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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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二周目の異世界で思い付いたのはとりあえず楽をすることでした。

『グ……ググググ……!!!!』


 やっと……やっと倒した……。


『グググ……グアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!』


 魔王の体内から噴き出した禍々しい光が魔王城全体を照らし出す。

 最強の武器である《咎人の断首剣クリミナルダークネス》と《聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマー》の二刀を駆使しても、討伐まで約半日ほどが経過した。

 俺以外のパーティはすでに全滅している。


 まさか二周目・・・でもこんなに苦労することになるなんて――。





 俺こと慄木和人おののぎかずとは都内の高校に通う平凡な男子学生だ。

 自分で言うのもなんだが、何か人よりも優れている能力があるわけでもなく、偏差値もまさしく平凡そのもの。

 部活も最近サボり気味だし……。

 まあ何というか、どこにでもいる男子高校生だと思ってください。


 で、とうとう今日から新学期が始まるんですよ。

 何だかんだであっという間に二年生になっちゃった俺は、大好きなライトノベルを鞄にしまって家を出ました。

 ふと前を見ると、同じく新学期が始まったっぽい小学生が列を成して歩いています。 

 

 それをぼけーっと眺めていたら、一人の主婦らしき人物と目が合いました。

 きっとこの小学生の集団の中に自分の子供でもいるんだろうね。 

 そう思って集団のわきを抜けて横断歩道の先にあるバス停に向おうとしたんですよ。

 そしたら、何かキラッと光ったんです。

 あれ? 何の光だろう、と思って振り返るとさっきの主婦とまた目が合いました。


 目を凝らしてよーく見てみると、その主婦は一本の包丁を握っていたっていう、怖い話――。





「はぁ……」


 その場に腰を下ろし、大きく溜息を吐く。


「まさか魔王を倒した後に『裏ボス』が出てくるなんてなぁ……」


 一周目と同じように、この二周目でも魔王を倒して終わりなのだと思っていた。

 すでに最強装備で二周目に突入していた俺は、仲間と一緒にあっけなく魔王を倒したのだ。

 今度こそ元の世界に帰れる――。

 そう信じていた俺の純粋な気持ちを、今すぐ返してください。


 魔王を倒した直後、魔王の玉座が崩壊して奈落に落とされたんですよ。酷くね?

 あ、そうそう。言い忘れたけど、俺って『勇者』なんです。

 一周目でも勇者だったし、二周目でも勇者をやってます。でへへ。


 ……いや、そんな話は今はどうでも良くて。

 奈落に落とされて、痛む尻を擦っていたらとんでもない化物が出てきたんですよ。 

 魔王よりも一回り大きくて、筋肉モリモリで、顔は怖いし声も怖いし……。

 で、俺ら勇者御一行様は各々の武器を構えて最終決戦に挑んだわけです。


 その結果、俺以外の仲間は全員死亡。

 一人になっちゃった俺は、攻撃、回避、回復を何度も何度も繰り返し。

 数時間も掛かって今さっきようやく倒すことができたんです。

 流石にもう疲れたよ……。


 そう考えていたら、俺の前で倒れている真・魔王の口から、光る玉が転がり出てきました。


「げっ! また『宝玉』……!」


 驚いてその場を飛び退く俺。

 いやいやいや、もう勘弁してくれよ……。


 ――一周目で見事に魔王を討ち滅ぼした俺。

 そしたら魔王の玉座に突然、光る玉が出現したんです。

 明らかに『これを受け取ったら物語はエンディングであなたは元の世界に戻れますよ』的な感じ?

 現実世界に戻りたい俺は、当然その光る玉に手を伸ばします。

 そしたら何故か知らんけど眩い光に包まれて、物語のスタート地点である始まりの街『アゼルライムス』に飛ばされて、装備も経験値もアイテムもそのままで『二周目』が始まったっていう……。

 強くてニューゲームなんて、誰も望んでねぇっつうの!

 神様の馬鹿ー!


「どうすんだよ、これ……」


 流石にもう、大丈夫だよね……?

 最強装備、貯めた経験値・ゴールド、隠し武器やら隠しルートなどなど。

 全ての要素が二周目に引き継がれて裏ボスまで倒したんだよ?

 もうそろそろ神様だって俺を解放してくれるだろう。

 この訳の分からんループ人生を。


 ――そう期待したのが間違いでした。





 四月一日の午前八時。

 横断歩道の先にいる包丁を持った主婦。

 その主婦の前には小学生の集団。


「……ああ、そっか。今日ってエイプリルフールだもんね。はは……」


 危うく騙されるところだったぜ。

 こんな白昼堂々と包丁持った主婦なんて目にしたら混乱するに決まってるよね。

 ……でもあの主婦、目がマジなんですが。


「ああああああああぁぁぁ!!」


 急に奇声をあげた主婦は小学生の集団に突進しました。

 包丁をしっかりと構え、明らかに殺意丸出しで――。

 あれは、ヤバい。

 目が逝っちゃってる。精神おかしい。どうしよう。関わりたくない。


 ――でも、俺の身体は勝手に動きました。

 走り出した足は止まらず、小学生の集団と主婦の間に割り込みました。

 で、見事にズバっと心臓を貫かれたのでしたー。

 俺の人生、おわり。

 めでたし、めでたし――。


 ――でも目覚めた先はフカフカのベッドの上でした。

 しかもどう見てもゲームの世界に登場する部屋にしか見えません。

 ……どういうこと?


「おや、ようやく起きたのかい、カズト?」


 見知らぬおばさんがすぐ横の台所で料理を作りながら俺に話しかけてきます。

 ……誰ですか?


「こ、ここは……どこ? 俺、主婦に刺されて……。あれ? 傷が……無い?」


「あらあら。何を寝ぼけているのかしらこの子は。今日は王様に謁見する大事な日じゃないの。さっさと起きて、顔でも洗ってきなさいな」


 どこかで聞いたことがありそうな台詞だ。

 なんかつい最近やっていたゲームにも同じようなセリフがあったような記憶が……。


 ――そうして始まった俺の物語。

 でもまだ、このときは二周目があるなんて思ってもいなかったんだけど。




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