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第八話 森の主

 この小説……いよいよファンタジーかどうか怪しいなあ……近いうちにジャンル変更するかも。



第八話 森の主


 鬱蒼と生い茂る森の中に、颯太たちは降り立った。森特有の湿った空気が彼らの頬をなで、木々の臭いが鼻をつく。彼らは辺りを見回して何かないかと観察するが、どこまで見ても周囲はただの森だった。


「本当に別の世界なんですの? 私にはあまり元の世界と変わったようには見えませんわ」


「異世界といっても基本的な生態系は変わらないわ。違いが分からなくても無理はない」


「へえ、そういうものなんですの」


 メルは関心したような目でイコを見た。すると、イコはどことなく得意げな顔になる。そして、どんと胸を張った。小柄な彼女には不釣り合いな膨らみがたぷたぷと波打つ。


「それはいいけどさ、これからどうするんだ? このままじゃ何にも始まらないぞ」


 周辺の様子に夢中になっていた颯太が思い出したようにイコに尋ねた。イコは自身の胸にまったく視線を向けなかった颯太に、悔しいような腹立たしいような気分になる。イコの頬が飴でもなめてるかのように少し膨れた。しかし、膨れながらも彼女は颯太の質問に答えた。


「私の持っている情報によると、この先に大きな街があるわ。まずはそこに向かう。先のことはそれから」


「そうだな。まずは人に会わないと。道はわかるのか?」


「まかせて。ネオ・ヘスラーのコンピュータにはあらゆる世界の地図情報が入っていたわ。だから私も地理には詳しい」


「そうですか。それなら早速行きますわよ」


「ちょっと待って」


 メルが会話に割り込んできた。彼女はそのまま姫だからか、リーダーのように宣言すると出かけて行こうとした。だがそこで、イコが早速出かけようとするメルを止めた。彼女はメルと颯太に勝手に出かけないように、と言って船に戻る。そして、船の中にある機械をいじった。

 不意に、船の姿が景色に溶けるように消えた。メルと颯太は驚いて、船のあった場所に戻る。二人は目を凝らして消えた船を探した。しかし、船はどこにもない。


「どうなっていますの!」


「俺にも分からん!」


 二人は驚きのあまり顔を見合わせて叫ぶ。その腰はすでに抜けてしまいそうだった。


「私が船をしまったのよ」


 森の木陰からイコがひょこっと現れた。メルと颯太はお化けでも出たようにびくりと震えた。


「イコ、びっくりさせないでくれ」


「そうですわよ! 心臓が止まるかと思いましたわ!」


「ごめん……少し驚かせたかっただけなの」


 イコはしゅんとうなだれた。その反省した様子に二人は険しかった顔を緩ませる。


「そんなにあやまらなくていいよ。少し驚いただけだから。それで、船はどこにやったのさ?」


「船は異相空間に格納したわ。放置していたら見つかった時に大変だもの」


 颯太とメルはイコの言った言葉の意味が良く分からなかった。特にメルは科学の知識がまったくないので、颯太よりもさらに意味が分からない。なので、ポカンと間抜けに見えるぐらい口を開けていた。


「異相空間? なんですかそれは。居候の親戚ですの?」


「違う。異相空間というのはこことは微妙にずれた空間のこと。そこに様々な物をしまって置けるのよ。それで、しまった物を取り出す時はこの鍵を使えばいつでもどこでも取り出せるの」


 イコはそういって懐から小さな棒のような物を取り出した。人差し指より少し太くて長いぐらいのそれは、黒くて五角形をしていた。確かに何かの鍵のように見えなくもない。颯太とメルはとんでもない道具の登場にしばし呆然とする。


「……実はイコってネズミが嫌いだったり、百年ぐらい未来のロボットだったりしない?」


「そんなわけないわ。それよりも早く出発しない?」


 颯太のおバカな発言にそっけなく答えたイコは早く出発するように二人を急かした。まるで何かに追い立てられているようだった。


「よし、じゃあ出発しよう!」


 数十秒後、颯太たちは街を目指して夜の道を歩き出した。森の中は闇に包まれていて、不気味な静寂に満ちている。その中を三人はメルが魔法で作った小さな明かりだけを頼りに歩き出した。


「街はまだですの~? 私、歩くのには慣れておりませんわ」


 三人が歩き始めてから三十分ほどたっただろうか。ここでメルが駄々をこねだした。お姫様育ちで歩くのには慣れていなかったらしい。颯太やイコに向かってどれだけ歩かせるつもりかと不満を漏らす。だが、ドラゴンだけあって体力はあるのか速度は落としても歩くこと自体は止めない。


「そろそろ休憩にしましょう」


 メルの文句に耐え兼ねたイコが、休憩することを提案した。すると、メルは颯太の答えを待たずに近くの石に腰掛ける。颯太はそんなメルのわがままな態度に眉をひそめたものの、口にはしなかった。


「さてと、もう出発しましょう。急がないと」


 五分と経たない内にイコが座っていた岩から立ち上がった。その様子はどことなくそわそわして落ち着きがない。そのことに気がついたメルと颯太は怪訝な顔をする。


「さっきからあなた焦ってませんか? 一体何があるというのですの?」


「実はこの森、真夜中を過ぎると……出たわ!」


 イコは空中を指差した。颯太とメルはすぐにイコの指差した方に顔を向ける。すると、二人の顔が見る見ると血の気を失っていった。彼らは肩をがくがくと震わせ、歯をかちかち鳴らす。


「ドラゴン!?」


「違いますわ! ドラゴンはあんな風に透けたりしません!」


 周囲の巨木に比べても圧倒的に巨大な身体に、空を覆わんばかりに広げられた翼。そのような身体を持つ生き物が視線の先にはいた。その身体から放たれる威圧感や迫力などは他の生物を震えさせ、怯えさせるには十分過ぎるほどだ。しかし、これだけでは三人はあそこまで恐怖はしなかっただろう。三人が恐怖に包まれた最大の理由、それはそのドラゴンのような形をした生き物が水の固まりのような、何か透明なもので構成されていることだった……。



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