第十話 仙人
ついに颯太の能力が明かされます!
第十話 仙人
青い魔力弾がスピリットドラゴンの透き通った身体にぶつかった。光が弾け、スピリットドラゴンの巨大な身体を包み込んでいく。
「キシャアアア!」
断末魔の叫びが森に轟き、その直後、爆風が吹き荒れた。木々は根こそぎ抜け、地面は削られ窪んでいく。
「いやああ!」
「飛ばされてるうぅ!」
「おわ、おわああ!」
三人は風で空に舞い上がった。月に向かってロケットよろしく飛んでいく。そうしてしばらく空中散歩したあとで、彼らは元の場所が小さく見えるほど離れた場所に落ちた。幸い、三人とも頑丈だったことと、森の地面が腐葉土で覆われていて柔らかかったことで大怪我をした者はいなかった。
「いたた、もう少し威力を加減して下さいな!」
「ごめん……」
メルが腰をさすりながら真っ赤になって怒鳴った。文句の言えない颯太は肩をすくめて謝る。すると、メルはため息をつき落ち着いた表情になった。
「はあ、これきりにしてくださいましね。ところでイコさん、もうあの化け物はいなくなりました?」
「ちょっと待って……。大丈夫、生命反応は消えたわ」
イコは窪地の方を注意深く観察すると、颯太たちの方に向き直ってにっこり笑った。それに釣られて颯太とメルも笑い出す。穏やかな表情を見せる月のもと、あたりが和やかな空気になった。
「颯太、確かめたいことがある。額を貸して」
ひとしきりみんなが笑った後で、イコが急に真剣な顔になった。そして颯太の頭に手を伸ばす。颯太はそのきつい眼差しにたじろいだが、とりあえず髪をかきあげ、額をさらけ出した。
「やっぱり……レベルが十五も上がっている。しかも上限レベルがないようね。なるほど、これが颯太の特殊能力なのね」
颯太の額に手を当てたイコがぶつぶつとつぶやいた。さらに何度もふむふむと頷く。何か重要なことがわかったようだった。
「何がどうなってるのか、俺たちにも分かるように話してくれないか?」
颯太とメルがイコの顔を覗き込んだ。三人の顔がぶつかりそうなほど接近する。暑苦しいのでイコは二人を下がらせると、説明をはじめた。
「分かった。説明するわ。いま私がわかったのは颯太の特殊能力についてよ」
「だからそんな能力ないってば」
「いいえ、ないように感じているだけ。実際にはちゃんとあるわ」
颯太は息をのみ、緊張した面持ちでイコを見た。メルもまた同様の態度を取る。風が走り抜けて、神妙なあらたまった雰囲気になった。
「颯太の能力は恐らく、倒した敵の力を奪うことよ。そして奪った力を自分の物とするの」
イコが能力を告げた途端、颯太の顔が間の抜けた微妙な感じになった。
「……それって普通に経験値もらってるだけじゃね?」
「全然違う。そもそもレベルというのは強い敵を倒したからといって急に上がる物ではないの。日々の鍛練によってゆっくりと上げていく物なのよ。だからこれは異常なこと」
イコは声に力を込めて、颯太の能力の凄さを力説した。しかし、颯太はああそうですかといった表情している。メルもいまいち良くわからないようだった。
「反応が悪いわね。まあ今のところは構わない。先を急ぎましょう」
そういうとイコは森を歩き出した。颯太とメルも後についていく。暗く、足元の悪い森を三人は黙って歩いた。そのときは沈黙だけが三人の友だった。
不意に三人は木の陰に人のようなものを見た。緊張が走り、三人は身構える。
「おや、珍しいのう。この迷いの樹海に旅人とは」
老人が彼らの前に現れた。小柄で、白い髭を伸ばしている。顔に刻まれた皺は深く、かなり歳を取っているようだ。そして身長に比してかなり長めの杖も持っている。だが身体の方はいたって丈夫そうだった。
「私たちはこの先の街に行く旅人。私がイコ、こっちがメル、後ろにいるのが颯太よ。あなたは誰?」
「わしはこの森に住むじじいでエンスじゃ。さっき森が騒がしかったのでちと見に来たのじゃが、もう終わっておったようじゃのう」
「そうですか。それでは……」
イコは得体の知れない老人との会話を打ち切ると、早々に歩き去ろうとした。すると、老人はイコに向かって小さな袋を投げる。
「これは?」
「わしからの贈り物じゃ。中にはモルの実が入っておる。モルの実は腹が膨れるぞ。あれだけ派手なことをしたんじゃ、腹が減っておるだろうと思うてな」
「どうして知っているの? あの時は誰もまわりにいなかったはずよ……」
イコたちの顔は疑問でいっぱいになった。そして老人に怪しむような視線を送る。それを見た老人は豪快に高笑いをした。
「カッカッカ! わしは森で暮らして長いからのう。森が何でも教えてくれるんじゃよ。だからこの森で起きたことはどんなことでも知っておるわい」
「そ、そう。なら今度こそ行くわ……」
底知れぬ老人に気味の悪さまで感じたイコや颯太たちはその場から速足で歩いていった。すると、それを老人が呼び止める。
「おーい、もしおぬしらが魔法を極めたいと思ったなら、またこの森に来るが良い。素質が十分にありそうなのでな。それでは呼び止めて済まなかった。達者でな」
老人はそれだけ告げると森の奥へと消えていった。颯太たちは振り向いてそれを確認すると、歩みを緩める。
その後、休憩したり、老人からもらった木の実をおっかなびっくり食べたりしながらも、何とか三人は無事に街に着いたのだった。
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