ニチジョウ
人生の挫折、絶望、裏切り、大切なものを失う等の人生の壁を強調して、主人公達はそれをいかに乗り越えるか、乗り越える方法は人によって違い、正しい、間違いは誰が判断するのか。誰でも経験するであろうこの人生の壁。今の世の中には建前上でしか人と接することが出来ないような人間ばかり。真っ向から人にぶつかっていく熱い心の持ち主が様々な困難に直面していきます。戦う理由、守りたいもの。そんな事を考えながらよんでもらえたら嬉しいです。
「ここは…どこ?」
そこは、真っ暗な闇の中だった。
途方もなく続く闇。他には何もない。
じめじめとした空間にポツンと一人の少年だけが立っている。
無造作に伸びる焦げ茶色の髪
そして暗闇の中で鈍く青に輝く瞳。
少年の名は欄情烈我
「誰もいないのか?おい!誰か!」
烈我の声だけが闇の中で虚しく響く。
辺りを見回してみるも、やはり何もない。
すると、忽然とたたずむ烈我の後ろから足音がする。
自然と足音のする方を言葉なく見つめる。
足音は徐々にこちらに近付いてくる。
人影がこちらに向かってくる。
恐る恐る人影を見つめる烈我。
すると足音が止み、人影がすぐそばまで来た。
暗くて姿は見えないが確かにそこに誰かがいるのがわかる。
「烈我…」
謎の人影から、自分の名前を呼ばれた。
女性の声だ。
どうしてだろう。
どこか懐かしく、とても優しい声。
たった一言なのに、とても心が暖かくなる。
誰なんだ…なぜ俺の名前を?
この途方もなく続く闇の中で、その女性の声は
烈我にとってとても心強く、暖かい物だった。
「お前は、誰なんだ…?俺はお前を知っている…?」
そう女性に訪ねると、女性に光が指し、ゆっくりとその姿が露になっていく。
足元から光に照らされていき、やがて光は女性の顔を照らした。
そこには、優しく微笑む美しい顔があった。
「お前…○○?」
烈我はその女性の名前を呼んだ。
しかし不思議なことに彼女の名前を口にすると
名前だけが声に出ないのだ。
だが確かに烈我はこの女性の存在を覚えている。
どこの誰かも思い出せないのに
その存在は確かに覚えているのだ。
確かに俺はこの娘を知っている。
とても暖かい、かけがえのない存在の○○。
何故だろう。彼女を見ていると、涙が止まらなくなる。
「なんでだ!どうして名前を呼べないんだ!俺は確かに君を知っているはずなんだ!」
叫ぶ烈我。この闇の空間で、彼の叫びはどこまでも響き渡る。
涙を流す烈我に、女性はそっと近づき、優しくだきしめた。
抱き締められた瞬間、烈我は不思議と落ち着いた。
混乱していた心が一瞬で静まる。
「烈我…。大丈夫だよ。私はあなたに会いたいだけ。あなたのそばに居たいだけ。そして、あなたとの約束を守りたいの。次は、私があなたを守る。私があなたを幸せにする。」
そう烈我に囁くと、女性はどこまでも優しく、烈我を包み込んだ。
彼女の優しさに包まれる烈我の表情は、笑顔に溢れていた。
「○○、ありがとう…。俺はこれからも○○を守るから!」
果てしない闇の空間が、光に包まれていく…
眩しい光がカーテンの隙間から薄暗い部屋を突き刺す。
光の先にはベッドの上で布団にくるまる一人の少年がいる。無造作に伸びる焦げ茶色の髪をした少年が寝ていた。
ピピピピピピピピ!!
目覚まし時計が鳴り響く。
「ん、んーん…」
びくともしない。
ピピピピピピピピピピピピ!!
「うるせぇ!!!!」
目覚まし時計が部屋の壁にめがけて飛んでいく。
ばりーん!
目覚まし時計が砕ける音で、ようやく少年、烈我が目を冷ました。
「んぁー…ねみー。学校だりー。サボろうかな。」
やる気がまったく無いようだ。
部屋の壁は傷だらけ。テーブルの上にはいくつもの砕けた目覚まし時計の残骸が山積みになっていた。
「あれ…?俺、泣いてたのか?」
鏡を見てふと気付く。涙を流したあとがある。
「なんか俺、昨日変な夢見てたような…」
不思議に思うが、気にするのをやめた。
朝起きて携帯を見る。
朝起きてすぐにとる行動の定番であろう。
「ん?リュウジからメールか…何!?」
リュウジとは、彼の高校のクラスメイト。
[おいおい明日俺んちクラスに転校生くるってよ!しかも女の子らしいぜ!明日遅刻すんじゃねーぞ(´Д`)!]
「よし、今日も学校頑張りましょう!」
あっという間に制服に着替える烈我。
れっちゃーん!!起きてるかーい!?
外から女性の声がした。
窓を開けて外を見ると、アパートの周りを掃除している女性がいた。
「ハルおばさん!バリバリ起きてるぜぇ!今から学校いくよー!!」
あのメールを見てからすっかり元気の良い烈我。
先程の寝起きが嘘のようである。
「あらめずらしぃ!れっちゃんがもぉ着替えも済まして学校行くだなんて!今日は雪でも降るのかしらねぇ不良息子!」
俺を軽くちゃかすこのハルおばさんは俺の住むアパートの大屋さんだ。
俺は高校二年の欄情烈我。小さいときに両親を亡くしてから俺はこのハルおばさんの元でお世話になってて、俺の母親も同然の存在だ。ハルおばさんのアパートで、俺は高1から一人暮らしをしている。
俺は部屋から飛び出し、階段をダッシュで降りてハルおばさんの元へ行く。
「ハルおばさん!今日は転校生が来るんだってよ!気合いバッチリ!」
「へぇー転校生ねぇ。若いわねぇそんなんで元気になるだなんて。いつもはアタシが何回も起こしても死んだように寝てるし、毎回あげてる目覚まし時計もすぐに壊すのに。ま、いいや。ホラ、これお弁当!」
ハルおばさんには頭が上がらない。
いつも何かとお世話になってばかりだ。
お弁当も毎日作ってくれる。
俺は学校までは原付で通ってる。
もちろん許可は取ってある。
俺はエンジンを付けてアクセルをひねった。
「サンキュー!じゃ、行ってきます!」
原付バイクのエンジン音が響いていった。
「まったく、朝から騒がしいバカ息子だわさ」