第4話 鳩の声から始まった、不幸と奇跡④
「え?今それを聞く?そ、それはもちろん……」
残念ながら、親友に向かって「好き」と言うことに、多少の抵抗を感じて躊躇している間に、背後からの声が、俺より一足先に響いた――
「……好きなのは、もちろんあなたよ、優介」
うん、そうだそうだ、やっと誰かが代わりに言ってく……はぁ!?待て!?
白瀬!?お前、俺の見た目でそんなこと言うな!?
「准!?お前……」
この予想外の返答に戸惑ったのは俺だけじゃない。同じように、優介も驚いた顔をしていた。
まさか……さっきの暴言で、完全にキレさせてしまったのか?
「優介、今のはただの……」
「俺……今まで知らなかった。准が、そんな目で俺のことを見てたなんて……」
そんなくだらないことで照れるな!?
「違う!断じて違う、微塵もそんなことはない!」
「……千紗、なんでそんなに必死なんだ?」
「女の勘よ!」
「だが、俺は男に興味はない。だから……悪いな、准。お前のその……その特殊な趣味には、応えられない」
「……」
俺の趣味だって、いたって正常だからな!
薄い本の隠し場所を知ってるお前なら、誰よりもよく分かってるはずだろ!?
なんで俺の人生初告白が、こんなわけの分からない形で親友に捧げられることになったんだ!?
しかも、間髪入れずに即お断りされた……死にたい、いっそさっき死なせてくれればよかったのに……。
「でも、あなたへの好きっていう気持ちも、もう過去の話よ……」
え……?
混乱した空気を一掃するかのように、突然話の矛先を変えた「白瀬(笹原)」は、冷ややかに視線を上げた。
さっき俺を刺したように、今度はそのナイフのような視線を、優介に鋭く突き刺す。
そのあまりの気迫に、怒り心頭だった彼も、思わず数歩後ずさった。
「……何が言いたい?」
「昨日、三組の真央さんと、映画館の前で会ってたわよね?その後、近くのカラオケにも一緒に行った」
「なんでそれを……うっ!?」
思わず口を滑らせたことに気づいた優介は、慌てて口を閉じ、動揺と焦りに満ちた目でこちらを見た。
あーあ……。だって、彼女、お前のこと一週間も尾行してたんだぜ……。どんな逸脱行為も、きっと詳細に記録されてるだろうな。
それに、この分かりやすい反応からして、残りの他の疑惑も、全て反論の余地のない事実なんだろう……。なんて罪深い男だ。
「ゆうすけ~?」
「白瀬(笹原)」の糾弾に合わせ、心の中のちょっとした恨みも込めて、俺はわざとらしく作り笑いを浮かべて彼を見た。
以前の俺なら、親友という関係上、彼のためにいくつか弁解してやったかもしれない。だが、さっきの出来事を経験した後では、こいつに対して同情のかけらも湧いてこない。
「ち、違う!千紗、あいつの言うことなんて聞くな」
「ふん、写真だって撮ってあるわよ。一昨日に水泳部のマネージャーとカフェにいたことも、その前の日に生徒会の書記と調理室で弁当を交換していたことも、あなたを慕ってる後輩と観覧車に乗ったことも……ぜーんぶ、撮ってあるの!今すぐ見る?」
「……」
おいおい、優介の私生活のだらしなさについては、ある程度覚悟はしていたが……想像以上に酷いな。よくこれでバレないと高を括っていられたもんだ。
とはいえ、それを全く気づかれずに尾行し続け、どんなシャッターチャンスも見逃さなかった白瀬も大したものだ……。その行動力は、プロのパパラッチにも劣らない。
「ゆうすけ~さっき私のこと、なんて言ってたっけ~?」
「うっ、ち、千紗……俺は……」
彼の視線は泳ぎ、もはや「俺(白瀬)」を直視できなくなっている。
「私に告白した時、なんて誓ったんだっけ?あ、確か、命を何とかって~?」
「……ううっ」
先ほどの剣幕は見る影もなく、目に見えて汗だくになっている優介は、俺と白瀬の連携攻撃に完全に気圧されていた……。あいつの浮気のせいで被った災難と、目の前で誤解されたこの恨みつらみを、ようやく晴らす機会がやってきた。
「千紗!俺、これから部活があるんだ……後でちゃんと時間作って、説明するから……。とりあえず、お互いにしばらく頭を冷やそう。俺を信じてくれ……いいか?」
そう言うと、後ろめたさを隠しきれない彼は、気まずそうに笑いながら「俺(白瀬)」の前を通り過ぎ、そのまま「白瀬(笹原)」の手からヘルメットを乱暴に奪い取った、ついでにその耳元で囁いた――
「……あの写真、もしばらまいたりしたらどうなるか、よく考えとけよ。――まだ水泳部に居たいんならな。それと、今日の件……これで終わりだなんて思うなよ。忘れるな」
「……それ、脅してるつもり?」
「ふん、忠告だ!覚えとけ」
まるで悪役が捨て台詞を吐いて逃げるかのように、慌ててスクーターに跨った優介は、一度も振り返ることなく俺たちの前から去っていった。
「……ふぅ」
衝動的な暴力沙汰という最悪の結末も、目の前で別れるという気まずい場面も避けられた。
これで、なんとか丸く収まったって言えるのか?
いやいやいや!あの最後のセリフ、あれって完全に俺(笹原)を目の敵にして、自分の悪事がバレたのを全部俺(笹原)のせいにしてないか!?
優介を尾行して、全部バラしたのは白瀬のほうなのに……。
「俺の体でなんてことをしてくれたんだ……」
ただでさえ周りから相手にされてないのに、これからの部活での立場がさらに悪くなることを考えると、頭を抱えてしゃがみ込みたくなった。
「今更後悔?笹原も、さっきはノリノリで参加してたじゃない」
「そ……それは、流れっていうか、一時の気の迷いっていうか……。とにかく、俺は優介とそこまで険悪になりたくない。浮気したあいつが悪いのは確かだけど、あくまでお前たちの問題だろ。関係ない人を勝手に巻き込むな!」
「そう、なら好きにすれば?」
「ま、待てよ?どこ行くんだ?」
無表情に一言だけ告げて、背を向けて去ろうとする「白瀬(笹原)」を、俺は慌てて引き留めた。
「どこって?新しいフルーツナイフを買いに行って。それからまた機会を伺って――」
「まだそんな危ないこと諦めてなかったのか!?というか、そんなことしたら、逮捕されるのは俺の体だぞ!」
「どうでもいい。どうせ最初から、彼に『誓い』を果たさせた後、私も後を追うつもりだったから……。ただ、まさか人違いなんていうヘマをして、しかもこんな奇妙な形でまだ生きてるなんて、思ってもみなかったけど……」
俺の口で「後を追う」なんて、そんな恐ろしいこと言うな!?
そういえば……『まだ生きてる』って、まさか、白瀬は俺を刺した後、もう自分の命まで絶ったっていうのか!?
「……」
「何よ、その目は。ああ……分かってるよ。ただ人違いで、笹原を殺してしまったこと、許されるはずがないんでしょ?別にいいわ。どうせ私の人生なんて、裏切りと絶望の中でもう終わってるんだから……」
寂しそうに俯いた「白瀬(笹原)」の瞳に、自嘲めいた苦笑が浮かんだ。
「何の埋め合わせにもならないだろうけど、私の身体、好きにしていいよ。どう扱おうと……あんたの自由だから――」
「ハァ……スクーター、押して。ついてこい」
「待って……私の話、聞いてなかったの?」
俺が手をスクーターのハンドルに置き、もう片方の手で構わず「彼女(彼)」を引っ張っていくと、「白瀬(笹原)」は不機嫌そうな顔をした。
「……どこに連れて行くつもり?ホテル?ふん、まさか、元の体で私に仕返ししないと気が済まないってわけ?あんたも見た目より――」
「……喉、渇いた」
「……は?」
「あれだけ喋って、ずっと立ちっぱなしで……お前、喉カラカラじゃないのか?」
「そんなことどうでもいい。私が言いたいのは、そういうことじゃなくて!」
「はいはい、わかってるって。言いたいことがあるなら、何か飲んでからにしようぜ。もちろん、お前の奢りでな」
そう言うと、前を歩いていた俺はニヤリと笑って振り返り、さっきポケットから見つけた、白瀬の可愛い財布を「彼女(彼)」に向かってひらひらと振って見せた。




