三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず降参することでした。
アカン! これマジでアカン……!
自分一人の時に鏡の前で裸になって個人的にムフフする分には構わないけど……。
こんな大衆の面前で晒しちゃうのはさすがに恥ずかしいんですけど!
柄にもなく顔が赤くなっちゃう……!
「それにしてもやっぱり変だねぇ。いくら光属性があんたの弱点だからって、ちょっとダメージを喰らい過ぎじゃないのかい? 防具がインナーごと吹っ飛んじまうなんてねぇ」
「ぎくり」
やばい……。
縛りプレイがバレそう……。
「まあ、あんたがただの露出狂だってんなら納得しなくもないけどねぇ」
「おいこの褐色ボイン。今なんつった」
女剣士の言葉にカチンときた俺はつい言い返してしまう。
何故かといえば、この女……まるで俺に当てつけるかのごとく豊満な胸を腕で寄せて見せびらかすからだ。
確かにデカい。俺の数倍はある。
ていうかデカ過ぎるだろう!
なに食ったらそんなにおっぱいがデカくなるんだよ!
いや、そんなことより早く胸を隠さないと……!
何かないか……! 葉っぱとか落ちてない……?
「ふん、あんたには悪いけど、このチャンスを逃すほど馬鹿じゃないんでねぇ……!」
そう言った女剣士は両剣を振り回し地面を蹴った。
葉っぱを探していて不意を突かれた俺は大剣を構え、防御の姿勢をとるしか出来ない。
「喰らいなぁ……!!」
ガチンッ――!!
片手でなんとか攻撃を防ぐも、もう片方の手で胸を隠していては反撃も出来ない。
それを確認した女剣士はニヤリと笑い猛攻を仕掛けてくる。
「おらおらおらぁぁ!!」
ガン! ガンガンッ! ガチンッ!!
凄まじい勢いで連続攻撃を繰り出してくる女剣士。
この俺が防戦一方なんて、あの裏ボス魔王との戦いでもそんなになかったと思うんですけど……。
まあおっぱい隠しながら片手で大剣を振り回して戦った経験自体初めてなんだけどね。
いやでも、マジでこいつ強い。
手加減してるとはいっても、俺のレベルって99もあるんだよ?
恐らくこの女剣士……『上級職』だと思います。
今までの経験から推察すると、魔道士と戦士を組み合わせた『魔道戦士』とかじゃないかな。
魔道戦士ってすごい人気のある上級職だからね。
あー、ツイてねぇ。
まだ八回戦なのに、こんな強敵とぶち当たるなんて……。
「おらぁ!!」
ガチィィン――!
「あー……」
ついに俺の大剣が弾かれてしまいました。
使い慣れていない武器とはいえ、ここまで俺を追い込むとは恐れ入りました。
いやー、でも勉強になった。
世の中にはまだまだ強い奴がいるってことが分かったし。
収穫はあったな。
「ふふ、どうする? 降参するか? それとも――」
「あ、降参しまーす」
「んなっ……!?」
「………」
……。
…………。
………………あれ?
会場全体が急に静まり返っちゃったけど……。
俺、何か変なこと言った?
「か、カズハ・アックスプラント。今、降参と言ったか?」
「あ、はい。降参します。さすがにもう戦えないので」
俺は審判に正直にそう言った。
武器も弾かれ、胸を隠しながら戦うのって結構辛いんですけど。
でもどうしてこんなにシーンってなってるの?
意味が分からん。
「……し、勝者! アルゼイン・ナイトハルトっ!!」
審判の言葉により静まり返った場内が再び沸き上がった。
俺は軽く息を吐き、弾かれた大剣を取りに場外へと向かう。
『魔道戦士アルゼイン・ナイトハルト』、ね……。
もう会うことはないだろうけど、一応名前くらいは覚えておくか。
「……おい。ちょっと待ちな」
「ん?」
大剣を拾い上げ、闘技場を後にしようとした俺を呼び止めたアルゼイン。
振り向きざまに彼女のおっぱいに剣の柄を当ててしまい、その弾力で剣を落としそうになりました。
どんだけデカいねん。
嫌味か。俺に対する嫌味か。
「あんた……。どうして降参したんだい?」
「どうしてって……。あれ以上戦っても俺の負けは決まっていただろ?」
「何故そう言える? スキルも魔法も使わずに、使い慣れていない大剣を雑に振り回していただけだろう? それにあたいが気付いていないとでも思っているのかい?」
……ヤバい。
この褐色ボイン、やっぱり鋭い……。
変な汗出そう……。
「そのツヴァイハンダーをあたいに見せな」
アルゼインは強引に俺の大剣を奪おうとする。
「やめて! この子だけは……! この子だけは勘弁して!」
「ぐっ……! 何だこの力は……! これだけの腕力を持ちながら、どうして本気で戦わないのだ……!」
引っ張るアルゼインとそれを全力で阻止する俺。
主審もどうしてよいか分からず、ただオロオロとするばかり。
……いや、止めろよ。
もう試合終わってんだろ。
「やめてお姉様ー! そんなに私を虐めて楽しいのですかー! この子は、私の彼氏なんですっ! この子がいないと私……寂しくて死んじゃうんですー!」
「なっ……! そ、そうか……。そういうプレイを、あんたは……」
ようやく大剣を離してくれたアルゼイン。
でもなんか知らんけどドン引きしてる……。
お前鋭いキャラじゃないのかよ。
演技だと気づけよ馬鹿。
「……あんた。確か名は『カズハ』だったね」
「うん。お前は『アルゼイン』だろ? 俺の中では『褐色ボイン』に変換されてるけど」
「か、褐色……何だ? ……まあいい。覚えておくよ、あんたの名を」
そう言い残し、アルゼインは舞台を降りて行った。
帰り際にチラチラと俺を振り返っていたけど、俺というか、たぶん大剣を見ていたのだと思われ。
いやいや、貸さないから!
ていうか嘘だから! 謎の架空プレイに興味を持つんじゃない!
あー、まあいいや。
何か知らんけどすごい疲れた……。
どこか裁縫店にでも行って、新しい服を買わないとなぁ。
闘技場を出た俺はそのまま裁縫店に向かうことにしました。
◇
ていうかこのまま外を歩いたら痴女だと思われかねないので、闘技場の受付の姉ちゃんにシャツを借りました。
ちょっとブカブカだけど、まあ乳がはみ出しているよりは大分マシだろ。
そのまま裁縫店に到着した俺はずらりと並べられた服からサイズの合う服を選びます。
「くっそぅ……。あの服、お気に入りだったのになぁ」
アルゼインの放った光魔法のせいで俺の防具とインナーはボロボロ。
このシャツも後で洗って返さないといけないし、クリーニング代くらいあの褐色ボインに請求すれば良かったかもしれない。
「今のところ8勝1敗かぁ。まあ、でもこんなもんかな。どうせどこかで負けないといけないし……」
俺の目標はあくまで100位入賞。
ああいう強い奴に負けるのであれば、無駄に手加減しなくて済むし楽といえば楽だ。
「ていうか、予想以上に目立っちまったなぁ。鉄仮面でも付けて出場するべきだったかも……」
今更嘆いても遅いが、当初はこんなに注目を浴びるとはこれっぽっちも考えていなかったから仕方がない。
さっきも闘技場を出ようとしたときに数人に声を掛けられたし。
……男ばっかりだったけど。
「お決まりですか? もし宜しければ試着もできますが……」
「あ、ええと、こういうのじゃなくて、もっとこう丈夫で柔らかくて、軽い素材のやつとか欲しいんですけど」
「それならばこちらは如何でしょう? お客様にピッタリだと思いますよ」
――そして10分が経過。
「ありがとうございましたー」
店員さんが選んでくれたインナーを買い、次に俺が向かったのは防具店だ。
あ、そうだ。ちょうどいいから『防具』について説明するね。
防具って普通、『物理防御力を高める』とか『魔法防御力を高める』ために装備するよね?
ステータスでいうといわゆる『DEF』とか『MDE』とかね。
でもこの世界はちょっと違うんだよね。
この世界における防具の役割は『弱点属性を補う』という一点に限ります。
前にも属性のことは話したと思うけど、自分の弱点である属性攻撃を受けてしまうとダメージ補正が250%になっちゃうんですよ。
つまり通常の攻撃よりも2.5倍のダメージを受けちゃうってことですね。
これを防がないとアカンのですけど、防具で防げるのは『一つだけ』っていう決まりがあるんですよ。
得意属性と弱点属性はそれぞれ二つずつ持っているってことも前に話したじゃないですか。
その弱点属性のうち『ひとつだけ防具で防ぐ』ってことですね。
なので、自分の弱点属性に合った防具を選ぶことが重要です。
ちなみに俺の弱点属性は『光』と『闇』なので、普通はこのうちのどちらかの属性を持つ防具を選ぶってことだね。
いやー、分かりやすいね、俺の説明。
で、ちなみに『属性』についてなんですけど。
この世界には全部で12種類存在するみたいなんですよ。
『火』、『水』、『風』、『氷』、『土』、『木』、『気』、『体』、『陰』、『陽』、『光』、『闇』。
俺も一周目のときはあまり気にしなかった『属性ルール』なんだけど、二周目からはけっこう気にしたりして。
……ていうかもっと最初からちゃんと勉強していれば、こんなに苦労しなかったと思うんだけどね!
だって仕方ないじゃん。いきなり異世界に転生させられた上に、誰もこういう説明とかしてくれなかったんだもん。
冒険を進めて行くごとに少しずつ知ったって感じかな。
まあ他国にはすっごいデカい図書館とかあるし、そこで大体のことは自分で調べたんだけどね。
防具店に到着した俺は再びサイズの合うものを探します。
あまりごっついのは嫌だなぁ。
適当に軽そうなやつを選んで、と……。
「まだ『属性なし』の防具でいいよね。あんまり金使いたくないし」
だったら防具なんて必要ないとか思うけど、装備していないと手加減してるのがバレるからね。
……とか言っていると、今度は闇魔法を使うような猛者が現れて痛い目をみるかもしれないけど。
「いやー、でもマジであの光魔法は痛かった。ダメージ補正500%は無いやろ。俺がレベル30くらいだっから一発で死んでたな。怖い怖い」
……うん。
ていうか俺、着々とドM街道まっしぐらって感じがするのですけど……。
大丈夫か。戻って来れるか。
そっちの道は行ったらアカンのではなかろうか。
なんかだんだん不安になってきた……。