第七話 はじめまして魔法世界
今回は短めです。
第七話 はじめまして魔法世界
透き通るような蒼の空間。そこには色とりどりの球体が浮かび、時折たなびく虹色の靄がどこまでも広がっていた。
蒼と球体の色が美しいコントラストをなす中を、一隻の次元船が飛んでいた。その船体にはクアーズとかかれている。
「これが超次元空間よ。空みたいに見えるから次空なんて呼ぶ人もいるわ」
「ああ、うん……すげえ……」
操縦桿を握っているイコが、窓の外の景色に目を輝かせている颯太に言った。颯太は半分上の空でイコの話を聞き流す。彼はさっきからずっと、窓を覗いては感嘆したようにため息をついてばかりいた。
「う、うーん……」
颯太とイコが何となく噛み合わない会話を続けていると、メルが身体を揺らした。彼女は目を擦り、よろよろと起き上がる。颯太とイコは互いに顔を見合わせた。
「変な場所……はっ! イコさん、颯太さん! あれから何がありましたの!」
「落ち着いて。私たちは無事にネオ・ヘスラーの基地から脱出したわ。今はこの船であの世界とは別の世界に向かっているところ」
「じゃあじいたちはどうなりましたの? ここにはいないようですけれど……」
「それは……」
三人に重苦しい沈黙がのしかかった。エンジンと計器の立てる微かな音だけが流れていく。
メルの額から汗が滴り落ちた。ここでようやく、颯太がその重い口を開く。
「確認したわけじゃないけど……たぶん全員殺されてしまっただろうな……」
「……やはりそうですか、仕方ありませんわね。元より死は覚悟の上でしたわ」
メルは顔を伏せた。さらに着ている白いローブを使って顔を覆う。啜り泣く声が口から漏れ聞こえてくる。イコも颯太もやるせなさのあまり、その様子を見ていられない。
二人が顔を下に向け、メルから目を離した時、メルは懐から鋭利なナイフを取り出した。そしてそれを振り上げ、自らの胸元に向かって振り落ろす!
「何をするんだ!」
間一髪、メルの異変に気がついた颯太がナイフを掴んだ。彼はそのままナイフを押し曲げると、後ろに払い落とす。メルは使い物にならなくなったナイフを呆然と見つめた後、颯太に敵意剥き出しの視線をぶつける。
「どうして死なせてくださらなかったのですか! 一族の者がみな死んだのに私だけおめおめとは生きられませんわ!」
「馬鹿! あいつらはメルが死んでも悲しむだけだぞ! お前は生きろよ!」
「そんなの押し付けですわ! 彼らだって私が名誉を守って死ぬことを望みますわよ!」
そこから二人の押し問答が始まった。激しい言葉の応酬が繰り広げられる。
それがしばらく続き、二人の息も上がり始めた時だった。
「メル。私たちはね、あなたの部下のおかげで基地を脱出できたの。あなたの部下は間違いなくあなたが生きることを望んでいた」
黙っていたイコがようやく口を開いた。穏やかで、それでいて強い意思を感じさせる声が船内を満たす。そのイコの言葉は不思議とメルの心に届いた。
「今の言葉、本当ですの?」
「ええ……。あなたの部下のドラゴンが私たちを逃がすため、あの女を足止めしたわ」
「そんな……」
激昂していたメルは振り上げていた拳を降ろした。彼女は肩をすくめて、黙り込む。その表情は虚ろでどこか遠くに想いを馳せているようであった。
「決意はそのうちで良いんじゃないか? 死ぬことならいつでもできる」
颯太はメルの肩に手をかけて言った。メルはただ無言で頷き、そして笑う。その泣き腫らした頬がほんのり赤かったのは、泣いたからだけではなさそうだった。
「よかった。さあ、もうそろそろ着くわよ!」
「えっ、着くって?」
「さっき言ったのに、聞いてなかったのね……。私たちはネオ・ヘスラーに狙われているわ。だから、様々な世界を巡って対抗するための力を蓄える必要があるの。だから今、強力な魔法のある世界を目指しているのよ」
「なるほど」
颯太は頷くと、改めて窓の外に注目した。メルも席から身を乗り出して窓を覗く。船はオレンジに輝く巨大な球体に迫っていた。球体はこちらを誘うように揺らめいている。
「突っ込むわ。少し揺れるわよ!」
イコは操縦桿を前に倒し込んだ。船の中の重力が一瞬軽くなり、船体が急加速する。
「うわあああ!」
「ぶ、ぶつかりますわああ!」
船が球体に真っ正面から突入した。船体が大きく揺れ動き、メルと颯太は席にしがみつく。船を光が包み、船内を閃光がほとばしる。目が焼けるような光に三人が目を閉じると、次の瞬間には窓の外が闇に浸されていた。いくつもの星明かりが窓から船内に差し込んだ。
「着いたわ。世界ナンバー27、キューリウスよ」
真っ先に視力を回復したイコが窓から周りを見て言った。颯太たちも周りを見てみると、そこには夜の闇に覆われた深い森が広がっていた……。
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