第二話 ドラゴン少女と改造人間
今回は違う視点からの話です。
第二話 ドラゴン少女と改造人間
金属に覆われた無機質な通路の中を、白い一団が走っていた。けたたましいサイレンが鳴り響き、壁の穴から数えるのもバカらしいほどの光線が降り注いでいる。しかし、一団はその弾幕を気にすることなく走り続けていた。
「今のところ抵抗は激しくありませんわね。これならなんとか巫女を救出できそうですわ」
「ほほ、どうやらあの恐ろしい連中は留守のようですからな」
集団の先頭にいた少女と老人が笑いあった。彼らはもうまもなく施設の最深部に到達する。それにもかかわらず、彼らの心配していた強敵は現れずに、代わりにそれによく似た雑魚ばかりが現れていた。
「また変なのが現れましたわね。邪魔ですわよ」
少女の前方の通路いっぱいに、箱のような物体が現れた。銀色の箱は、少女の姿をしっかりと捉える。箱の上に付けられているカメラが不気味に光を反射した。
「侵入者確認。排除セヨ」
箱こと警備マシンは無機質に告げると、膨大な熱量を持った青白い光線を放った。通路の中を熱が駆け巡り、壁が赤熱する。少女は眼前に迫った光線を舞ってかわした。柔らかな金髪がたなびき、豊かな稜線を描く膨らみが波打つ。
「みなさん大丈夫?」
「姫、今の攻撃で二人やられました」
「なんてことですの!我がドラゴン族の戦士がやられるなんて!」
部下がやられたことに少女は青ざめた表情をして、唇をギュッと結んだ。しかし彼女はすぐに前を向き直した。少女の翡翠色の瞳が警備マシンを射る。
少女の身体が跳んだ。その華奢なはずの白い拳が弾丸のように警備マシンにめり込む。装甲を貫かれたマシンは青くスパークすると、粉々に爆散した。
「倒れたものは仕方ありませんわ……。今はとにかく先を急ぎましょう」
倒れた部下を通路の端に寄せると、少女たちは再び奥に向かって走り出した。彼女たちは焦り出していた。彼女たちの一族にとって最も大切な巫女。それがこの施設に囚われているはずだったのだが、まだ見つかっていないのだ。もうまもなく最深部だというのに。
そんな焦りもあって彼女たちの速度はますます速くなった。幸いなことにさきほどのような強力な存在は現れない。彼女たちは迷宮のような通路を右へ左へと先へ進む。
すると突然、前方の通路に取り付けられていた扉が吹き飛んだ! 通路に埃がもうもうと立ち込める。
「何かいますわ!」
少女は煙る通路に影を見た。ゆらゆらと揺らめく影はやがて確かな像を結ぶ。恐怖で塗り潰された黒髪に、見る者に死をさそう闇色の瞳。 それは三ヶ月前に現れ、少女たちの世界を破壊と殺戮で支配した『改造人間』たちとまったく同じ香りがした。
「こ、こないで下さいまし!」
恐怖と絶望に囚われた少女は安息を求めて後ろに下がっていく。しかし、魔王すら及ばぬ終末は身体を揺らしながら、ひたひたと少女に迫った。恐怖に絡めとられた少女の部下たちは、歩み寄ることすらできない。
「い、いやぁ! 死にたくない!」
「落ちついて! なんでそんなに怖がるんだよ!」
世界の破壊者と呼ばれた存在と同じ気配の少年は、驚くほど気弱そうな声で叫んだ。
★★★★★★★★
「それじゃあ、あなたは敵じゃないのですね?」
「ああ、改造されてはいるみたいだけど精神的には普通の日本人だ」
「日本人?」
「そこは気にするな」
颯太は殺気だっていた少女と部下たちをやっとの思いで宥めると、自分のことを説明した。少女たちは限りなく疑わしげな顔をした。しかし、一応納得はしたらしく、険しい表情のままではあるが颯太の説明にうなずいた。
「それでは自己紹介をしませんこと? 一応は仲間になりましたことですし」
「そうだね、なら俺から。俺は鳴海颯太。聖海学園一年だ」
「私はメル・レルーナ。最強にして誇り高きドラゴン族の姫ですわ」
颯太とメルは互いに手を取り合い、握手をした。この世界でも握手は地球と同様な意味を持つようだ。
「ねえ、今ドラゴンっていったけどさ、ドラゴンってあのでっかい奴?」
メルと手を離した颯太はすぐにそのことを尋ねた。颯太の知識通りなら、ドラゴンは山のような身体を持つ最強クラスのモンスターはずだった。
「ええ、そのドラゴンですわ」
「え、ならなんで人間と同じ姿なのさ」
「魔法で変身しているのですわ。ほら、そこのあなた、戻ってみなさい」
メルは最後尾にいた男を指差した。颯太は人を指差していいのかと思ったが、姫なので問題ないのだろう。
メルに指示された男は両手を広げると何やら唸り出した。周りにいた男たちはすぐに男から離れる。男の唸り声はますます激しさを増していった。彼の身体が青白い稲妻を散らし、空気を焦がす。男の身体が一瞬膨らんだように見えると同時に、光があたりを包んだ。
「すっ、すげえ!」
颯太は目の前に現れた紅いドラゴンに大興奮した。すぐに近づいていって身体の隅々まで執拗に眺める。
「おお、ドラゴンの翼はこうなっているのか……」
「あの~、私たち急いでいますからこれぐらいにしてくださいな」
「あ、そうなの。ごめんごめん」
颯太は頭をかきながらドラゴンから離れた。すると、ドラゴンは人からドラゴンになるときとは違って、あっという間に人に変身する。
「それでは巫女を探しに行きますわよ」
メルは部下たちに号令をかけて走り去って行こうとした。それを颯太が押し止める。メルは何事かという顔をしたが、素直に立ち止まった。
「ちょっと待って。その巫女って銀髪で蒼色の目をした子じゃない?」
「ええ、そうですわ! もしかして知っていますの!」
メルは颯太の瞳をまっすぐ見つめて、颯太に詰め寄る。颯太は身体に当たる柔らかい感触に頬を真っ赤にした。
「その子なら、えーと……確かあっちにいるはずだ!」
「ありがとうございますわ!」
颯太は巫女と出会った真っ暗な部屋の方向を示した。メルたちは颯太の言った方向にすっ飛んでいく。颯太はそれを見て置いていかれまいとした。
「俺も連れて行ってくれ!」
「わかりましたわ! なら急いで下さいましね!」
颯太の申し出にメルは走りながら快諾した。こうして颯太とメルは基地の最深部へ向かって駆け出した。
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