ルルとタオはそうは行かないだろう。
守らなくちゃ。
俺が先頭に立って、こいつらを。
「んしょっと」
前方にはオーガの様なモンスターが数十匹、涎を垂らしながらもこちらを警戒しているのが見える。
動きは遅いが、とにかく硬いモンスター。
俺は背に背負った新しい『相棒』を抜く。
「相変わらず強そうなモンスターがウジャウジャといるアルよね……」
ルルを背後に守りながらも、自身の得物である《短刃拳》をぎゅっと握り締めるタオ。
「いつも悪いですねタオ……。カズハがさっさとこの《緊縛》を解除してくれれば、私も自分で戦えるのですが」
「それはもう、諦めるしかないアルよ……。変態のカズハに捕まった時点で、私達は運命共同体アルから……」
「聞こえてるよ! お前ら! 誰が変態だよ誰が!」
後ろでこそこそ俺の悪口を言う2人に唾を飛ばしながらも反論する俺。
その拍子にクソ重い《剛炎剣ドルグドグマ》を落としそうになる。
なんでゼギウスじいさんはこんなに重い剣を作ったんだよ……。
俺に対する嫌味か?
もしかしてわざとこんなに重くしたとか?
『グルルルル……』
「余所見をしていないで、さっさとやっつけて下さいカズハ」
「…………はい」
幼女に強く言われ、俺は仕方なく剛炎剣を構える。
「……あ、そうだ。タオ? お前、武器に付与魔法を掛ける事が出来たよな? たしか風魔法の《速度上昇》ってやつ」
「え? ああ、出来るアルよ」
「このクソ重いドグマちゃんにも掛けてくれよ」
「嫌アル」
「なんで!?」
「カズハに掛けたら私の《短刃拳》には掛けられなくなっちゃうアル。そうなったらいざと言う時にルルちゃんを守れなくなっちゃうかも知れないアル。《付与魔法》は便利な魔法アルけれど、一度に一人しか効果を付加出来ないアルよ。なんでそんな基本的な事も知らないアルか」
「タオ。カズハは馬鹿だからですよ。それ以外に理由はありません」
「ひどい!」
どうしてこんなに強く言われないといけないのだ俺は……。
王様なのに……。
ていうか付与魔法の制限については確かに知らなかったけど……。
リリィの授業で習ったはずだが、ほとんど居眠りしてたから聞いてないし。
「くっそぅ……。なんかストレス溜まって来たぞ……! 暴れてやる! チクショウ!!」
そのまま涙を拭くことも無く、俺はオーガの群れに突進する。
《剛炎剣ドルグドグマ》。
お前の性能、試させてもらうぜ……!
◇
「うおりゃあああああああああああああ!!」
『グアアアアアア!!』
手前にいたオーガのうちの一匹に剛炎剣を力一杯に振り下ろす。
重い。
ホント無駄に重い。
人間の身長ほどもある巨大なこん棒ごと真っ二つにする俺。
切れ味はまあまあかな。
でも思いっきり地面に突き刺さっちまって、いちいち抜くのが大変なんですけど……。
『グルルルル……!』
「あ、ちょっと待って。抜けない。思いっきり地面にめり込んじゃって抜けない」
うーん、うーん、と引っ張ってみるものの。
刀身の半分くらいは地面にめり込んじゃって、なかなか抜けない。
なにこれ使いにくい……。
「なにやっているアルかカズハ! 囲まれているアルよ!」
遠くからタオの叫び声が聞こえて来る。
いやだって抜けないんだし、俺にどうしろと……。
『グオオオオオオ!!』
俺のすぐ背後でオーガの雄叫びが聞こえる。
大きくこん棒を振りかぶったオーガは、今にも俺の脳天に振り下ろしそうな勢い。
「うーん、うーん……! あ、抜けた」
ズバン――!
地面から抜けた勢いで、そのまま背後に剛炎剣を振り抜く俺。
またもやこん棒ごと真っ二つになるオーガ。
そしてまたそのまま地面に突き刺さる剛炎剣。
「……なんてデタラメな強さなのでしょうか……」
「……相変わらず適当アルよね……カズハの戦い方って……」
「聞こえてるっつうの! 仕方ないだろうが! これマジで重いんだって! あ! また抜けない!」
これじゃあ動きの早いモンスターには対抗できないだろう。
オーガで良かったよホント……。
俺の《筋力》と剛炎剣の《攻撃力》でほぼ一撃で倒せるし。
当たらなきゃ意味が無いんだろうけど。
『グルルルル……!』
その後もオーガ共に囲まれながらも、何とか重い剣を振り回し駆逐する事に成功。
俺の周囲は穴ぼこだらけ。
なんか土木作業員にでもなった気分……。
「ふぃー。いやマジ働いた感がすげぇ……!」
額の汗を拭きながら、タオが用意してくれた水筒のお茶を飲み干す。
うん。
結論から言うと――。
――すごく使い辛いです。《剛炎剣ドルグドグマ》。
どうしようこれ。
返品するか。ゼギウスじいさんに。
「ある意味とんでもない武器アルけど……。あのゼギウスさんが作ったにしては、扱いが難し過ぎないアルか?」
「確かにそうですね。何かゼギウスから聞いてはいないのですか、カズハ?」
安全を確認したタオとルルが俺に近づき、そう聞いて来る。
「うん。俺がじいさんに頼んだのは『火属性を付加させた大剣』ってだけだったし……。ていうか火なんてどこからも出てなかったけど……」
どういう事なんだろう。
俺の持っている剣スキルでも、火属性のものなんて無かったし……。
敵を倒していけば覚えるって事なのかな……。
「ん? 何アルか? これ」
タオが剛炎剣の柄の上部にある紋章を指す。
その紋章の中に、ちょうど親指と人差し指が入りそうなくらいの、小さな窪みが――。
「何かボタンみたいなものが……? えい」
ゴオオオオオオ!!
「あちぃ! なにしてんの! タオ!」
いきなり剛炎剣から業火が飛び出し尻餅を付く俺。
ちょっと前髪燃えたし……。
「あー、分かったアル。これをこう押すと――」
ゴオオオオオオ!!
「やめろっつうの! こっちに向けんなよ! 火炎放射器かよ! ていうかわざとやってんだろお前!」
「私にもやらせて下さい、タオ」
「あ、良いアルけど、重いから地面に置いて、剣の先端をカズハに向けてから押すアルよ」
「だから俺に向けるなっつうの! お前らは鬼か!!」
ゴオオオオ!!
「熱い!!」
「面白いカラクリですね。ゼギウスの『奇作』という事なのでしょうか」
ゴオオオオ!!
「熱い!! 焦げてる!! 俺が!!」
「でも、あのゼギウスさんの作ったものアルから……。単に剣から炎が出るだけじゃ無いとは思うアルけど……」
ゴオオオオ!!
「お前ら……!!」
逃げ惑う俺に対し、剛炎剣の先端を向けながら、火炎放射を楽しむルルとタオ。
なにしてんのマジで!
「でもこれがあれば当分は火の心配はしなくても良いアルよね。カズハが火魔法を使えなくなってから、野宿の時にいちいち火を熾さないといけなかったアルし」
「そうですね。これだけ火力があれば、タオの得意な中華なべでの料理も、外で食べられるという事ですし」
「お♪ じゃあさっそく昼食は特製炒飯でも作るアルか! 食材はたっぷりと用意しているアルし、回鍋肉も作れるアルよ!」
「楽しみです。今からお腹が空いて来ました」
きゃっきゃっと騒ぐ幼女とチャイナ娘。
どういうことなのホント……。
お前ら俺の事きらいだろ……。
いいもん。
その炒飯と回鍋肉、おれ全部食べちゃうもん――。
そう誓った、アムゼリア街道での早朝――。




