第一話 秘密結社
第一話 秘密結社
秘密結社ネオ・ヘスラー。三流特撮映画にでも出てきそうな名前だが、非常に恐ろしい悪の組織だ。彼らは高度な技術力を保有し、次元を超えて世界と世界をまたにかけて活動している。ある時は地球によく似た世界、またある時は魔法の跋扈する世界といった具合に。そんな彼らの野望はすべての世界の征服。そのために、すでに技術力の低い魔法文明の発達している世界を中心としてすでに百を超える世界を落としている。
しかし、すべての世界を征服するという彼らの野望を成し遂げためにはまだまだ膨大な戦力が必要であった。そこでネオ・ヘスラーは異世界召喚魔法を利用することにした。
異世界召喚魔法。この魔法は本来、危機に陥った国や世界が異世界から強力な勇者などを召喚するために使う魔法である。だが、ネオ・ヘスラーはその魔法を使える数少ない人間を拉致して自分達の戦闘員を召喚するために使わせているのだ。
「やめろ、やめてくれえ!」
そんな異世界召喚魔法の犠牲者の一人である鳴海颯太は現在、絶叫していた。薄暗い室内に聞くに堪えない叫び声がこだまする。彼は両手両足に頑丈な金具を付けられ、手術台のような物に固定されていた。
そんな彼の身体にロボットアームのような物が迫っていた。その無骨な三本指の先には小さな針が光っている。颯太はそれを身体に刺されまいと必死にもがいているのだ。
「暴れるものではありませんよ。あなたはこれから栄えあるネオ・ヘスラーの戦闘員になれるのですからねえ」
ガラス越しに颯太の様子を見ていた狂一が口元を歪ませた。彼は颯太の悲鳴を無視して喜々とした顔でロボットアームを操作する。針が颯太の首筋に刺さった。麻酔薬が流入し、颯太は苦悶の表情のまま眠りに落ちた。
★★★★★★★
颯太が眠りに落ちてから数時間後。いよいよ改造手術は最終局面まで来ていた。
「後は洗脳するだけ。ふふ、良い戦闘員ができたものです」
狂一は想像以上に高い能力を持っていた颯太に感心していた。異世界から召喚された勇者というのは強大な魔力や身体能力、そして飛び抜けた特殊能力を持っている場合が多い。
そして、颯太もその例に漏れてはいなかった。颯太の場合、身体能力や魔力はそれほどでもないが特殊能力が素晴らしかった。
「さて、それでは」
喜び勇んで狂一は目の前にあるコンピュータ画面の赤いボタンをクリックしようとした。そこを押せば、洗脳作業が始まって颯太の改造は完了する。狂一の手が伸びて、マウスに接近していく。
あと数センチ、そこまで迫ったところで喧しい足音と共に男が手術室に入ってきた。彼は作業を中断して男を睨む。
「なんだね。私は今忙しいのだよ」
「それが、施設内に侵入者がありまして。現在こちらに接近しておりますので博士にも避難していただきたく……」
「なんだと? 馬鹿な、何者が侵入したのだ」
男の報告に狂一は首を捻った。そして男に疑わしげな視線を向ける。狂一の知る限り今のところネオ・ヘスラーに敵対するような大規模な組織はなかった。またこの施設の存在する世界はすでにネオ・ヘスラーの支配下にあり、知的生命体はすでにほとんど絶滅しているはずだった。
「どうやら現地種族の数少ない生き残りのようです。大型爬虫類のような生き物が人間型に変化して侵入して来ました」
「アレイめ、危険な知的生命はすべて絶滅させたといっていたが、どうやら見逃していたようだな」
狂一は戦闘力は凄いが頭の残念な同僚を思い出して顔を紅潮させた。そしてさらに忌ま忌ましげに拳を握りしめる。
「それで侵入されたのは仕方ないかもしれん。だが、戦闘員どもはどうしたのだ。そんな連中くらい追い払えるだろう」
「いえ、それが侵入者たちの戦闘力は非常に高く、ここにいる三級以下の戦闘員では歯が立たないのです」
狂一は男の言葉に納得した。戦闘員にはランクがあり、勇者などの召喚者を改造したようなランクの高い戦闘員はこの施設にはいなかったのだ。
「まったく、仕方ないな。まさか巫女は奪われたりしていないだろうね」
「もちろん大丈夫です。すでに避難していただいておりますから」
「ふむ、良かった。ならばここはおとなしく逃げるとしよう。ここには巫女以外にはさほど重要な物はないからね」
「わかりました。あちらに船が手配してあります」
男は狂一に部屋を出るように促した。すると彼はコンピュータの電源を落とすと、拳銃で撃った。銃口から青白いプラズマが輝く。コンピュータの画面が焼け焦げ、シュウッと煙りが出た。
「これでよし、データは安全だ。そうだ忘れていた。君、ここにいる改造中の戦闘員を運び出してくれ」
狂一は男にそう命じると、自身はすでに用意されている逃亡用の船へと向かった。手術室の金属製の厚い扉が閉められる。男は狂一が立ち去るのを敬礼で見送ると、ガラスの向こうの颯太へと向かった。そのまま男は颯太の手足の金具外して、颯太の身体を運びだそうとした。すると、ここで男にとって想定外のことが起きた。
「うーん、ここは……」
麻酔が効いているはずの颯太が、瞼を擦りながら目を覚ましたのだ。
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