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第11話 分かり合えないままの平行線③

「……はぁ?何言ってんだよ、それ。ここ、俺の家なんだけど!?」


「ふふっ、甘いわね、まだ状況が分かってないみたい……」


「白瀬(笹原)」はにっこりと微笑むと、慌てることなくドアの方を指差した。


「ここは、紛れもなく『笹原』の家でしょ?」


「当たり前だろ……あ」


その時、俺は初めて「白瀬(笹原)」の言葉の裏にある意味を理解した……。つまり、一般人から見れば「笹原准」である彼が、この家に住むのが当然だということだ。


「え、待てよ……ってことは、俺も――」


「ええ、もちろん。あんたも私の家に行くことになる」


「……冗談だろ?」


「でなければどうする?まさか、私があんたの姿で家に帰るつもりだとでも?本気で言ってるの?」


「つ、ついでに聞きたいんだけど、白瀬も俺みたいに普段は一人暮らし……とか?」


「悪いけど、期待外れね。私は家族と一緒に住んでる」


「やっぱりそうか、あはは……はぁ」


心に残っていた最後の希望も、「白瀬(笹原)」の冷たい一言で打ち砕かれた……。絶望した俺は、思わず長いため息をついた。


今日から俺は、白瀬として、彼女の家で暮らすことになるのか?


嫌だあああっ!


体が入れ替わった以上、仕方がないことだとは分かっているが、あまりにも突然すぎて、心の準備が全くできていない……。今夜、初めて会う彼女の家族に、一体どんな顔をすればいいんだ?


いっそ、ここに居座るか……?


でも、そんなことをしたら、白瀬の家族も心配するだろう。


うぅ、どうすればいいんだ俺……!?


「ぷっ……」


「人が悩んでる時に……そこで笑うな!」


俺が頭を抱えて悶々としているのを見て、隣で高みの見物をしていた「白瀬(笹原)」は、思わず吹き出してしまった。


「ふふっ、まさかそこまで思い悩むなんて、思ってもみなかったよ。とりあえず、安心して……。仕事で各地を回って撮影することが多いから、たまに外泊するのも、よくあることなの」


こ、これが、学校と仕事を両立する、プロのモデルの余裕なのか!?


「でも……ふぅ、助かった。というか、そういうことは早く言え!俺が悩んでるのを見て、楽しかったか?」


「ええ、面白いよ」


即答!?もう隠す気すらないのか……この根っからのひねくれ者め!


「ところで、帰らないなら、家に電話しておいた方がいいよな?俺は具体的にどう言えばいい?」


「必要ない。どうせ、向こうも気にしてないから……。とにかく、あんたもいずれは帰ることになるんだから、早めに覚悟しておきなさい」


「う、うん……努力する」


でも、白瀬の家って、一体どんな状況なんだろう?


反応を見る限り、あまり積極的に連絡を取りたがってはいないようだ……。


それに、向こうも、彼女がたまに帰らないことには慣れているみたいだ。でも、いくら白瀬がモデルの仕事に慣れていて、外ではマネージャーが同行しているとしても……所詮は、女の子だ。家族は、本当に心配しないんだろうか?


もし、遥愛に対するような溺愛っぷりだったら、無断外泊どころか、少し寄り道して帰りが遅くなっただけで、あとで両親に説教されるに決まっている。


「……聞いてるの、笹原?なにボーッとしてるのよ」


「え?あ……っごめん、少し考え事をしていた」


ゆっくりと我に返ると、「白瀬(笹原)」が、ものすごく近い距離から、イライラした顔で俺を睨んでいた。


「……また、余計なこと考えてたでしょ?」


「いやいや、えっと……そうだ、俺の部屋は、奥に行って左の二番目だから」


「そう。分かった。後で行くから、あんたは先に下着を買ってきなさい」


「お……は?なんで俺がそんなもん、買いに行かなきゃいけないんだよ?」


「見た目が『男』の私が行くわけにはいかないでしょ……。それに夜、シャワーを浴びた後、どうするの?まさか、私の体で、あんたの下着を穿くつもり?」


「……」


そんな光景、想像するだけで目に毒だ……はずなのに。なんだこれ、ちょっとドキッとしてる気がするんだけど。


は!?落ち着け俺!今なに考えてんだよ!?


「……分かったよ。でも、明日の学校の準備はどうするんだ?他に何か買ってこなきゃいけないものはあるか?」


「別に心配する必要はない。学校に、予備の制服と鞄、教科書が一式用意してあるから、明日の朝、早く行って着替えればいい」


「……随分としっかり準備されているんだな」


たぶん仕事で頻繁に外出する関係もあるんだろうな……。翌日の授業に支障が出ないように、いつもこういうものを持ち歩くのは結構面倒だし、学校にあらかじめ予備を用意しておくのは、確かに賢いやり方だ……。


そして今、それが図らずも俺の大きな助けとなった。


下着もあらかじめ用意できればいいのにな。


いや、もし本当に準備してあったとしたら、それはそれで大問題だろう?しょ、勝負下着とか?


「そうだ、あと……」


突然、俺の耳元に顔を寄せた「白瀬(笹原)」は、何かを噛みしめるように、わざと耳をくすぐるような声で、意味深に囁いた――


「サイズはスマホに送っておいた。デザインは、あんたの好みでいいわよ」


「……はぁ!?」


「それじゃあ、よろしくね~」


そう言うと、「白瀬(笹原)」はくるりと背を向けて俺の部屋に入り、そのままドアを閉めてしまった。俺は一人、呆然とドアを見つめることしかできなかった。


こ、この、性悪女悪魔め!


わざわざ出かける前にそんなことを言うなんて、余計に買いにくくなるじゃないか!?


どうしよう……やっぱり、ここは、何の文句もつけようがない、純白の下着を選ぶべきか?


いや!これはもしかしたら、罠かもしれない!?


もし、そんなものを買っていったら、きっと「彼女(彼)」は同情するような目で俺を見て、冷笑しながらこう言うだろう――「いかにも、オタクの妄想って感じね」


トラウマだ……絶対に忘れられないトラウマになる!


じゃあ……無難に、ボーダー柄の下着はどうか?


いや!これは妙手に見える俗手だ!


もし、そんなものを買っていったら、きっと「彼女(彼)」は軽蔑するような目で俺を見て、冷笑しながらこう言うだろう――「ダサっ、マザコン?私は、あんたの母親じゃないんだけど」


人生の悪夢だ……絶対に消えない人生の悪夢になる!


こ、こうなったら……いっそ黒のレースとか、変化球でどうだ!?


ダメだ!落ち着いて考えろ!笹原准!欲望に駆られてはいけない!


万が一、そんなものを買っていったら、きっと「彼女(彼)」は嫌悪するような目で俺を見て、冷笑しながらこう言うだろう――「それ、観賞用?保存用?それとも……口に出せない使い方?」


あああああっ!


黒歴史だ……絶対に、床を転げ回るほどの黒歴史になる!


くそっ、どう考えても、俺の前に広がるのは、詰んだ道しかないじゃないか!?


「はぁ……もういいや、その時は目をつぶって適当に選ぼう……」


がっくりと肩を落とした俺は、重い足取りで玄関で靴を履き直した時、ふと、あることに気づいた……。


「というか……今夜、家にいるのは俺たちの二人だけってことは、これってまるで……『同棲』!?」


冗談だろ……?


その日、結局動物柄の下着を買って帰ったせいで、「白瀬(笹原)」に一晩中からかわれる羽目になった。


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