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持たざる者は、世界に抗い、神を討つ  作者: シベリアン太郎


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第26話 帰還

 何度も繰り返された戦闘、そしてあの異世界的な空間から再びこの世界へと戻った後、レオンはようやく遺跡の最深部から表層へと脱出した。少し休息を取った後、“魔の森”を抜けることを決める。足元がふらつきながらも、意識をしっかりと保つ。


「まずは、“魔の森”を抜ける。それから……どうすべきか考えよう」


 “魔の森”は、今やかつてないほど魔物たちが活発に動き出している。その進行を食い止めるために、レオンは数多くの魔物との戦闘を繰り広げながら、じわじわと森の外縁部へと足を進めた。


「って、多すぎるだろう!!」


 明らかに五年前とは、比べ物にならないほど魔物が増えている。


「いくら倒してもきりがないじゃないか」


 レオンはボヤキながらも戦闘を重ねていき、必死に進み続ける。


 数日後、ついに“魔の森”を抜け、外界へと出る。ここでようやく、何の障害もなく歩き出せる自由を感じ、心の底から安堵した。


 街に到着したレオンは、まず周囲を見回した。それまでの長い日々、厳しい修行と戦闘の後、やっと戻ってきた世界だった。だが、ここは、五年前のあの頃と変わらず賑やかで、何も特別なことはないように思えた。


「あまり変わっていないな、いや、わからないだけか」


 何はともあれギルドに向かう。建物はさほど変わっていないように見えた。ギルドの入り口を押し開け、受付に歩み寄る。だが、誰も彼を認識する様子はない。まさか……五年も前に依頼を受けて出ていった少年が、今になって戻ってくることなど、誰も思ってもみないだろう。見回してみても、知っている顔はない。ギルドの職員も見覚えがあるような、ないような、よく覚えていない。


「すみません。こちらで五年前に受けた、遺跡調査の依頼を完了したので、その報告をしたいのですが」


 レオンが冷静に言うと、ようやく受付の若者が顔を上げ、彼の姿をじっと見つめる。


「五年前? 遺跡調査? ……そんな昔の依頼を? あなた、お名前は?」


 いかん、不審者だと思われているかもしれない。慌てて名乗る。


「ああ、レオンです。えーっと、辺境伯爵家からの依頼だったんですけれど」


 その言葉に、驚愕したような表情を浮かべて、女性職員がものすごい勢いですっ飛んできた。なんとなく見覚えがある、かもしれない。


「まさか……本当に、レオンさん……!」


 五年前に依頼を受けた女性職員だった。名前は憶えていない。すみません。


 次第に他のギルドの職員たちも近くに集まり、彼を認識する者も現れた。かつての十歳の少年が姿を現したことに驚く者もいれば、密かにその変化を喜ぶ者もいる。おそらく死んだものと判断されていたんだろうなあ、と少し恥ずかしい。無理もないか。

 受付は急いでギルド内の上層部に連絡し、ギルド長への報告が行われた。すぐにでも報告書が作成され、ギルドから辺境伯爵に遺跡調査の完了と、レオンの帰還が伝えられることになる。


 ギルドへの報告を終えたレオンは、ようやく宿に向かうことができた。一日でも早く身体を休めたかった。遺跡での五年間、戦闘と修行に明け暮れ、ほとんど休む暇もなかったため、肉体的にも精神的にも疲れきっていた。

 宿に着くとすぐに部屋を借りて、食事も摂らずに重い体をベッドに沈める。目を閉じ、深い眠りに入った。



 ギルドに報告をしてから三日間、ずっと眠りっぱなしだった。ようやく起きて軽く食事をとったレオンは、宿の部屋──静かな部屋で独り考え込んでいた。窓の外には薄暗くなる空が広がり、遠くの星々がちらちらと瞬いている。これからのことを改めて考える時間が訪れた。


 彼の心は、エルフのことについて引き寄せられていた。セファルが言っていたように、エルフは長命であり、かつて“マスター(達人)”と共に戦った仲間の一人だ。セファルの話を信じるなら、彼らの中にはまだ生きている者がいるはずだ。だが、エルフという種族はとても排他的なことで知られている。どこに住んでいるのかはわからない。

 レオンならばそのエルフと接触し、協力してもらえるかもしれないという希望もある一方で、彼らとの接触がどれほど困難なことかは容易に想像できた。


「どうすれば彼らに会えるのだろうか……」


 彼らの居場所も、接触できるかどうかも不明。それでも、もし会えたなら、“マスター(達人)”がどれほどの力を持っていたのか、どんな仲間たちが一緒に戦っていたのか、そしてその力をどう活用すべきか、きっと何か重要なことが分かるだろう。


 次に、レオンは自分について考えた。あの不思議な【原初の力】が戦闘で役立つことは確かだ。剣の技術を使いこなすだけでなく、その【原初の力】を駆使することで、戦闘における可能性は大きく広がった。

 彼は自分の手を見つめた。【原初の力】は戦闘の手段だけではないはず。手に残る感覚、あの【原初の力】が内に秘められていることを感じながら、その使い道を模索する。しかし、まだその方法は見えてこない。


 そして、この世界そのものについて。レオンは深く考え込んだ。スキルを得る者、得ない者、神が与えた運命に従う者、それを拒絶する者。この世界には理不尽な不平等が存在しており、レオンもまたその不平等に苦しんできた。だが、今、彼の目の前には新たな道が開かれている。

 レオンは窓の外に目を向けた。

 ここから先、何をしていけばいいのか。どうすれば、この【原初の力】を生かして、自分と、この世界を変えることができるのか。


 宿の部屋で、レオンは自分の決意を新たに固めた。エルフを探し、この【原初の力】を使いこなし、何ができるのかを試してみよう。それが自分の進むべき道であり、これからの試練に立ち向かうために必要なことだと、彼は感じていた。


「でも、その前に、まずは辺境伯爵家に報告か」



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