取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて帰国する事にした。
「……酔った……」
港町《オーシャンウィバー》から船に乗り《ユーフラテス公国》の港町《リンドハイル》に到着。
取り敢えずトイレへ直行。
船酔いだけはどうしても克服出来ないよな……。
さて。
ここから城までは約2500UL。
どうしようかな。
宿で休憩するか、そのまま速攻で帰って自室のベッドにダイブするか。
「でも早く帰ってルルをハグしたいしなぁ……」
トイレから出た俺は結局そのまま街を出て北上。
ダッシュで帰ればそんなに時間も掛からないだろうし。
「待ってろよルル! いっぱいギュってしてやるからなあああああああああああ!」
俺の雄たけび声が街道に響き渡る。
うん。
まだ気持ち悪い……。
◆◇◆◇
「ちょっとルルちゃん! まだ煮込み途中だから味見は出来ないアルよ!」
「うぅ……。もっと早くに言って欲しかったです、タオ」
「もう……。こっちはもう大丈夫アルから、洗濯物の方を――――あ」
「? どうしたのですか、タオ? ――――あ」
「ただいまあああああああああああああああ! ルルーーーーーー! タオーーーーーーー!」
「五月蝿いのが帰って来たアルね……」
「五月蝿いのが帰って来てしまいましたね……」
「元気だったかあああああああああああああああああ! うわあああああああああああああん!」
「「はぁ……」」
◆◇◆◇
アックスプラント城。
食堂。
「うめぇ! マジうめぇ! タオの飯……マジ最高!」
「行儀が悪いですよカズハ。こんなにポロポロこぼして……」
ルルが空いたお皿を片付けながら、次の料理を運んで来る。
なんか……なんか感動……!
ルルが俺の為にタオの手伝いを……!
「なあ、ルル」
「駄目です」
「ハグ――――あれ?」
出鼻を挫かれドモる俺。
「今日くらいは良いんじゃないアルか? カズハにハグさせてあげても」
「何を言うのですかタオは! カズハを甘やかしてはいけないことは重々承知しているでしょう!」
「俺は反抗期の子供か」
運ばれた料理に手を付けながらも空チョップで突っ込む俺。
「フォッフォッフォ。相変わらずじゃのう、カズハは。……おっと。ワシ、トイレに行ってからまだ手を洗っておらなんだわ」
「ぶっ! 食事中に言うんじゃねぇ! このクソじじいが! きたなっ! お前が触ったサラダの大皿触っちまったじゃねぇかよ! きたなっ!」
口に含んだステーキの汁を飛ばしながらも俺は叫ぶ。
「あーあー……。食卓がカズハの汚い唾で……」
フキンを取り出し苦笑いでテーブルを拭くタオ。
いつもすいません……。
「あ、そうだ! 思い出した! この嘘つきじじい! お前、俺以外に《二刀流》を伝授してやがっただろう! そのせいで危うく優勝逃すところだったんだぞ!」
ユウリ・ハクナシャス。
謎の新職業である《双魔剣士》であり《二刀流》の使い手。
「カズハ以外に《二刀流》を使える者が……?」
身を乗り出すルルとタオ。
「おお、お主ユウリに会ったのか」
「へ?」
やっぱりユウリの事知ってやがったのかクソじじいが……!
じゃあユウリはゼギウスから《二刀流》を――。
「あやつはワシの孫じゃよ」
「…………はい?」
いまなんつった?
孫?
この顔面毛むくじゃらのドワーフの末裔の汚らしい顔のゼギウスじいさんの、孫?
あの綺麗な顔のイケメンのユウリが、孫?
「……なんじゃ、その疑い深い顔は」
「…………無い無い。嘘吐くんじゃねぇよ、クソじじい」
いや気持ちは分かるよ?
ゼギウスもじじいとはいえ男なんだから、ユウリみたいなイケメンに生まれたかったっていう願望とか。
でも世の中には言っても良い嘘と駄目な嘘ってあるんだよ。
今のは完全に駄目な方だろう。
じじいの嫉妬とか超醜い……。
「なんか知らんがワシ……。物凄く凹んだのじゃが……」
「嘘吐くからだろ。てか早く手洗ってきて」
なんでそのまま飯食ってんだよ!
きたねっつってんだろ!
「嘘では無いわ。……まあ『孫』とは言ってもワシとは血は繋がってはおらんがな」
「それを先に言えよ!」
危うくユウリのイメージが崩れちゃうとこだったよ!
ドワーフの血が流れてたらきっとユウリは脱いだら毛むくじゃらの胸毛とか脛毛とか……!
・・・。
ユウリの胸……脛……。
嗚呼……。
「……なぜ恍惚の笑みを浮かべているのですかカズハ……? 凄く気持ち悪いです」
ジト目でそう言う幼女。
「それに何だか顔が赤くないアルか? 恋の病アルか?」
「誰が恋の病だよ! 俺は別にユウリの事なんか……! ――――あ」
「ほう……。カズハ、お主もしや……」
ゼギウスの目がきらーんと光る。
全然格好良くないから!
ドワーフのじじいの小汚い目が光ったって怪物みたいだから!
「へぇ……。そんなにゼギウスさんの孫ってイケメンアルかぁ……」
タオが小悪魔的な表情になりチャイナ服の上から胸を寄せる。
その仕草、今必要か?
「はぁ……。闘技大会に参加したと思ったら、男に心を奪われて帰って来た訳ですね。最低です」
「おい!」
厳しい幼女の突っ込みについ声を荒げてしまう俺。
焦るな……!
こいつらのリズムに呑まれては駄目だ……!
「ヤッたアルか?」
「ぶっ!!」
とうとう色んな物を吹き出した俺。
ゼギウスの顔に半分くらい掛かったが、どうせ汚い顔だから別に構やしないが。
「……不潔です、カズハ」
「どっちの意味かな! ねぇルルさん! どっちの意味で言ったのかな!」
口をフキンで拭きながらルルに詰め寄る俺。
でも凄い目で睨まれてちょっと距離を取りました。
幼女こえぇ……。
「ユウリは昔からそうじゃからな……。《エーテルクラン》で2人で住んでおったときも、毎日の様に女子が押し寄せて来てなぁ」
「あの小屋、ユウリの実家かよ! びっくりだよ!」
何度も何度も訪れていたゼギウスの工房兼自宅であるあの家。
まさかあそこにユウリも住んでいたとは……!
(うーん……。でもやっぱ『3周目』仕様なんだろうな、それって……)
恐らくだが、『2周目』の段階ではゼギウスに孫は存在しなかったように思う。
前に考察したとおり、『3周目』の時点で俺が《二刀流》をマスターしちまってたから、世界の構造? みたいなものが少し変化して――?
(3周目限定の登場人物……。そう考えて間違い無いんだろうな)
こればかりは検証のしようは無いんだけど……。
もしかしたら『3周目』で初めて会った奴らは全員そうなのかも知れないし。
ルルとタオとゼギウスは最初からいただろう?
エリーヌもグラハムもリリィもいた。
セレンはおっさんだったのがボインのねーちゃんに変わってたけど……。
それ以外の仲間や知り合いは皆、この『3周目』で初めて出会った奴ばかりだ。
勇者ゲイル。妹のレイさん。アルゼイン。
ユウリにデボルグにルーメリアにエアリー。
(うーん……)
「どうしたアルか? 急に考え込んで……。さ、もう食べ終わったのなら片付けるアルよ?」
タオが目の前の皿を下げ、台所へと向かう。
「あ、手伝いますよタオ」
ルルがぴょこっと椅子から降り、タオの後に続く。
「……まだ、彼女らには『真実』を伝えんか、カズハ」
ゼギウスが真面目な表情で俺に語り掛けてくる。
「……まあ、ね。エリーヌには話して来たけど、まだ時期じゃないかな……」
食後の珈琲を啜りながらも俺はゼギウスに返す。
「時期、か。まあ今話したところで、いつもの冗談と思われるのがオチじゃろうがな。……さて」
椅子を降り、工房の方へと向かっていくゼギウス。
まあ工房って言っても『王の間』なんだけどね。
「さってとー……。いやぁ、マジ自宅は落ち着くよなぁ……。ふわあぁぁ……。なんか飯食ったら眠くなってきた……」
食堂を後にし自室へと向かう俺。
後でルルが寝静まったら勝手にハグしてしまおう。
あいつは気付いていないが、いつも一緒のベッドで寝てるのだから寝静まったらハグしてるんだよー。
言ったら殺されるから絶対に言わないけどね!
そんなこんなで俺は無事、優勝賞金1000万Gを自国に持ち帰ってこれた訳で――。
『ラクシャディア共和国』
「くっ……! 皆さん、大丈夫ですか!」
まさかこんな『強敵』に取り囲まれるなんて……!
私としたことが不覚でしたわ……!
「おい、レイ! 後ろにも一匹いるよ!」
アルゼインが咆哮する。
「しまっ――」
「《ダークサーヴァント》!」
『ギョエエエエエエエエ!」
背後に迫っていたモンスターに《闇魔法》を食らわせたセレン。
「助かりましたわ……」
「気にするな。しかし、この敵の数は……」
「……はい。私達がここに呼ばれた理由も納得が行きますわね……」
『重要文化財』の護送という名目で召集された我ら《インフィニティコリドル》の面々。
しかし――。
「アッーーーーー! リリィ! 俺の尻が! 獣に噛まれて!」
「ああもう! 変な叫び声とか出さないでよグラハム! 《アクアヒール》!」
《水魔法》を唱えるリリィと安堵の表情のグラハム。
「危ないところだったぜ……。危うくあの獣に掘られる所だった……」
「真面目にやってよ! 馬鹿グラハム!」
「……一応は連携が取れているという事ですわよね、あのお2人も」
はぁ、と溜息を吐く3名の女剣士。
そしてさらにぐるりと周囲を取り囲むモンスターの群れ。
私達は互いに背を預けながらもその中心にある『重要文化財』を守るのが精一杯な状況。
「カズハがいればねぇ……」
「何を弱気な事を。我と同じ《魔剣》を持つものの言葉か、それが」
「ちっ、いちいち細かいんだよあんたは……」
言い合いを始めるアルゼインとセレン。
はぁ……。
カズハ様が私をリーダーにした理由は、これも含めての事なのでしょうね……。
「皆さん、あともう一息ですよ。喧嘩をするなら勝利した後にしましょう!」
私の掛け声に皆が頷く。
私はカズハ様から頂いた勇者の剣――《聖者の罪裁剣》を再度構える。
「はっ、《勇者の剣》の使い手と《魔王の剣》の使い手が2人もいるんだ! これで任務を失敗したらカズハに笑われちまうねぇ……!」
「まったくだ」
アルゼインとセレンも同じく最強の魔剣――《咎人の断首剣》を構える。
「不肖グラハム! 女性陣には指一本触れさせませんぞ!」
「……はぁ……。調子だけは良いんだから……」
グラハムが《竜槍ゲイヴォへレスト》を高々と掲げ。
リリィが《聖杖フォースレインビュート》を構え詠唱に入る。
「行きますよ、皆さん……!」
合図と共に前列のモンスターの群れに攻撃を仕掛ける我ら。
待っていてくださいねカズハ様……!
貴女様の為に必ずや私達は任務を成功させ、帰国致しますから――!
第二部 カズハ・アックスプラントの初めての建国
fin.