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持たざる者は、世界に抗い、神を討つ  作者: シベリアン太郎


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第23話 修行

 セファルによるレオンの修行が始まった。


「〈原初の力〉とは世界の根幹の力。意志によって万象に干渉するのです。世界は、見えるものだけで成り立っているのではありません。〈原初の力〉は、物質と精神、存在の狭間に流れる見えざる律。意志とは、そこに橋を架ける術です」

「触れずとも、物を動かす、引く。これが基本です。これを応用すると、戦闘における有効な手段となります。しかし、まずは〈原初の力〉の感知から始めます。目を閉じて、周囲の流れを感じてください。音でも気配でもなく、ただ“存在”に意識を向けるのです」


 レオンは岩のように動かない姿勢のまま、何度も試みた。だが最初は、何も感じられなかった。時間の感覚が曖昧になるほど長く続き、ようやく、空気の揺らぎや、空間の“違和感”のようなものが意識の底で震えるようになった。


「そうです。その揺らぎを掴むこと。それが〈原初の力〉の第一歩です」


 そして次は“動かす”こと。小石、葉、落ちていた壊れた金属片。それらを〈原初の力〉で「持ち上げよう」とするのではなく、「在り方を変える」と意識するよう教えられた。


「『在り方を変える』とは、物が“そこにある”という定義を書き換えること。“動け”と命じてはなりません。そこに『ある』という概念を、あなたの意志で塗り替えるのです」


 最初の頃、レオンは集中力を使い果たし、鼻血を出して倒れることもあった。肉体は回復していても、精神は未熟だったのだ。


「〈原初の力〉に呑まれてはなりません。しっかりと意志を保ち、あなたが導くのです」


 数ヶ月後、初めて己の意志で、小さな石を宙に浮かせることができた時、セファルは初めて穏やかに微笑んだ。


「ここからが本当の修行です」


 セファルによるレオンの修行が続く。


「次は〈原初の力〉の応用です。“動かす”だけが力のすべてではありません。応用すれば、攻撃、防御、補助──あらゆる場面で役立ちます」


 まず取り組んだのは、力の基本とも言える二つ──『引き寄せ』と『加速』だった。

 離れた位置にある石を引き寄せ、手元に呼び寄せる。逆に、自分自身や物体を力で押し出し、跳躍や突進、さらには遠距離攻撃へと転用する技術。


(呼び……寄せる。重さを意識しない。〈原初の力〉の流れに乗せる)


 意識を集中すれば、短剣が吸い寄せられるように手元へ飛んでくる。重い剣や盾も、十分な力と集中があれば動かせるようになる。

 さらに、『引き寄せ』と『加速』を組み合わせることで、瞬時に間合いを詰める短距離の跳躍──まるで瞬間移動にも似た動きが可能となる。

 小さな岩を浮かせるだけでなく、宙に浮かぶそれを自在に操り、軌道を描かせて遠隔から的を撃ち抜くこともできるようになる。


 防御においては、〈原初の力〉で空間を歪ませ、衝撃を逸らす『空間圧縮』の習得を目指した。

 さらに、敵の動きを読み、流れを断ち、空間そのものを縛ることで一時的に行動を止める『拘束』も。


(動きを読む、力の流れを断つ、空間を縛る)


 魔法とは異なる。だが確かに、それに匹敵するか、それ以上の働きを成す力。


 セファルは静かに見守っていた。

 かつて仕えていた“マスター(達人)”が辿った道を、見出された少年が今、同じように歩んでいる──そのことに、言葉にできない感慨があった。


 戦闘訓練も始まった。セファルは、かつての主から学んだ剣術をそのままレオンに伝授する。構え、歩法、回避、そして一撃の重さ──それは研ぎ澄まされた流麗な動きであり、無駄という無駄が一切なかった。

 やがて、レオンは小規模な戦闘であれば、〈原初の力〉を組み込んだ剣技で制することができるようになった。


 だが、セファルは首を横に振った。


「それで満足してはなりません。この先には、“選ばれし者”にしか扱えぬ戦いが待っています。あなたが目指すべきは、〈原初の力〉を支配し、その重みに耐えうる存在です」


 こうして──心と体と“力”を鍛える、過酷な旅が始まった。

 それは静かに、しかし確かに、レオンという存在を変えていった。


 時の流れは穏やかだが着実だった。身体は一回り大きくなり、無駄な肉が削げ、引き締まった筋に力が宿っていた。だが、それ以上に変わったのは、精神だった。

 この頃になると、レオンの〈原初の力〉の精度は格段に向上していた。小さな岩を浮かせるだけでなく、宙に浮かぶそれを自在に操り、軌道を描かせ、遠隔で的を撃ち抜くこともできるようになっていた。

 修行の一環として、セファルが放つ“幻影の魔物”との模擬戦も、最初の頃は圧倒されていたが、今では複数体を相手にしても冷静に対処できるほどになっていた。


「怒りや憎しみで振るう剣に、真の〈原初の力〉は宿りません」


 セファルの言葉を、レオンは何度も何度も聞かされた。

 そしてその度に、自分の心の底にあるもの──父と兄への憎しみ、追放された悔しさ、無力だった自分への怒り──に、正面から向き合わされていた。


「“力”を手に入れれば、見返せる。……そう思っていたんだ」


 ある日、稽古の後、レオンはぽつりと呟いた。


「でも、それだけじゃきっと、また道を誤る。僕が強くなる理由は、“誰かを倒す”ことじゃない。……もう、わかった」


 セファルは、何も言わずに頷いた。


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