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第三話 思考生命体

 この小説に評価がどんどんついている! 作者はすごくびっくりしてます!



第三話 思考生命体


 颯太とメルたちは基地の最深部に到達していた。照明が落ちていて、通路は薄暗い。敵にはすでに抵抗する戦力も無くなっているのか、颯太たちの足音だけがせわしく響いていた。


「確かそこだ!」


 颯太が分厚い扉を指差した。独特の存在感と威圧感を放つ扉に、メルの手がかけられる。鋼が軋み扉が悲鳴を上げた。


「巫女、巫女! 助けに来ましたわ」


 何もない空間をメルの声が通り抜けた。返事はなかった。ただ、幾何学を描く魔法陣だけが虚しく輝いている。


「颯太さん!? いませんわよ!」


「きっと移動したんだ!」


「くうっ、もっと確実な情報を言って下さいまし!」


 メルは腹立たしげに扉を蹴飛ばすと、また走り出した。その後を颯太とメルの部下たちは慌てて追いかけた。メルはよほど焦っているのだろう、目が血走っていた。


「行き止まり……。巫女は? どこへ行ってしまったんですの!」


 通路の突き当たりで、メルは錯乱状態に陥った。それを彼女の部下たちが抑えようとする。しかし彼女の力は強く、なかなか抑えることができない。


「落ち着いて下され! 姫、姫ぇ!」


 彼女の部下の老人が声を枯らして叫び続ける。それを見た颯太は、メルの肩に手をかけて強引に抑えつけた。そして彼女の目を真っすぐ見据えた。


「事情は詳しく知らないけど、みんなが困ってるだろ。落ち着け、落ち着くんだ」


「ううっ!」


 颯太に抑えつけられたメルは、頭に血が上っていたのが収まったのか、ようやく落ち着いてきた。彼女は颯太の手を引き離すと、大きく息を吸って背筋を伸ばす。


「私としたことが、皆さんに迷惑をかけましたわね」


「無理もありませぬ。巫女は姫の妹君。それがいなくなってしまったのですから、取り乱しても仕方ないことです」


「そう言ってもらえると助かりますわ」


 萎れたようなメルに、老人が優しく声をかけた。それに応えてメルの表情も明るさを取り戻す。その様子は孫娘と祖父のようであった。


「今頃聞くのは何だけど……。巫女ってどんな存在なのさ? さっきはめちゃくちゃ急いでたみたいだったから聞けなかったんだけど」


 さっきまでとは違ってゆっくりと歩き出したメルに、颯太は巫女について尋ねてみた。雰囲気から大切な存在らしいとはわかったが、それ以上は分からなかったのだ。


「巫女というのは私達王族から選ばれる存在で、王以上に権威がありますの。ドラゴン族で最も高い魔力を持っていて、ただひとり異世界召喚魔法を使える存在でもありますわ。彼女を失うということは我々にとって一番あってはならないことですわね」


 簡単な説明であったが、大体のイメージが颯太にはつかめた。颯太はメルに向かってわかったとうなずく。すると近くにいた老人が、その説明にさらにつけ加えた。


「今の巫女は姫の妹君、フィーリアさまです。だから姫はこんなにも必死なのですよ。姫と巫女さまは仲良しでしたからなぁ」


「じ、じいっ! 変な顔をしないでください!」


 いかにも好々爺然のような顔をした老人に、顔を朱に染めるメル。恥ずかしい思い出でもあるようだ。

 一行は束の間の間和気あいあいとした空気になった。しかしそれも少しの間だけ。すぐに張り詰めた雰囲気に戻った彼らは、最深部の部屋を念入りに調べ始めた。壁から床から目を皿にして、耳を擦りつけ、徹底的に何かないかと調べる。もしかしたら警察より念入りかも知れないぐらいに。


「風の音?」


 魔法陣のある部屋で、颯太の驚異的な聴力がわずかな音を捉えた。颯太は床に耳を張り付ける。台風の日に、電線が鳴るような音が聞こえてきた。


「下になにかある!」


「えっ、扉なんてありませんわよ?」


「隠されてるんだ。ちょっと待ってて」


 颯太は床に手を滑らせ、感触を確かめる。滑らかな床に一カ所だけゴツゴツとした感触の部分を確認した。颯太はそこを思いっきり殴りつけた。床が揺れ、中華鍋を叩いたような音が幾度となく響く。


「結構頑丈だ! 手伝って!」


「わかりましたわ。みなさんも手伝ってくださいまし」


 颯太は予想外に頑丈な隠し扉に舌を巻いていた。改造人間となって以来、彼の攻撃を防いだ物は始めてだった。

 メルと部下たちは颯太と共に床を叩き始めた。床が揺れ、隠し扉にかけられた鍵が歪み始める。

 火花が走った。隠し扉が開き、颯太たちは下に真っ逆さまに急降下する。


「こ、これは一体なんですの……」


「コンピュータ……かな……」


 颯太たちが下に落ちると、想像できないような光景が広っていた。円筒形の空間が地の底まで続けていて、その中心を彩色豊かな光を放つ無機質な物体が貫いている。その物体は八角形で、羽虫が羽ばたくような音を出していた。それはまるで宇宙船の中心部のようだった。


「あなたたちは侵入者?」


「誰だ!」


 颯太たちの背後から声がかかった。颯太たちは振り向くと同時に戦闘態勢を取る。するとそこには巫女によく似た少女が立っていた。


「巫女! 無事だったのですわね!」


「違うわ。私は彼女の姿を借りているだけ。ほら、目の色が違う」


 少女は興奮するメルに、自身の右目を示した。深紅の瞳がそこにはあった。巫女ならその目は蒼色のはずである。


「じゃ、じゃああなたは何者ですの!」


「私は高次元量子思考生命体開発コード2283よ」


 突如現れた謎の少女は、颯太たちにはさっぱり理解できない肩書きを名乗ったのだった。



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