トリカゴ
そこは、木々が生い茂る暗い森の中であった。
月明かりが枝の隙間からそっと射し込み、ある場所を照らしていた。
光の先には湖が、広がっている。暗い森の中に月明かりが写り込むことで神秘的な輝きを放つその湖は、まるで宇宙を想像させる。
「やっと聞こえてきた。扉のムコウから、小鳥の鳴き声が。」
神秘的な湖の真ん中に、一人の少年が立っている。
いや、浮いていると言うべきだろうか。
足下は水。広大な湖の真ん中で、足をつけてたてる場所などあるはずがない。
蒼い髪に、鋭くも美しい蒼い瞳。
彼は湖の真ん中で、月を眺めている。
「分かっているよ。小鳥はやがて大きな翼を広げ未知なる世界に飛び立っていく。探求心に胸を踊らせながらね。それが、鳥に与えられた夢さ。鳥は自由だ。俺たち人間とは違って。」
彼は月に向かって手を伸ばし、呟く。
「君のその翼はとても人の想像の枠には収まらない。きっとどこまでも飛べるだろう。与えられた自由と夢を堪能することが出来るんだろう?君は鳥なのだから。」
誰かに語りかけているのであろうか。
彼は[何]かに向けて言葉を吐いている。
「自由に飛ぶために神は鳥に翼を与えた。しかし、翼を与えられながらも、鳥かごに閉じ込められ、自由を奪われた鳥は翼を持つ意味があるのか?神が与えた自由を奪ってしまう人は、翼を欲しがるんだ。自由になりたい、と。きっと鳥に嫉妬しているんだね。だから鳥かごに閉じ込めてしまうんだ。」
悲しそうな目をしながら話していると、彼の瞳が急に鈍く輝き出す。蒼い瞳が美しくも哀しみを込めて輝いている。
「君は、自らかごを壊し、全ての鳥に自由を与えた。そして君は飛び立っていった。翼の存在理由を君は証明してみせたね。でも、、、」
次の瞬間、彼はゆっくりと目を閉じ、眉を引寄せ険しい表情をした。そしてまたゆっくりと瞳を開く。
開いた瞳は先程の美しい蒼い瞳ではなく、深紅に染まった恐ろしい物になっていた。
「翼を折られてしまった鳥は、どうすればいい?自らの運命を恨み呪うか?それとも翼を奪ったこの世界を、神に復讐するか?」
前屈みになり、怒りを露にする彼。
すると次の瞬間、なんと背中から巨大な翼が出現したのだ。
出現したその翼は黒く、傷だらけでひどく醜い物であった。異形とも言えるその翼は、まるで飛ぶために在るのではなく、禍々しさと異形さを表現するために形だけの物として存在しているようであった。
「そうさ、俺は自由に飛ぶことは出来ない。俺の代わりに飛んでいったのはお前だった…………」
彼はその異形の翼を広げ、月明かりが照らす湖から飛び立っていった。
月を背に彼は遥か上空から下を見下ろしていた。
彼の視線の下には、蒼く輝く美しい星があった。
それは間違いなく地球であろう。
だがしかし、どこかおかしい。
彼はその星を見ながらまた、険しい表情をする。
雲がはれ、やがて大々的にその全貌を見せる地球。
その先には、信じられない光景が広がっていた。
確かに、地球は蒼く輝いている。
だが、半分だけだ。
半分だけが、蒼いのだ。
残りの半分は、不気味なほどに紅く、鈍く深紅に染まっていた…………。
そして、その謎な星の上空には、計り知れないほど巨大な翼を広げた首のない女性の用な体をした謎の物体が、存在していた。その翼は、地球のような謎の星を覆い尽くすかのように広がっている。
何もかもが謎のこの空間に、彼は一人たたずむ。
「これが、自由の代償だよ…。お前にこの哀れな星クズが見えるか……?………………欄情烈我ッ!!!!!!!!!!」
彼は恐ろしい表情で、謎の星を見ながらそういい放った。