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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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004 決意の前夜

「ふぅ……」


「はぁ……」


「いい湯アルねぇ……」


 幼女一人で風呂に行かせるのは忍びなかったので、結局3人で入ることに。

 流石にもう慣れた。

 ていうか『慣れた』って事は既に心も女性化しているという事なのだろうか。


「じーーー……」


 先程から幼女が俺の胸に視線を落としている。

 恨み妬みを込めた眼差しで。

 まだ気にしてんのかよこいつ……。


「カズハ? 後で順番っこに頭を洗わないアルか?」


「え? ああ、いいぜ。俺も随分と伸びたから、自分で洗うのとか面倒臭くなっちまったし……」


「……ならば何故切らないのですか? やはりカズハはユウリ――」


「ストップ! もうあいつの話は無し! 今後当分は禁止!!」


「えー? つまらないアルぅ……」


「いいの! 今度会ったら紹介してやるから我慢しなさい!」


「ちぇー」


 湯船から出た俺達はそれぞれの頭を順番に洗って行く。

 一番髪の短いタオを先に済ませ、次に長い俺の髪をタオが洗ってくれる。


「……おい。ルル」


「? なんでしょう?」


「……お前はどうしていつも、俺の股の所に座るんだ?」


「?? 何かおかしいですか?」


 ……何か、じゃなくて、全てがおかしい。

 そこは幼女の特等席では無い。

 ていうか髪洗うの手伝えよ!


「カズハの髪は艶々で羨ましいアルねぇ……。これはルルちゃんに匹敵するかもしれないアル」


「かちーん!」


 あ、タオがまた地雷を踏んだ。

 でもここでドンチャンされたら俺が困る。


「はいストーップ! 言い合いなら風呂出てからやりなさーい!」


「私の自慢の髪が……カズハの髪なんかと比べられて……」


 俺の股で蹲ってしまう幼女。

 なんか面倒臭いから、このまま洗っちまうか。幼女の頭も。


「ルルー。シャンプー行くぞー」


「へ? あ、私はタオに洗って貰うから良いです! やめてくださいカズハ!」


 頭を振り、俺の手から逃れようとするルル。

 ブルンブルンと首を振るから、さっきから俺の頬にルルの長い髪がビシバシと……。

 うん。

 痛いの。


「暴れるんじゃねぇ! タオはいま俺の髪を洗ってんだから、待ってたら時間が経っちまうだろうが!」


「だからカズハに洗って貰うのは嫌だって言っているんです! どうせ雑に洗うに決まっているんですから!」


 ぐっ……!

 確かにタオみたいに丁度良い匙加減で洗える自信は無いが……。

 そう言い切られてしまうとなんか無性に腹が立つ。


「いいだろうルル……! 俺のテクをとくとその目に焼き付けるがいい!」


 クネクネと10本の指をクネらせ悪い顔をする俺。

 恐怖に顔を引き攣らせるルル。


「はぁ……。ストップと言った本人がこれだから……。知らないアルよ、私は……」


 後ろからチャイナ娘の溜息が聞こえたが、時、既に遅し。


「きゃっ! く、擽ったいですよカズハ! や、やめてください!」


「どうだ! 俺のシャンプーテクは! かゆい所は無いですか、お客さん!」


「かゆい所どころか、カズハが擽ってる所が全部かゆいですよ! タオ! 助けてください!」


「あー……。知らないアル。私は何も見ていないアルー」


「タオ!?」


 よし。

 タオが幼女を裏切った。

 形勢逆転。

 日ごろの恨みを晴らさでおくべきか。


「こちょこちょこちょー」


「あああ! もう駄目です! ふえぇぇぇ……!」


 半泣き状態のルル。

 大満足の俺。

 見て見ぬ振りのタオ。


「よし。俺、満足。ちゃんと洗ってやるからこっち向――」


バチン!


「痛ぇ! 平手打ちはねぇだろ!」


 俺の頬に幼女のビンタが炸裂。

 まあ、全く痛くは無いんだけれど。


「もう許しません! 絶対許しません! 今度はこちらの番です!」


 涙目で意気込むルル。

 ちょっとたじろぐ俺。

 ・・・。

 ヤバイ。

 やり過ぎたかも……。


「タオ」


「分かっているアルよ。ほい」


「んなっ!? 裏切ったかタオ!」


 そのまま後ろから羽交い絞めにされる俺。

 だからお前の胸が俺の背中に……。

 ここ風呂場なんですが……。


「ふふ……ふふふふ……」


 幼女の目が怪しく光る。

 そして10本の指をこれ見よがしに俺の目の前でくねらせる。


「やめろ……! それ以上近づくんじゃねぇ……! 考え直せ……ルル……!」


「駄目です。やられた事は1万倍にして返します。さあ、どこから行きましょうか」


 顔面蒼白になる俺。

 暖まった筈の身体全体に冷や汗が流れ落ちる。


「……諦めるアルよ、カズハ……。こうなったルルちゃんを止められない事は、カズハが一番良く分かっている筈アル……」


 俺の耳元でそう囁くタオ。

 でもちょっと楽しそうな雰囲気が声から読み取れる。

 この裏切り者!


「ふふふ……。覚悟は良いですか、カズハ……」


 もはや病んだ薄ら笑いの表情をしているルルに、何を言っても無駄だろう。

 俺は死を覚悟する。


「やめ――――ひぎぃいいいいいい!!!」  



 ――――笑い死ぬ、という覚悟を。







「はぁ……。なんかどっと疲れたアル……。疲れを取りに温泉に入ったというアルのに……」


 宿に戻った俺達一行。

 髪を乾かすタオとルル。

 俺はというと――。


「まだ悶絶しているのですかカズハ? 修行が足りませんよ、修行が」


「幼女怖い幼女怖い幼女怖い幼女怖い幼女…………」


 風呂場の一件でルルの怖さを再確認した俺。

 あんな所をあんな風にされたり、こんな所をこんな風にされたり……。

 そして風呂場に響く、俺の泣き叫ぶ声――。

 女将さんに助けて貰わなかったら俺……。

 本当に昇天していたかもしれない……。


 くすぐった過ぎて……。


「情けない女王様ですね」


「お前は鬼か! それとも悪魔か!!」


「どこに目が付いているのですか。私は精霊です」


「知ってるよ! ンなことは!! 嗚呼……幼女怖い幼女怖い幼女怖い幼女怖い……」


 枕の下に頭を忍ばせ、呪文の様にそう唱え続ける俺。

 金輪際、二度とルルを擽る事は禁止しよう。

 命がいくつあっても足りない。

 マジで。


「ほうら、カズハ。馬鹿やってないで髪を乾かすアルよ」


「誰が馬鹿だよ! この裏切り者!」


「いいから早くこっちに来るアル。ちゃんと乾かさないとせっかく綺麗な髪が台無しになるアルよ」


「……うん……」


 小さな子供の様に素直にタオの言う事を聞く俺。

 そしてタオの前の椅子に座り、ドライヤーで髪を乾かして貰う。

 電気の通っていないこの世界で、何故にドライヤーが存在するのか。

 《陽魔法》と《陰魔法》の応用で温風と冷風が出るらしいのだが……。

 乾電池のプラス極とマイナス極じゃあるまいし……。


「そういえば確か闘技大会には、変装して出場したって言っていたアルよね、カズハ」


 俺の髪を乾かしながらも、そう聞いてくるタオ。


「へ? あー……まあ変装っつっても、黒の眼帯をつけて、所々髪を三つ編みにしただけだけどな」


 たったそれだけの変装でばれないモンなんだよな。

 女ってそれだけ化けるのが上手い人種なのかも……。


「でも決勝戦で眼帯がポロリしちゃって、結局ばれちゃったんだけどな」


 あの後、世界各国の新聞記事に俺の事が載っていたらしいし。

 『前代未聞! 一国の女王がアゼルライムスの闘技大会に参加し優勝を飾る!』とか。

 『戦乙女ふたたび! 新法律施工により勇者候補ナンバーワンとなったアックスプラント女王!』とか。


 でも俺、勇者になる気はサラサラ無いし。

 アゼルライムス王も流石に俺に『勇者になれ』とは言い辛いだろうし。

 女でも勇者になれるように法律を変えたのだったら、レイさん辺りが勇者をやれば良いんじゃないかな。

 元々勇者の家系なんだし、兄のゲイルの事もあるんだし……。


「……」


「……カズハ?」


「……え? あ、悪い悪い。何か言ったか?」


 急に考え込んでしまった俺に声を掛けるタオ。

 何も言わずにただ視線を向けるだけのルル。


「……無事、ですよ。皆、必ず無事でいます」


 俺の表情を読んだのか。

 ルルが俺の服の袖をそっと掴みながらもそう言う。


「あ……。そう、アルよね。みんな無事に決まっているアルよ!」


 タオが無理に明るく、ルルに同調する。

 皆、不安なのだ。

 だから、俺が不安な表情になったら駄目なんだ。

 ちょっと気合が足りなかったな。

 そろそろ本気モードに入らないと。


「当たり前だろ。あいつ等は絶対に無事だ。だから今日はもう就寝して、明日の朝早くに出発しようぜ。鋭気を養っておかなきゃ、いざと言う時にあいつ等を助けられねぇしな」


「……はい。分かっています」


「じゃあ今日はもう寝るアルよ! 明日の朝は私が栄養満点のお弁当を作るアル!」


 おふざけから一転。

 一致団結する俺達3人。


 まずはアムゼリアに向かい、あのハゲ親父宰相から事の顛末を詳しく聞く。

 一体どんなヤバイ仕事を俺達に依頼して来たのか――。


 重要文化財。四宝。

 ただの骨董品じゃないだろう、絶対。

 

 俺の知らない『ストーリー』がこれからも展開して行くのであれば――。



 ――これからはただの『暇潰し』では済まないのかも知れないな。

















 

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