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第十一話 異世界の街

 今回は颯太が決意する話です。



第十一話 異世界の街


 朝焼けに森が紅に染まる頃、颯太たちは街の前に来ていた。石づくりの建物の建ち並ぶ街は、狭い道がそこかしこを網目のように走っていた。早朝にもかかわらず人の姿がちらほら見られ、かなり都会のようだった。


「情報によるとここはサングースの街よ。まずは一休みしましょう」


「そうですわね。私は疲れてしまいましたわ」


 イコとメルは早速街の中へと入っていった。二人とも疲れているのかヘロヘロだ。それを後ろから颯太が追いかけ、呼びかけた。


「それはいいけどさ、お金持ってるのか?」


「持ってない。だけど換金できるものは持っているわ」


 イコは懐から小さな袋を取り出した。颯太はイコから袋を受け取り、中を覗き込む。中には黄金色に輝く豆粒大の金塊が入っていた。颯太は目を丸くして、イコを見る。


「どこで手に入れたんだよこれ!」


「ネオ・ヘスラーの船には現地での活動資金にするために金が積んであるの。クアーズにも少しだけど積んであったのよ」


「へえ、なるほど。確かにそうしておけば便利だな」


 颯太は納得した顔でイコに袋を返した。イコは軽く微笑んで袋を受け取る。そうしていると、メルが前から二人を睨みつけてきた。


「何をしていますの? 早く行きますわよ」


 メルは二人にそういうとすたすたと歩いていった。二人はやれやれといった顔をしてメルについていく。

 街をしばらく歩いたところで、ベッドの絵が描かれた看板を掲げた建物を見つけた。三人は足を止め、建物の様子を観察する。二階建てで窓の数から察すると十部屋はありそうな建物だった。


「宿屋かしら?」


「この大きさとベッドの看板からおそらく」


「なら入ろうぜ。もうくたくただ」


 颯太は観音開きのドアを開けると中に入った。中は落ち着いた雰囲気で、正面にカウンターがあった。奥には食堂のようなスペースも見える。どこの世界も朝早くに出発する旅人はいるようで、すでに何人か食事をしていた。

 颯太たちは宿屋の様子を一通り見ると、目の前のカウンターにいたおっさんに話し掛けた。


「部屋は空いてるかい?」


「ああ、空いてるぜ。上と中と下があるがどれにする? それぞれ一万、八千、五千ルナだが」


 宿屋のおやじが料金のことを告げると、イコが颯太の代わりにおやじの前に立った。彼女は袋を取り出し、金を少しだけ中から出す。


「私たちは長距離を旅するから、こうしてお金を金として持っているの。申し訳ないけど使えるかしら?」


「大丈夫だ。ちょっと待ってな」


 おっさんはカウンターの中をがさごそと漁り、古ぼけた天秤と重りを取り出した。そして、その天秤でイコの出した金塊を量ってみる。


「一つ五万ルナってとこだな。釣りは銀貨で払うが、それでも良いなら泊まってきな」


「じゃあ、中の部屋を二部屋頼むわ」


「毎度あり。ほれ、釣りの三万四千ルナだ。部屋は二階の奥二部屋だぜ。食事は昼は十二時、夜は七時からだから楽しみにしてな!」


 宿屋のおやじは階段を奥の指差して、実に良い笑顔をした。颯太たちはそれに軽く頭を下げると部屋に向かう。

 部屋は南向きの日当たりの良い部屋だった。颯太は早速ベッドに潜り込み、すやすやと寝息を立て始める。


★★★★★★★★


 太陽が空の中心に昇ったお昼十二時。いまだに眠りこけている颯太の部屋にイコとメルが入ってきた。


「まったく、寝相が悪いですわね」


 メルは布団を蹴飛ばしていた颯太を見て眉を吊り上げる。そして次の瞬間、彼女は颯太の耳元で叫んだ。


「ご飯ですわよー! 起きなさーい!」


「うわああ! 耳がああ!」


 颯太は耳を抑えてベッドから飛び起きた。メルは腰に手を当ててそれを見下ろした後、部屋から出ていく。部屋には颯太とイコだけが残された。


「私も先に行って待ってるわ。メルを一人にしておけないもの。颯太も準備が出来次第、一階の食堂にきて」


 イコもそれだけ伝えると部屋から出ていった。一人残された颯太は鏡と洗面台を使って寝癖を直し、最低限の身嗜みを整える。それができるとすぐに彼も食堂に向かった。


「颯太の席はそこ」


 食堂に着くと、すでにイコたちは食事を始めていた。颯太も彼女たちの隣に座り、食べ始める。スープに肉料理、サラダにパン、どれも暖かくてとてもおいしかった。


「颯太さん、もう少し丁寧に食べて下さるかしら」


「お腹空いてるんだよ。多少のことは勘弁してくれ」


 半日以上ぶりのまともな食事に颯太は吸い込むようにがっついていた。それをマナーにうるさいメルが見咎める。二人の間に火花が散った。


「そんな小さなことはどうでもいい。重要なのはこれからのこと」


 イコが些細なことで揉めている二人を仲裁すると、話題を切り替えた。二人は急に真剣な顔になる。


「それもそうですわね。今後はどうしましょう? 一応、私としましては巫女を奪還するために動くつもりですけど」


「私はみんなについて行くわ。私には帰るところも、行くところもないもの」


 イコの視線が颯太に向いた。メルも颯太と目を合わせる。颯太は大きく深呼吸をして、考えを落ち着かせた。


「うーむ……なあ、イコ。ネオ・ヘスラーが地球を襲うことってあると思うか?」


「地球……たぶん襲うでしょうね。今のところは大丈夫でしょうけど、近い将来は危ないわ」


「そうか……」


 颯太は黙った。そして、思考の海に埋没していく。二人は空気を読んで何も言わない。時の流れが滞り、遅くなる。彼らにはまわりの喧騒が別の世界の出来事であるかのようにさえ思えた。

 熱々だったスープがぬるくなった頃、颯太がついにその口を開いた。澱んだ空気がにわかに揺れる。


「俺はこれからネオ・ヘスラーと戦う」


 颯太の凛とした声が、食堂のざわめきに良く響いた。



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