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持たざる者は、世界に抗い、神を討つ  作者: シベリアン太郎


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第24話 最終試練

 レオンの身体は少年のそれを脱し、若者としての輪郭を帯び始めていた。筋肉は無駄なく引き締まり、瞳には強い光が宿るようになった。肉体の成長に伴い、【原初の力】の制御も格段に安定してきた。

 だが、それは同時に、いずれ到達する“限界”の輪郭を意識させるものでもあった。


「【原初の力】の根源は感情……だが、制御なき感情は暴走を生みます。次の段階では“意思”で【原初の力】を拡張し、自在に操る術を得るのです」


 セファルの言葉に、レオンは頷いた。その声に迷いはなかった。既に“少年”の頃のように、恐れや疑念に心を縛られることはない。


「剣とは“意志”そのもの。心が揺らげば、刃も揺らぐのです」


 その教えの通り、レオンの剣はまだ“完成”とは言えなかった。それが修行を重ねるごとに、確かに変わっていった。鋭く、重く、意志を帯びるかのように。まるで彼自身の成長を映し出すかのように。


 ある夜、レオンは静かに剣を握りしめ、目を閉じた。


(【原初の力】と剣を……さらに一体として扱えるようにならなければ)


 内に向かって問いかけるように、深く呼吸を整える。その身から放たれる力は、もはや“感情”に揺さぶられるものではない。“意思”が、それを貫く芯となりつつあった。


 そしてついに、彼は“空”を掴む。

 地に足をつけず、空気を踏み、わずかに──数秒だけ──空中に滞空することに成功した。

 セファルが、はっきりと微笑む。


「……おそらく、あなたは“マスター(達人)”をも超える」



 修行を始めてから五年──レオンは十五歳となっていた。

 かつてのか細い身体は、しなやかで引き締まった戦士のものへと変貌を遂げていた。【原初の力】の扱いも、もはや初期の頃の比ではない。剣と力の融合は完成の域に達し、いまや“意志を持つ刃”と称して差し支えないほどだった。


【滞空】【推進】【剣撃強】【衝撃波】【拘束】【吸引】【感知】


 習得した技術は多岐にわたり、レオンはそれらを実戦でも無駄なく使いこなしていた。中でも突出していたのは【空間感知】。目視できない位置にいる敵の存在や動きを、風の流れのように察知できる力──もはや“戦場における第六感”といえる域に達していた。

 セファルはしばし、静かにその姿を見つめていた。


「この五年間、よくぞここまで……ですが、最後の段階が残っています」

「最後……?」

「はい。あなたが“マスター(達人)”として認められるには、“この家”に課せられた最終試練を乗り越えねばなりません。あなたの心と【原初の力】、その両方を問うものです」


 セファルが指差したのは、これまで決して開かれることのなかった“奥の扉”。

 重々しい気配を纏ったその前に立った時、まるで主を待ちわびていたかのように、扉は自動的に開いた。

 中は暗く、静まり返っている。だが、その空間からは凄まじい圧力が滲み出ていた。空気の密度が異なる。存在するだけで意識が削られるような、そんな異質な空間。


「この場所で瞑想を行ってもらいます。何が起こるのかはわかりません。次に扉が開くのは、試練が終わった時……」


 セファルは静かに続けた。


「これまでこの試練を超えた者は……いません」

「……なるほど。だから“後継者が現れなかった”のか」

「そもそも、ここへ来ることができたのは、あなたが初めてなのです」


 セファルの無表情な一言に、レオンは思わずよろけそうになる。


「ただし、これはあなたにとって“真の旅立ち”の前段階。死を恐れるなら、ここで引いても構いません」


 レオンは剣の柄に手をかけた。


「……僕がここまで生きてこられたのは、剣と【原初の力】があったからだ。なら──この先に進むためには、それらがどこまで通じるかを試すしかない」


 セファルは静かに目を閉じ、深く礼を取った。


「──ご武運を」


 扉の奥──レオンは躊躇なく暗がりの中に足を踏み入れた。静寂の中で瞑想の構えを取り、深く呼吸を整える。

 己の内面へと沈み込む感覚。時間も重力も溶けていく。


 ──その時だった。


 突然空気が変わったのは。


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