表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第7話 すべての贈り物には、裏に値札がついている③

「あ、お兄ちゃん、おかえり」


遥愛(ようあ)!? あんた、いつからいたんだよ……お袋と出かけるんじゃないのか?


「も~JINE送っても既読付かないし、ママが最近のお兄ちゃんの様子を心配してさ、途中で様子見に来させたんだよ、てへっ、カンゲキ?」


その口調には、どこかギャルの雰囲気が漂う。いつの間にか勝手に俺の家に現れるあの少女は、俺の悩みのタネの妹——笹原遥愛だ。


小さい頃から両親の寵愛を一身に受け、実家ではやりたい放題だったこいつは、俺が一人暮らしを始めてからも、放っておく気はないらしい。しょっちゅう、お袋からの見回りを口実に、実際は俺の家でお菓子をつまみ食いし、ついでに本棚のマンガを漁っていく。本人いわく、それも「兄妹の絆を深めるため」らしいが——


はぁ、身内が言うのもなんだが、誰でもいいから、早くこいつを連れてってくれないものか……。


「そ~れ~よ~り~ねぇねぇ見て見て、お兄ちゃんが、だ~い~す~き~なバニーガールだよ♡」


そう甘えた声で言うと、彼女は両手を耳の横に当て、頭の細長いウサ耳カチューシャごと、リズミカルに揺らしてみせる。同時に、太ももの網タイツと精巧なリボンを、これ見よがしに見せつけてくる。


「……」


常識人は、ヒール履いて人の家でコスプレなんかするか?


一体いつから、こいつの教育は根本的に間違ってしまったんだ。


「今度の『イベント』のために、この衣装はめちゃくちゃこだわったんだからね。特に、この見栄え重視の隠しジッパー、一人だと超~入~りにくいんだよ」


彼女は自慢げに後ろを向いて腰を振ると、生き生きとした毛玉の尻尾が揺れた。その姿はまるで「早く褒めてよ~」と言わんばかりに得意げだった。


「へえ……趣味なかなか良いじゃない」


遥愛には分からないように、冷ややかな皮肉を込めて、「白瀬(笹原)」が俺を見る視線は、もはやゴミを見るかのように軽蔑的だった。


誤解だ!全部あいつが勝手にやってるだけだ!


「でしょ? お兄ちゃんなら絶対喜んでくれると思ってたよ。でも、珍しいね、こんなに素直なんて、いつもなら絶対ツッコミ入れるのに、今日は一体どういう風が吹いたの……え?」


ようやく、興奮しすぎた「サプライズ披露」の後、冷静になった遥愛は、玄関に立つ「俺(白瀬)」と目を合わせた。


「……誰?」


「あ、あはは、ただい……じゃなくて、お、お邪魔しま~す」


「……うっ!」


倒れかけた!?


俺が言い終わる前に、遥愛は体がぐらりと揺れた……履き慣れないハイヒールのせいかもしれない……。


とにかく、大げさに目眩を演じる遥愛は、足もとがおぼつかないまま壁に手をついて支えた。


「な、何この反則級の美貌は……。世の中に、遥愛より可愛い美少女がいるだなんて!?」


あんた、一体何様なんだよ? 毎日魔法の鏡を覗き込む、傲慢な女王様か何かか?


「このまま見逃すわけにはいかない……」


「え……?」


目に血走りを見せた遥愛は、突然壁を勢いよく蹴って離れ、ハイヒールとは思えないほどの速足で俺の前に駆け寄ると、いきなり手を掴んだ。


「ちょ、待って……?」


さすがに初対面でいきなり揉めるのは、「白瀬(笹原)」に対して失礼すぎる――


「……私と結婚してください、お嬢さん!」


「……ぷっ」


あんたの頭は、一体どうなっているんだ!?


笹原の血筋は、あんたの代で遺伝子変異でも起こすのか!?


「お幸せに、末永くどうぞ」


当の本人であるはずの「白瀬(笹原)」は、どうでもいいとばかりに手をひらひらと振りながら、リビングのソファに座ってしまった……。こいつもこいつで、人の家を自分の家のように扱うそのメンタル、強すぎないか? 全く居心地の悪さなんて見えない……。


よりにもよって今日一日で、人生初の告白は親友に奪われ、人生初のプロポーズまで、こんな風に妹に訳の分からない形で持っていかれるなんて……。


今日は、俺にとって厄日かなにか?出かける前に、玄関に塩でも撒いておくべきだったか……。


****

 

「あの……もう冗談はやめてよ、遥愛ちゃん。私たちって初対面だよね?私は、キミのお兄さんの――」


「いろんなコミケとか参加してる私にとって、そんな捏造セリフなんて見え見えですよ」


「せ、設定……?」


自己紹介を遮るように手を振った遥愛は、全てお見通しだと言わんばかりの表情を浮かべており、それがまた妙に腹立たしかった。


「どうせ『アレ』でしょ。最近流行りの『アレ』。えーっと、何だっけ?そうそう……これこれ!」


そう言うと遥愛は、変なケースをつけたスマホを、ほとんど俺の顔に押し付けるようにして、画面のある記事を指差した――


「……レンタル彼女サービス?」


「そう!ぶっちゃけ、あなたはお兄ちゃんがお金で雇った『彼女さん』なんでしょ?じゃなきゃ、家族以外は異性アレルギーかってくらい縁遠いあのお兄ちゃんが、いきなりこんなカワイイ子を連れて帰ってくるわけないもん!うう……あの真面目くさったお兄ちゃんが、まさか見栄と欲望のために道を踏み外す日が来るなんて。うう、家門の恥だわ」


あんた……本気で俺を心配してるなら、せめてその嘘泣きをもう少しマシに演じてみせろ。


「それに……そんなに見栄を張りたいなら、家に『タダ』のがあるじゃない」


タダのって何だよ!?


「違う、聞いて、私はただ――」


「レンタル彼女さんは、ちょっと黙ってて!」


「……」


どうして白瀬も、七池も、それに今の遥愛も……周りの女子は、誰一人として人の話を聞こうとしないんだ!?


「で、結局いくらかかったの?お兄ちゃん、正直に白状なさい!いつもは遥愛の出費にあれこれ口出すくせに、自分のことになるとお金をポンポン使うんだから、ずるい!」


そう言うと、両手を腰に当てた遥愛はくるりと背を向け、まるで最後まで問い詰めるぞと言わんばかりの勢いで、リビングのソファに座る姿に頬を膨らませた……。しかし、その詰問に対し、「白瀬(笹原)」は慌てることなく顔を上げた。


「いくらだと思う?」


「絶対、大金でしょ!具体的な額は分からないけど、お兄ちゃんのベッドの下、恋愛雑誌に挟んであるお年玉を全部かき集めても、足りないくらい?」


やめろ!これ以上俺のプライバシーを暴露するのはやめてくれ、このバカ妹!


「そう?じゃあ、遥愛から見て、彼女はかなり可愛い方なの?」


「いやいやいや、『可愛い』だけじゃ言い表せないでしょ?同じ女子だからこそ分かるの。見て、このぷにぷにのお肌!メイクだけじゃこうはならない!それに、この生まれつきの綺麗な銀髪!どんな一流の美容師だって再現できないわよ……。オーディション中のスターか、地下アイドルか何か?まさに芸術品じゃん!」


「へっ……遥愛は『あなた』のことを、そう評してるわよ、千紗?」


「……」


満足げな表情で、「白瀬(笹原)」はわざとこっちの方を向いた……。人前でこれほど褒めそやされて、心の中では、さぞかし喜んでいるだろうことは分かっているが、

頼むから、これ以上楽しそうにして、事態をややこしくしないでくれ……。白瀬のやつ、見た目以上に性格がドSなのか?


「待って……お兄ちゃん、今、なんて呼んだ?千紗? なんかその名前、最近どこかで見たような……どこだっけ?」


「ファッション雑誌じゃない?」


「あ!そうそう!お兄ちゃん、よく知ってるじゃん。そうよ、雑……誌……え?えええええ、白瀬千紗!?あの最近ちょっと売れてるモデルさんの!?」


「……彼女がカバーモデルの雑誌を持ってるの?」


「何言ってんの。いつもお兄ちゃんが買ってくるんじゃない」


「へえ……意外ね」


目を細めた「白瀬(笹原)」は、今度は意味深な視線で俺を見つめてきた……。


ゆっくりと開かれたその口の形は、まるでこう言っているかのようだった――むっつり?


違う!あいつが肝心なところを省略して言うデタラメを聞くな!あれ全部、頼まれて買ってきただけなんだって!俺はただのお使いだ!


「二人とも少し待ってて!」


慌てて部屋に駆け戻った遥愛は、不安を煽るような物音を立てながら、雑誌を一冊握りしめて戻ってきた……。そして、そこに写っている写真を、まるで細部まで見逃さないと言わんばかりの真面目な眼差しで、俺と表紙を何度も見比べた。


「……ほ、本物だ!信じられない!そうだ……せっかくだから、ちさっちって呼んでもいい?」


ちさっち!?


「ついでにサインもお願い!」


あんた、本当に図々しいな。


というか……白瀬のサインって、一体どう書けばいいんだ……?


俺みたいなやつが、普段サインの練習なんてするわけないだろ!?


「ロ……ローマ字じゃ駄目かな?」


「何そのユニークなサイン。ウケるんですけど……って、ちょっと待てよ、お兄ちゃんって、ちさっちを彼女として雇ったの!?一体いくらかかったの!?まさか、知らないうちに、ヤバい闇金に手を出したりしてないでしょうね!?」


してないわ!っていうか、あんた、実の兄のことを全く信用してないだろ!?俺たちは本当に血が繋がってる兄妹なのか!?


白瀬の件を解決する前に、家族間で信頼の危機が勃発しそうだ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ