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持たざる者は、世界に抗い、神を討つ  作者: シベリアン太郎


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第12話 遺跡の内部へ

 どれほどの時間が経過したのか、まるで全ての感覚が遮断されたような静寂の中で、レオンはゆっくりと意識を取り戻した。

 頭の中に残るのは、あの強烈な光と、突然の失神の感覚だけだ。目を開けると、まず感じるのは冷たい石畳の感触だった。


「ここは……?」


 自分がどこにいるのか、全く分からなかった。辺りは薄暗く、光がほとんど差し込まない空間の中にいる。壁を見渡すと、古びた石が積み重なり、遠くには薄明かりのような何かが

微かに見える。目をこらすと、遠くの奥の方に、古代の遺跡の内部と思われる大きな扉が薄く開いているのが見えた。


「扉、ってことは、ここは遺跡の中……か?」


 意識が戻るとともに、強烈な頭痛が襲う。どうやら、さっき触れた場所で何かが起こり、気を失ったその後、気が付けば遺跡の内部にいたようだ。


「でも、どうやってここに……? 入口なんてなかったぞ?」


 自分でも信じられない。確かに、壁を触った記憶はある。だが、その後の出来事はまるで夢のようで、記憶が断片的にしか残っていない。まるで誰かに引き寄せられたかのように、気付けば遺跡の中にいたのだ。

 立ち上がろうとすると、ふらつく感覚が襲ってきたが、何とか身体を支える。足元には、冷たい石畳が続いており、その先には、まるで未知の世界が広がっているように感じられる。


「ここがあの遺跡の中か……」


 不安と興奮が交錯する中、レオンは慎重に一歩を踏み出した。ここにいる理由はわからない。ただ、進んで行かなければならないという感覚が、彼を動かしていた。


「何が待っている……?」


 次に何が起こるのか、全く見当もつかない。しかし、遺跡の奥から漂ってくる古の気配に

引き寄せられるように、レオンは足を進めていった。

 石畳の通路を進んでいくと、やがて視界の先に大きな扉が現れた。古びてはいるが、装飾が施された重厚な扉。奥へと続く道がそこにあるのだと直感する。レオンはゆっくりと手を伸ばし、扉に触れる。ギィ……と低く唸るような音を立てて、重い扉が開かれる。


 その先には、それまでとは異なる空間が広がっていた。石造りだったはずの遺跡の内部は、突如として岩肌のむき出しになった、まるで洞窟のような通路へと変わっており、天井は高く、所々に発光する苔のようなものが淡く灯りを放っている。真っ暗ではないが、決して明るいわけでもなく、どこか異質な静けさが辺りを包んでいた。


「これは……遺跡というよりも、むしろダンジョンじゃないか!」


 古代遺跡じゃなかったのか。ダンジョンだとすれば厄介なことになる。魔物も数多くいるだろうし、探索の難易度は確実に上がったとみるべきだろう。


「引き返すか? いや……」


 ここで引き返すつもりは毛頭ない。むしろ望むところだ。興奮で身体が震えてくる。この先に何があるのか。先へ進んでみよう。

 レオンは歩き出す。

 剣の柄に手を添えたまま、慎重に一歩一歩踏みしめながら歩を進める。空気はひんやりとしていて、肌に触れるたびに不安を煽るようだった。

 気配。

 突然、首筋に悪寒が走る。反射的に身を沈めた、その瞬間。


「ッ!」


 風を切る音とともに、鉄の刃が彼の頭上をかすめた。剣、それを振り下ろしたのは、背丈の低い、緑色の肌をした魔物だった。

 ギャッと不快な叫びを上げる小鬼、ゴブリン。咄嗟に抜いた剣を振るい、レオンは即座に反撃に出る。体勢を崩していたゴブリンの胴を一閃。鈍い感触と共に、血飛沫が舞い、ゴブリンはその場に崩れ落ちた。


「……危なかった……!」


 心臓が高鳴っていた。視線を巡らせ、他に敵の気配がないかを確認する。静寂。どうやら単独だったらしい。レオンは息を整えながら、苦々しく唇を噛む。


「……魔物がいる可能性、わかってたはずなのに……警戒が足りなかった」


 頭では理解していた。それでも、突如として遺跡内部に転移してしまった混乱と、目の前の光景に気を取られ、基本的な警戒を忘れていた。その油断が、死に直結する場所なのだと、改めて痛感する。


「ここは……そういう場所だ。気を抜けば、終わる」


 レオンは剣を軽く振って返り血を払い、再び通路の奥へと視線を向けた。静かで、薄暗い洞窟の奥。だが、そこにはまだ何かが潜んでいる、そんな予感があった。


 薄暗い洞窟を進んでいくと、通路は徐々に広がりを見せ、やがて円形の広間へと出た。天井は高く、所々に光る鉱石が埋め込まれており、幽かな明かりを放っている。

 広間の中央には、古びた石碑のようなものが建っていた。そこには見たこともない文字が刻まれているが、レオンには読めなかった。ただ、直感的にそれが何かを伝えようとしているのは感じ取れた。


「……何の遺跡だったんだ、ここは」


 遺跡そのものは二百年ほど前の文明のものとされている。だが、この空間はそれよりもさらに古いような、そんな異質な雰囲気を醸し出していた。

 石碑の前に立ち、さらに周囲を見回すと、三つの通路が広間の奥へと分かれていることに気付く。どれも似たような造りで、見分けはつかない。が、一つだけ、微かに風が流れてくる通路があった。


「……空気の流れがあるってことは、あっちが正解か?」


 剣の柄を再び握り直し、風の流れる方の通路へと足を踏み入れる。その先は、まるで迷宮のような入り組んだ構造になっていた。複雑に入り組んだ通路、崩れかけた壁、そして不自然な沈黙。そんな中、ある部屋に差し掛かったとき──


「……罠か」


 足元の床が、わずかに沈んだ。瞬間、壁から矢が数本飛び出してくる。レオンはすぐに身を翻し、後ろに飛び退くことで直撃は避けたが、かすめた一本が肩を浅く裂いた。


「っ……チッ」


 鋭い痛みと、わずかに血がにじむ。すぐにポーチから小瓶を取り出し、傷口に回復ポーションを注ぎ込んだ。冷たい感触。傷がゆっくりと塞がっていく。


「油断するなってことか……」


 魔物だけではない。この遺跡には、古の罠や仕掛けまでもが残っている。そう思うと、背筋にじわりと汗がにじむ。それでも、レオンの目には恐れよりも、研ぎ澄まされた意志が宿っていた。


「……この遺跡の中に、何があるにせよ、ここまで来たら進むしかないよね」


 再び立ち上がり、レオンは薄暗い迷宮の奥へと歩みを進めていった。罠の部屋を抜けてしばらく進むと、空気が急に変わった。これまでの冷たい石と湿った土の匂いに混じり、何か、形容しがたい違和感──鉄のような、血のような、肌がひりつくような刺激が漂っている。


「……これは……」


 レオンは立ち止まり、剣の柄を握る手に自然と力がこもる。気配が、ある。はっきりと、強い“何か”がこの先にいると、直観が訴えていた。慎重に足を進めると、やがて開けた空間に出た。部屋の奥、漆黒の闇の中から、ずるりと音を立てて何かが現れる。


「グォォォォッ!!」


 現れたのは、全身に黒い鱗を纏った異形の魔物。人間の倍はあろうかという巨体に、歪んだ角と、燃えるような赤い目。かつてどこかで見たオーガに似ているが、明らかに格が違う。魔力の圧が、空間そのものを揺らしていた。


「……上位種か、それとも別の奴か」


 レオンは息を整え、距離を取りながら様子を窺う。次の瞬間、魔物が吠え、地を蹴った。その巨体からは信じられない速さで、レオンに肉薄する。咄嗟に横に飛び退き、避けた直後、地面が砕け散る轟音が背後で響いた。


「……とんでもない力だな」


 レオンは冷静に間合いを見極める。反撃の隙を狙い、魔物が振り下ろした腕を剣で切り裂くが、硬い鱗に阻まれ深くは通らない。


「くそ……! ならば!」


 手数で勝負だ。攻撃をいなして、わずかな隙に斬り込むことを繰り返し、少しずつ、だが確実に魔物の動きを鈍らせていく。


 やがて──

 レオンの剣が、開いた脇腹に深く食い込んだ。


「──っ!!」


 魔物が絶叫し、崩れ落ちる。レオンは息を荒げながらも、剣を構えたまましばらく警戒を解かず、動かなくなったことを確認してようやく力を抜いた。


「……本当に、なんなんだ、この遺跡は」


 明らかに、ただの二百年前の文明の遺跡ではない。そこに何が眠っているのか。なぜ自分が中に入れたのか、そんな思いを抱えながら、レオンは部屋の奥へと目を向けた。

 そこには、下へと続く階段があった。古びた石でできてはいるが、まるで時間の流れに逆らうように朽ちることなく、静かに存在している。レオンは剣を納め、ふぅ、と一つ息を吐いて、階段の上に立った。


「……行くしか、ないか」


 そして、足を踏み出す。さらなる深淵が、彼を待っている。


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