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持たざる者は、世界に抗い、神を討つ  作者: シベリアン太郎


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第25話 後継者

 気付けば、彼の目の前には一人の青年が立っていた。漆黒の剣を構え、鋭く研ぎ澄まされた視線をこちらに向けている。整った顔立ち、風のように揺れる黒髪、そして何より圧倒的な気迫と【原初の力】の気配。

 それは間違いなく、レオンが五年をかけて追い続けた“理想の戦士”そのものだった。


「……」


 無言で漆黒の剣が、スッと構えられる。

 レオンも剣を抜き、構える。

 次の瞬間──

 【原初の力】と剣がぶつかり合い、爆音が空間に響き渡った。


 斬撃。突き。回避。

 【原初の力】の衝撃波と剣戟の交錯が、空間を裂く。青年のその動きは、正真正銘達人そのもので、レオンの攻撃はことごとく受け流される。


(速い……読まれてる……けど、負けない!)


 レオンは距離を取り、一気に跳躍。空中から【加速】で一気に間合いを詰める。

 一撃必殺の勢いで斬りかかるも──弾かれる。

 だが、ここからがレオンの真骨頂。刃を弾かれた勢いを利用して背後に回り込み、【引き寄せ】で敵の足を崩す!


「っ!」


 青年がわずかにバランスを崩したその隙を、レオンは見逃さなかった。

 【剣撃強化】を全開にし、真っ向から斬りつける──!

 だが──


「……!」


 一瞬で体勢を立て直され、黒い刃が逆にレオンの胴へ振るわれた。


(やられる──!)


 咄嗟に【空間圧縮】を発動。衝撃を逸らすも、完全には防ぎきれず地面に叩きつけられる。

 視界が揺れる。吐き気が込み上げる。


(くそ……まだだ、まだ終わってない!)


 立ち上がる。何度叩き伏せられても、心だけは折れなかった。


「なぜ、立つ?」


 それまで無言だった青年が問いかけた。


「……立たなきゃ、守れない。僕は……スキルも何もない、何も持たない人間のために、戦うんだ!」


 それは、かつて“マスター(達人)”が願ったことと同じ言葉。

 その瞬間、青年の瞳が一瞬だけ揺れた。

 レオンはその隙を逃さなかった。【原初の力】で全身を加速させ、最速の突きで剣を貫いた。刃が通ったのは、心臓部ではない──だが、勝負を決めるには十分だった。

 青年は一歩、二歩と後ずさり──やがて静かに膝をついた。


「……お前が、“マスター(達人)”を超える者か……」


 青年の身体が光に包まれ、ゆっくりと消えていく。

 最後にその口元が、わずかに微笑んだ。



 瞑想を終え、試練の間を出たレオンを、セファルが待っていた。


「……おかえりなさい、“後継者”」


 レオンは黙って頷いた。

 そしてセファルは跪き、恭しく頭を垂れた。


「これよりあなたを、【原初の力】の担い手、第二の“マスター(達人)”、“レオン・アークレイン”と認定いたします」


 広がる静寂。だが、その空気の中には、確かな“始まり”の気配があった。



 そして数日後、旅立ちの刻が訪れる。

 深い静寂の中、レオンは再びその場所に立っていた。五年前、瀕死の状態でこの空間に辿り着いた自分。今はもう、別人と言ってもいいほど変わっていた。力なき少年が、【原初の力】を制する者となった。


「……準備は、整ったよ」


 セファルに静かに告げる。


「この空間を出れば迷宮の最奥に戻ります。再び地上を目指してもらうのですが、今ならさほど苦労もしないでしょう。今のあなたは、完全に“覚醒した存在”です」


 レオンは、今自分の纏う【原初の力】が明らかに変質していることを理解していた。身体能力、剣術、そして【原初の力】。すべてが、以前の自分とは段違いだ。


「僕は……これから、どうすればいい?」

「答えは、これから見つければいいでしょう。あなたには“選択肢”があります。 “神”によって仕組まれた世界に、どのように抗うか。あるいは、どのように導くか。……ただし一つ、忠告を」


 セファルはレオンを真っ直ぐに見た。


「あなたが表に出れば、必ず世界は動きます。力を求める者、恐れる者、歪めようとする者が現れる。かつての“マスター(達人)”がそうであったように……」

「わかってる。僕は逃げない。今度は、僕がこの【原初の力】で……見放された者たちの希望になる」


 その言葉に、セファルは微かに笑みを浮かべた。


「それともう一つ。協力者を見つけるといいでしょう。先代の“マスター(達人)”にも様々な協力者がおりました。その中でも長命種たる古代エルフ族の精霊使いなら、いまだ存命かと。彼女の名前はリューシャ。精霊魔法の腕は右に出る者はいないでしょう。ここを出たら探すといいかもしれません。居場所がわからないのが残念ですが、きっと力になってくれるはずです」

「わかった。探してみるよ。本当に長い間、大変お世話になった」

「それでは、外へ、お戻りください。長い修行、本当にお疲れ様でした」


 レオンはしばし沈黙し、扉の前で立ち止まり、振り返る。


「……セファル。君がいなければ、僕はきっと死んでた。本当に、ありがとう」

「その言葉だけで、私は十分です、“マスター(達人)”。──あなたは、もう独りではありません」


 かつて無能と追放された少年が、いまや【原初の力】を操る剣士として、再び世界の表層へと歩み出す。


 眩い光がレオンを包み込み、空間が静かに消えていく──


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