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持たざる者は、世界に抗い、神を討つ  作者: シベリアン太郎


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第63話 影の兆とまだ見ぬ光

 枢機卿会議の聖堂地下、密儀の間では、白い石造りの空間に、燭台の炎が影を踊らせていた。

 巨大な聖像の足元──“神の声を聞く者”のみが入ることを許された地下礼拝堂に、一人の男が膝をついていた。


「報告いたします、枢機卿猊下。王国王都にて得た最新の諜報を」


 男は、静かに頭を垂れる。

 彼の前には、黒衣に赤の刺繍をあしらった枢機卿が立っていた。鋼のように冷たい視線が、伏せられた彼の額を射抜く。


「許す。語れ」

「……〈暗黒騎士〉と称される異形の戦士が、王国北部で破壊活動を行っております。確認されているだけでも五つの村と砦が一つ。いずれも夜間に襲撃され、正規軍が動く前に、姿を消しております」

「スキルは?」

「確認された限りでは、複数の属性魔法を同時発動。並の聖騎士では対抗は困難かと」


 枢機卿の表情は揺れなかった。ただ、背後の燭台の炎がふっと揺らぐ。


「ふむ。……神の加護を受けぬ身が、スキルを複合させるなど」

「はい。王国第一王子ラグナル殿下が討伐に出陣しましたが……失敗。近衛騎士団は壊滅、殿下も深手を負い、命からがら撤退したとのことです」


 議場に静かな衝撃が走る。


「第一王子が……敗北を?」

「殿下のスキルは〈聖剣〉ですが、その神より授かった加護を以てしても、〈暗黒騎士〉には通じなかったといいます。すべての攻撃を弾き、影のごとく現れては、騎士たちを屠ったと」

「影……だと?」


 その言葉に、沈黙していた別の老枢機卿が、低く呟いた。


「──まさか。〈聖女〉セラフィーナ殿下が告げた、あの“影”とは……」


 密議の間が静まり返る。


「それとは別件となりますが……王国南部の遺跡帯、並びに西方の旧貴族領において、不審な動きが報告されております」

「……誰の動きだ?」

「正体不明です。王国諜報部では把握しておらず、貴族筋からも情報は降りていません。ただ、民間の流言として──“黒装束の一団が、古の記録や神殿跡を密かに探っている”という話が」

「目的は?」

「現段階では判然といたしません。ただ……“スキルの源を断つために、何かを探している”との風聞もあります。信憑性は低いですが、偶然にしては出来すぎかと」


 枢機卿は片手を顎に当て、静かに思索を巡らせた。


「〈暗黒騎士〉。裏の探索者……表と裏が同時に動き出す時、必ず“理”は揺らぐ。〈聖女〉殿下の神託も、まさにこれを指すのかもしれぬ」


 彼は立ち上がり、聖像に向かって一礼した。


「よい。王国での観測を続けよ。〈聖女〉殿下には、神託との照応を要請する。……“理に外れる者”が、真に人でないのだとすれば──」


 言葉は、そこまでだった。

 聖像の足元に、男の影が静かに消える。

 王国の地で蠢く、正体なき影。

 それに対抗すべく、聖教国の“意志”が静かに形を取りつつあった。



 教皇庁・聖神殿──白大理石の柱が立ち並ぶ奥の間は、外界の喧騒とは無縁の静寂に包まれていた。高窓から差し込む柔らかな光が、神聖なる空気をより一層際立たせている。

 その中心、祭壇前に立つ一人の少女。

 銀の髪に薄く輝く聖衣を纏い、膝をつき祈る姿は、まるで絵画の中の聖人のようであった。


「セラフィーナよ──」


 その声は老いながらも威厳に満ち、時を越えて多くの者を導いてきた存在の重みを帯びていた。声の主、教皇は、ゆっくりと玉座より立ち上がり、聖女の背後に立つ。


「今、各地で報告されておる“黒き鎧の騎士”……あれは神託の“影”なのか? それとも、さらなる闇の前触れにすぎぬのか……」


 セラフィーナは瞼を閉じたまま、しばし沈黙する。

 その胸奥には、降り注いだ神意の残響が今なお微かに響いていた。

 やがて、静かに口を開く。


「……確かに、“影”は動き出しました。ですが、彼ら──〈暗黒騎士〉は“影”の一部にすぎません。本当の“影”は、まだその姿を現していないのです……」

「ほう……?」


 教皇は細めた目をセラフィーナに向け、深く思索に沈む。

 その言葉の奥に、神が見せた未来の断片を感じ取ったのだ。


「では、“影”とは……もっと深き闇か」

「はい。今、世界に注がれる闇は、あくまで“端緒”。ですが……その中心にあるものは、いまだ扉の奥にて蠢いております」

「〈門〉か……」


 その言葉に、空気が一瞬、張り詰める。

 教皇もまた、〈門〉という存在に対する不穏な神託を知っていた。


「……ならば我らがなすべきは、光の道を絶やさぬこと。セラフィーナよ、そなたには……神の光を導く使命がある。決して、“影”に染まることなかれ」

「──はい、教皇様。光は決して消えません。私がそれを証明してみせます」


 〈聖女〉は静かに立ち上がり、胸に手を当てて誓った。

 その瞳に宿るのは、神への信頼と、人々を守ろうとする決意であった。


 そして彼女はまだ知らない。

 やがて出会うことになる“もう一つの光”──あの、少年と、その剣の在り処を。


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