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第五話 三百と三万四千

けっこう急展開です!



第五話 三百と三万四千


 闇の堆積した地下深く。高級車のエンジンのように静かな音を立てるコンピュータの根元で、颯太はキーボードを叩いていた。男にしては細い指が踊り、目の前にあるモニターに数字が流れていく。 その様子を他の二人は真剣な眼差しで見守っていた。四つの視線が颯太の背中を焦がす。颯太は緊張から額に汗をたらした。


「これで終わり!」


 颯太は最後とばかりに左端につけられていた大きなボタンを押した。コンピュータの動作音が変わり、赤い光が下から上に点っていく。最上部が赤くなったところで、モニターに拘束プログラム解除と表示された。


「ありがとう。助かったわ」


「たいしたことないよ。それよりもこれからよろしくな」


「ええ、もちろん」


 颯太とイコはがっちりと握手をした。続いて、イコはメルとも握手をかわす。 三人の表情は晴れやかで、明るい雰囲気に満ちていた。


「さて、用は済んだようですわね。じいたちのところに戻りますわよ」


 しばらくした後で、メルはそういって来た道を戻ろうとした。

 すると、突如としてやかましい警報音が響き渡った。


「どうなっていますの颯太さん!」


「俺に聞いても俺にはわからん!」


「ちょっと待って。調べてみる」


 メルと颯太が鳴り響く警報音や点滅する光に驚いて慌て出す。しかし、イコは冷静だった。彼女はコンピュータに近づくと、その冷たい表面に直接手で触れた。イコの手がぼんやりと淡い光を発する。イコは目を閉じて、そのままじっと動かない。そして数十秒後、彼女はようやく言葉を発した。


「基地内部に侵入者。おそらく本部から来た戦闘員よ。推定レベルは三万四千、現在第三区画を第二区画方面へ移動中」


 イコが険しい表情でそう告げると、モニターの画面が切り換わった。さっきまで数字しか表示されていなかった画面に、女の姿が映し出される。


「あれが侵入者なのか? あまり強そうには見えないな」


「そうですわね。だらしなさそうでみるからに弱そうですわ」


 画面の向こうの女は黒い将校風のコートを着崩し、大あくびをしていた。和風美人だがあまり締まりのない顔で、お世辞にも強そうには見えない。


「弱いなんてとんでもない。ああ見えても推定レベル三万四千よ」


 イコは弱そうな敵に拍子抜けしたような二人に、鋭い目をして言った。その顔はまさに真剣そのもの、迫力に溢れていた。イコに圧倒される二人。しかし、二人にはどうしてそんなに警戒するのかわからなかった。


「あいつが強いってことは良くわかったけど、具体的にどれくらいなのさ。さっきから推定レベルとか言ってるけど基準がわからないよ」


「レベルというのはその人の持つ身体能力、魔力を総合して表す単位。高ければ高いほど強いわ。普通の冒険者がだいたい十ぐらいってところね」


「ということはさっきの女は冒険者の……三千四百倍!」


 メルと颯太の顔から血の気が一気に抜けていった。二人は目を大きく見開いて、再びモニターをみる。女は悠々と基地の中を歩いていた。


「ち、ちなみに私たちのレベルはどれくらいなんですの?」


「頭を貸して。今から測ってみるから」


 イコはメルと颯太の額に手を当てた。そして、しばらく目をつぶってぶつぶつつぶやいた後に手を離す。二人はわらにもすがるような目でイコを見つめた。しかし、イコは重い口を開くと二人にとって衝撃的なことを告げた。


「メルが二百二十の颯太が三百よ……」


「えっ……」


「そ、そんな……」


 二人が石化した。二人のまわりに形容不能な沈黙が訪れる。二人とも一万ぐらいはレベルがあると思っていた。


「冗談ですわよね? 私は冒険者をまとめて千人ぐらいなら倒せますわよ」


「本当よ。低く思えるけれど、平均的な魔王や勇者が二百から二百五十ぐらいのレベルだからあなたたちのレベルは妥当な数値」


 イコは淡々とメルに言う。しかし、その顔はどこか苦しそうであった。メルは押し黙り、無力感のあまり俯く。

 こうしている間にも、女はゆっくりだが確実に近づいてきていた。彼女は階段を下り、基地の深部へと向かってくる。


「まっすぐこちらに向かっている……!」


 女は地図でも持っているのか、最深部の方へ一直線に歩いていた。しかも、すでに廃棄予定のボロボロになった基地などどうでも良いのか、進行方向にある壁などを破壊して突き進んでくる。


「このままだとあと三分以内にこの場所まで到達されてしまう……。急いで逃げるわよ」


 イコはコンピュータから離れると、それを挟んで空間の向こうにある扉へと歩いて行こうとした。颯太もイコと一緒に歩いて行こうとする。だが、メルはもときたエレベーターの方へと向かった。


「どこ行くんだ!」


「じいたちを迎えに行くんですわ」


「そうか、そういえば……でも時間が」


「あなたは私に部下を見捨てろと言う積もりですの!」


「そういう訳ではない。だけど……」


「だけどもへったくれもありませんわ! 私は行きますからね!」


 メルは颯太を突き放すと、走り出した。するとイコがその背後に迫り、首筋に手を添えた。電撃が走り抜けたようにメルの身体が痙攣した。その足は止まり、身体はその場で崩れ落ちる。


「イコさん……何を……」


「ごめんなさい。あなたを無駄死にさせたくはなかった」


「……あとで覚えてなさい……」


 メルはそう言い残して気絶した。イコは女性にしては割合大柄なメルの身体をその小さな身体で軽々と抱き上げる。

 そして呆気に取られている颯太にメルを預けると、自身は前に立って走り出した。


「こっちにまだ船があるはず。それで逃げるわ」


「わかった!」


 走り出したイコと颯太はこの言葉をかわすと、その後は一心不乱に走り続けたのだった。



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