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持たざる者は、世界に抗い、神を討つ  作者: シベリアン太郎


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第190話 魔道具

 レオンとレティシアは、再び冒険者としての活動を本格的に始めていた。

 受ける依頼は魔物駆除が中心で、狙うは高く売れる素材が手に入りそうな獲物ばかり。資金調達を目的に、北の峡谷か南の沼地、そのどちらかを主な狩場として動いていた。

 そして今日も、依頼完了の報告と素材の買い取りをしてもらうため、ギルドの受付に立っていた。


「報告お疲れ様。で、ランク昇格試験は──」

「……結構」


 レオンがあっさりと遮ると、横でレティシアが苦笑する。


「この人、本当に面倒くさがりだから」

「うーん、ギルドとしては試験を受けてもらって昇格させたいんだけどなあ」

「気が向いたらな」


 ギルドも諦めないな、とレオンは内心で肩をすくめる。

 確かにBランクともなれば、今より危険度の高い場所での依頼も受けられる。いずれはそれも視野に入れるつもりだが、今でなくてもいい──そう考えていた。


「それじゃ、素材の買い取りはそっちのカウンターね」


 受付嬢が指差した先には、金属の台が据えられた別カウンターがあり、専門の査定員が忙しなく素材の検品をしていた。

 レオンとレティシアは並んで歩き、テーブルに戦利品を並べる。


「これは……北の峡谷のサーペントか。状態がいいな。傷も少ない、丁寧に仕留めたんだな」


 熟練の職員が鱗を一枚めくりながら感心したように呟く。


「高く売れる?」


 レティシアが覗き込むと、職員はニヤリと笑った。


「間違いないさ。これなら鎧職人が喜んで買うだろう。……ただな、あんたたち、ランクが上がればもう少し査定額を上乗せできるんだが」

「ほら、また同じこと言われてる」


 レティシアが小声で笑う。


「……必要になったら考えるさ」


 レオンはわずかに笑って答えた。

 今はまだ、金を貯め、装備を整える段階。焦る理由はなかった。


 素材の査定が終わり、報酬を受け取るため再び受付へ戻ると、受付嬢が何か思い出したように声をかけてきた。


「そうそう、忘れてた。例の魔女から連絡が来てる。相談があるから一度来てほしいって」

「忘れないでよ、大事なことなんだから」


 レティシアが呆れたように眉を上げる。


「相談か、なんだろうな?」

「例の話じゃない? 明日にでも行ってみる?」

「そうするか」


 レオンは少し興味深げに頷いた。


 翌日、レオンとレティシアは街の外れにあるシルヴィアの店を訪れた。

 扉を押し開けると、薄暗い店内に薬草の香りと、磨かれた金属やガラスの匂いが入り混じって漂う。壁際には魔道具や古い書物がぎっしりと並び、いつものように雑然とした空気が広がっていた。


「こんにちは」

「あら、いらっしゃい──って、あなたたちか。待ってたわよ」


 カウンターの奥で何かを書きつけていたシルヴィアが顔を上げ、笑みを浮かべる。


「何か相談があるって聞いたんだけど」

「そう。魔道具のことでね、いくつか案を考えたんだけど、実際に使うのはあなた達だし、意見を聞こうと思ってね」

「そういうことか」


 シルヴィアは手を止めると、カウンターの下から厚いノートと、何枚もの羊皮紙を取り出した。そこにはよくわからない記号や数式、古代語の文字がびっしりと書き込まれている。


「これが今、考えてる試作品の設計図よ。まだ実物は作ってないけど、案はいくつかあるわ」


 カウンターに広げられた紙を覗き込み、レティシアは眉をひそめる。


「……これ、全部理解できる人ってどれくらいいるの?」

「そうね、世界でも両手で数えるくらいかしら?」


 シルヴィアがあっさり答え、レオンは苦笑した。


「まったく、わからないな」

「まず、レオンにはこれ」


 シルヴィアが見せたのは、腕輪型の魔道具案だった。


「対毒、麻痺、精神攻撃──睡眠や気絶、魅了なんかの魔法攻撃にも、高確率で抵抗できる結界を展開する仕組み。完全防御じゃないけど、前衛にはかなり便利よ」

「なるほどな……」


 レオンは腕輪の図案を見ながら頷く。


「剣で物理は防げても、精神干渉は面倒だからな」

「次に、レティシア用のこれ。風と雷の精霊の力を矢に宿す仕組み。弓そのものに埋め込む方式と、外付けの小型魔道具のどちらかで試作するつもり」

「雷と風……矢の速度や貫通力が上がるってこと?」

「それだけじゃない。風で軌道修正、雷で装甲貫通力を強化する。弓使いにはかなり有効よ」


 レティシアの瞳が少し輝く。


「それ、絶対欲しい」


 レティシアが紙の束を見下ろしながら言う。


「あたしのは、いずれ弓を変えるかもしれないし、弓に直接埋め込むより、外付けの小型魔道具がいいと思う」


 レティシアは指で紙を軽く叩きながら続ける。


「腕輪型にしておけば、どんな弓でも使えるしね」

「なるほどな。俺の対魔法用腕輪も早めに欲しいところだ。あの時みたいに魔法を正面から受ける羽目になるのは、もう勘弁だ」

「……あれは自業自得じゃない?」

「うるさい」


 シルヴィアは口元に笑みを浮かべ、二人を見ていた。


「じゃあレオンとレティシアの装備は腕輪型ね」

「あたしもそれでいいと思う」


 レティシアも同意する。


「よし、決まりね。二人の装備なら一週間ほどで用意できると思う」

「助かる」


 レオンは短く言い、レティシアも頷く。


「一週間後、またここに来るわ」

「ええ、楽しみにしてなさい。きっと驚くわよ」


 シルヴィアが意味深な笑みを浮かべ、二人は店を後にした。



 一週間後、レオンとレティシアは再びシルヴィアの店を訪れていた。

 店の奥には、完成したばかりの魔道具が整然と並べられ、ほんのりと魔力の余波が漂っている。


「二人用の魔道具はちゃんと仕上がってるわよ。ほら、これ」


 シルヴィアが淡々と告げる。

 シルヴィアはカウンターに二つの腕輪を置いた。


「まず、レオンのは対魔法用の腕輪。効果は前に説明した通り。毒や麻痺、精神系の攻撃にもある程度耐えられるわ。常時発動型だから、装備しているだけでいい」

「そいつは助かる」


 レオンは感触を確かめるように腕輪を手に取った。


「次はレティシアね」

「待ってました!」


 彼女の瞳がきらりと輝く。


「風と雷、二つの精霊の力を矢に宿す魔道具。必要な時に矢へ魔力を流せば、精霊の加護が力を貸してくれるはずよ。あなた、風の精霊とは仲がいいし、雷の精霊とも最近うまくやっているみたいだしね」

「ありがとう!!」


 レティシアは両手で腕輪を受け取り、嬉しそうに頬をほころばせた。

 シルヴィアはふと思い出したように棚を開き、小さなケースを取り出した。


「それと、これを身に付けておきなさい」


 彼女はケースを開き、淡い蒼光を放つネックレスをレティシアに手渡す。


「これは……?」

「私が昔、ある場所で手に入れたお守りみたいなものよ。見た目はただの装飾品だけど、いざという時には、きっとあなた達の助けになるはず」

「お守り、か……」


 レティシアはそれを胸元でそっと確かめ、満面の笑みを見せた。


「なら遠慮なくつけておく! ありがとう、シルヴィア」

「大事にしてね。それは──まあ、説明すると長くなるわ」


 シルヴィアが小さく笑うと、レティシアは少し首を傾げたが、深くは追及しなかった。


「それと──魔道具のことは、あまり人に話さずにおきなさい」


 シルヴィアの声色が一段低くなる。


「狙われることだってあるんだから。魔道具なんて、そう簡単に手に入るものじゃない。魔法が使えない者にとっては、喉から手が出るほど欲しい代物よ。……気を付けなさい」

「わかった。十分に気を付けるよ」


 レオンは短く返し、レティシアも真剣な面持ちで頷いた。


「じゃあ、私たちは行くね」


 扉へ向かう直前、レティシアはふと立ち止まり、胸元のネックレスにそっと指を触れた。微かな風の囁きと、遠くで小さく弾ける雷光の感触──精霊たちが、新しい媒介を面白がっている気配がある。彼女は小さく目を細めると、満足げに微笑んで店を後にした。

 やがて二人が店を後にすると、工房には再び静寂と魔力の微かな脈動だけが残る。シルヴィアは作業台に並べた素材を一つずつ手に取り、品質を確かめながら思考を巡らせた。


(今のところは──まだ問題なし。少し前に“あの連中”が動いていた形跡はあったけれど、最近はおとなしくしている。……ただ、北は全体的に戦乱の気配が濃くなってきた。帝国の動きには、やっぱり注意しておきましょう)


 器具の金属音が細く響く。シルヴィアはふっと息を吐き、目を細めた。


「──あの子たちなら大丈夫。今は、見守りましょう……」


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