第十二話 冒険者ギルド
見てわかると思うのてすが、タイトルを変えました。ですが、これからもよろしくお願いします!
第十二話 冒険者ギルド
昼間のざわめく食堂。そこの一角にひんやりと重い空気が漂っていた。
「本当にそれで良いのね?」
「ああ、もちろん」
静かにイコの問い掛けに答えた颯太の目は、強い意志に溢れていた。イコはその目を真っすぐに見据えた。そして、深く頷く。メルもまた同様に頷いた。
「方針は決まったわね。ネオ・ヘスラーから巫女を奪還し、そして潰す。これが今後の私たちの行動目標よ」
イコはそう宣言すると、一枚の紙を取り出した。真っ白でコピー用紙より一回り大きい紙には、地図のような物が描かれている。颯太とメルは少し身を乗り出して紙を覗き込んだ。
「ここに描いてある世界がまだネオ・ヘスラーに侵略されていない世界で、修行ができそうな世界よ。当面はこれらの世界を回って力を蓄えたり、仲間を増やしたりしましょう。とりあえずレベルは三万五千、仲間は六人を目処にしておくわ」
「そうだな。レベルを上げないことには話にならないな。仲間も足りないし」
「私もその意見には賛成ですわ」
「なら決定。まずはこの世界で修行を開始しましょう。さっきちょうど良い施設の情報を手に入れたから、ご飯を食べたら早速行ってみようと思うわ」
「ちょうど良い施設? なにそれ」
「見てからのお楽しみよ」
「ふーん、なら楽しみにしてよっと」
颯太たちはイコの言葉に頷くと、もぐもぐと食事を食べるのを再開した。三人とも食欲は素晴らしく、たくさん盛り付けられていた皿もすぐに空となった。
「ごちそうさま!」
三人は挨拶を済ませると、食器を返した。その時、食堂のおばちゃんが空になった食器の多さに苦笑いをした。三人は気恥ずかしさを感じてそそくさと外に出る。
「すげえ人。スクランブル交差点みたいだな」
「二人ともこっちよ!」
「ちょっと待って下さい! 私は人が多いところは苦手でしてよ」
三人が外に出て見ると、予想外に人が多かった。狭い通りを数え切れないほど人が行き交っている。颯太たちは互いに呼びかけながら道を歩いていったが、途中で何度もメルが人に溺れた。
メルを救出したり、人波に押し戻されたりしながら三十分。夜とは違った感じに疲れた三人はようやく目的地に着いた。
「ここよ。ここが目的地」
イコが目的地だといった赤い煉瓦づくりの建物は、その辺のお店の五倍ぐらいあった。さらにその入口の周辺には鎧を着たごついおっさんやら、ローブを着たお姉さんやらがいる。
「もしかしてここって……」
颯太はその建物の正体を予想して目を輝かせた。いかにも興味津々でたまらないといった雰囲気だ。そんな颯太の手をイコたちは引っ張り、建物の中に入る。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」
中に入ると、すぐ正面のカウンターの受付嬢が挨拶してきた。颯太たちは軽く会釈すると、イコが代表して彼女と話を始める。
「こんにちは。新規登録したいのだけど、お願いできる?」
「はい、三人ですか?」
「ええ、そうよ」
「わかりました、少々お待ちくださいね」
受付嬢はカウンターの奥に入っていった。彼女が戻って来るまでの間、颯太たちはギルドの中を観察する。ギルドの中は赤い壁紙が張られていて、雰囲気は全体的にクラシカル。西部劇に出てくる酒場に清潔感と落ち着きを足したような感じだった。その中を個性的な鎧を着た冒険者たちがうろついている。彼らにはこわもてな人もいたが、いかにもならず者といった人はいなかった。
「お待たせしました。なにぶん新規登録をするのは久しぶりだったもので」
受付嬢が戻って来た。彼女は書類の束と、なぜか水晶球をカウンターの上に置く。そして胸ポケットからペンを取り出すと、颯太たちに手渡した。
「ここの欄に名前と年齢、出身地を書いてくださいね」
「ごめんなさい……私たち字が書けないの」
「あ、そうですか。それでしたら私が代筆しますね」
字が書けない人はたびたびいるのか、受付嬢は特に驚くことなく代筆を申し出た。イコは受付嬢に自分達の名前や年齢、さらに適当な出身地を伝える。出身地はおそらく地図情報から選んだのだろうが、特に疑われることはなかった。
受付嬢はすべての項目に記入を終えると、書類をしまい、水晶球をズイッと前に出してきた。そしてにっこり微笑み、颯太たちをみる。
「必要事項は記入できましたよ。あとは能力確認だけです。さあ、この水晶に触れてみてください」
颯太たちは誰から触るのかと顔を見合わせた。すると、メルとイコの二人が颯太をじっとみる。颯太はその雰囲気に負けて水晶球にゆっくりと触れた。
颯太に触れられた水晶球は赤、黄、青……と次々に色をかえていく。明るくて暖かな光が現れては消え、また現れを繰り返す。その光のスペクタクルに颯太たちだけでなく、周りにいた冒険者たちまでもが注目した。
「これは……」
水晶球は最終的に真っ青に落ち着いた。南国の深い海のような色だ。それを目の当たりにした受付嬢は言葉を失い、たちんぼうになる。
「えーと、青でこの純度ですから推定レベルは三百から三百五十……」
ギルドの時が止まった。受付嬢はおろか冒険者たちまで整然とその動きを止める。物音がしなくなり、室内は絶対的な静寂の空間となる。
「な、なんですの? こういう空気は苦手ですわよ……」
唯一、事態についていけていないメルの焦燥した声が、一切の音が排除された空間によく響いた。
最近、この小説の改訂作業に着手しました。大幅に変えることはありませんが、改行などをちょこちょこと。もしよろしかったら読んでみてくださると、ありがたいです。