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聞き間違いじゃないですよね?【意外なオチシリーズ第3弾】

 ガキィィンッ!!


対戦していた相手の練習用剣を弾き飛ばしたところで、勝負がついた。


「そこまで! 勝者、レオニー・バイロン!」


剣術の先生の声が高らかに響き、2年生の剣術練習試合を見学していた女子生徒たちから歓声が沸き起こる。


「キャーッ!! 素敵! レオニー様の勝利よ!」


「やっぱり流石は騎士の家系ね!」


「剣を振るっている姿も美しいわ!」


そのとき授業終了のチャイムが鳴り響き、剣術の先生が口を開いた。


「では、これにて剣術の授業を……っ」


『レオニー様ーっ!!』


突如として、女子生徒たちが一斉に叫ぶと集団で駆けてくる。


「こ、こら! 君たち待ちなさい! まだ授業は終わっていないぞ!」


しかし先生の制止を聞かない女子生徒たち。あっという間に彼女たちに取り囲まれてしまった。


「レオニー様! どうぞこのタオルを使って下さい!」


金色の髪の女子生徒がタオルを差し出してきた。彼女はクラスメイトのジョエル。確か婚約者もいたはずだ。


「ありがとう」


ニコリと笑顔でタオルを受け取ろうとすると、別の女子生徒が割り込んできた。


「あなたは婚約者がいるでしょう! 引っ込んでいなさいよ! レオニー様、タオルを使うならどうぞ私のを使って下さい。カモミールの香水を、たっぷりふりかけてあるんです!」


するとさらに別の女子生徒が水の入ったピッチャーを手に、割り込んできた。


「レオニー様、 汗をかいたでしょうから私が自ら作ったレモン水で喉を潤しませんか!?」


「あら! 運動の後は甘い物に決まっているでしょう!? クッキーを受け取って下さい!」


女子学生が次から次へと現れ、もみくちゃにされて大変だ。


「わ、分かったから皆、落ち着いて! 全員からありがたく受け取るから!」


何とかその場を宥めると、女子生徒たちは頬を赤らめて再び騒ぎ出す。


「やっぱりレオニー様はお優しいのね」


「誰か1人を特別扱いしないところがいいわ」


「でも、出来れば私を贔屓してくださらない?」


再び騒ぎ出す女子生徒たち。


「アハハハ……」


返答に困り、笑ってごまかすも……内心悪い気はしなかった。

男子生徒たちは、みんな恨めしそうな目をこちらに向けている。皆、僕一人が女子生徒たちから人気があるのを、気に入らないのだろう。

まぁ、それは当然かも知れない。僕に群がってくる女子生徒たちの半分は婚約者がいるのだから。

男子生徒たちの中には、あからさまに激しい敵意をぶつけてきている人もいる。恐らく、この中に自分の婚約者がいるのだろう。


やれやれ……女子生徒たちから人気があるのは、僕のせいじゃないのに。

この分では近いウチにまた、決闘を申し込まれるかもしれないな……。


心のなかで、僕はため息をついた――



****



 ここは、セントクロス学園。主に騎士を養成する学園に特化している。

そして僕の家系は代々、王宮に使える名門騎士を排出していたのだった。当然僕も学園を卒業後は、家紋を背負って見習騎士として王宮に務める。

だから家の恥にならないよう、常に厳しい鍛錬に励む日々を過ごしている。

そのおかげで、現在同学年で僕に剣術で適う生徒は誰もいなかった。


 剣術だけではない。

名門バイロン伯爵家の名に恥ないよう、僕は勉強も頑張り、品行方正を保っている。だから今のように女子生徒たちから絶大な人気を得ているのだろう。


「レオニー様、クッキー美味しいですか?」


クッキーの差し入れをしてきた女子生徒が頬を赤らめて尋ねてくる。


「うん、美味しいよ。レモン水も美味しいし、タオルも助かる。皆、本当にありがとう」


人々を守る騎士を目指す以上、優しい人間でなくてはいけない。

僕は集まっている女子生徒たちに笑顔を振りまくのだった――




 いくら女子学生たちから絶大な人気を誇る僕でも、1人になりたいときはある。


それが食事の時間だ。

出来れば僕は、食事の時間は料理を楽しむことに集中したい。女子学生たちに囲まれて話をしながら食事なんてすれば折角の食事を堪能することが出来ないからだ……。


――昼休み


ひと気の無い裏庭のベンチで食事をしていると、幼稚部の頃から知りあいのステファニー・ベルモンドが現れた。

ホワイト・ブロンドの長い髪に緑の大きな瞳の彼女は絶世の美女なのだが……少々性格に難があり、周囲の受けはあまり良くない。


「あら? 誰もいないと思ってここに来たのに……まさかレオニーがいたとは思わなかったわ。私も一緒にここで食事をしていいかしら?」


彼女は、女子学生の中でも珍しく僕に普通に接してくれる。いわゆる友人に近い存在で気遣う必要は全く無い相手だ。当然、同席を断るはずもない。


「あぁ別に構わないよ」


「ありがとう。助かるわ」


ステファニーは隣のベンチに座ると尋ねてきた。


「いつもレオニーを食堂で見かけないと思っていたけど、まさかこんなところで1人で食事をしているとは思わなかったわ。どうしてここで食べているの?」


「簡単なことだよ。僕は食事の時間を大切に思っているんだ。出来れば静かな環境で料理を楽しみたい。だからここで食事をしているんだよ」


そして家から持参したバゲットサンドを口にした。


「え? そうだったの? だったら私も邪魔かしら? 他に行ったほうがいい?」


「ステファニーなら別に構わないよ。君なら他の女子生徒たちのように騒ぐこともないし、男子生徒たちみたいに決闘を申し込んでくることもないからね」


その話にステファニーはピンときたのだろう。


「……そう言えば、最近すごく女子生徒たちから人気があるわね。やっぱり今年行われた剣術大会で優勝したからじゃないの?」


「うん……まぁ、確かにそれが原因かもしれないな」


「だからと言って、決闘なんてやりすぎよね? 女子生徒たちにとってレオニーは単なる憧れのような存在なのに。第一、あなたには婚約者がいるのにね」


「婚約者かぁ……」


そう言えば、最近互いに忙しくて中々会う時間が取れていない。やはり学校が違うせいだろう。

そして、ふと思い出した。


「そうだ。ステファニーも最近サイラスと婚約したじゃないか。2人は幼稚部から交際していたからな〜。当時はすごく話題になったのを思い出すよ。 何しろステファニーは人付き合いが嫌いでクールビューティなんて呼ばれていたからね」


すると僕の言葉にステファニーの白い顔が赤くなる。


「ちょ、ちょっとやめてよ! あれは、ほんの冗談で付き合っていたのよ! だからすぐにサイラスのことを振ったもの!」


「でも結局婚約者になったじゃないか?」


「う……それはいくら交際を断っても、何度もサイラスが申し込んでくるから仕方なくよ」


ステファニーは照れ隠しの為か、自分の長い髪をクルクル人差し指に巻き付けている。

結局、何だかんだ言ってもステファニーはサイラスのことが好きなのは分かっている。


「そう言えば、婚約者をほっておいてここで食事をしても良かったのかい?」


「ええ、いいのよ。だってサイラスったら婚約した途端、私にべったりするようになったのだもの。私は昼休みは1人で食事をして、その後は読書をするって決めているのよ。13年経ってもそれ変わらないわ。でも放課後は2人でデートする予定だけどね」


そしてステファニーはサンドイッチを口にした。


「デートか……」


考えてみれば、婚約者とデートらしいデートをしたことが無い。週末にでもこちらからデートに誘ってみようか……?


そんなことを考えながら、僕は再びバゲットサンドを口にした――



****


 翌日は学校が休みだった。


今日は婚約者の屋敷を訪ねてデートに誘ってみよう。外出着用のクローゼットを開けると、吊り下げられている服を見つめた。


「どれがいいかな……よし、これにしよう」


僕がより一層魅力的に見えるのは、この服しかないだろう。早速、服を取り出すと着替えを始めた――



ダイニングルームへ行くと、既に両親と5歳年上の兄が席に着いていた。


「おはようございます、父上。それに母上に兄上」


「ああ、おはよう」

「おはよう、レオニー」

「おはよう」


父、母、それに兄が挨拶を返してくる。席に座ると、早速兄が声をかけてきた。


「今朝は姿を見せるのが遅かったな」


「すみません。服選びをしていたものですから」


「どこかへ出掛けるのか?」


父が尋ねてくる。


「はい、リューク伯爵家に行く予定です」


「リューク伯爵家……? まさか……」


母が首を傾げた。


「はい、婚約者に会いに行ってきます。最近、忙しくて中々会えませんでしたからね」


すると兄が眉間にシワを寄せた。


「……やめたほうがいいんじゃないか?」


「何故ですか?」


「いや、それは……」


「ゴホン!」


突然父が大きな咳払いをすると笑顔になった。


「そうかそうか、リューク伯爵家に行ってくるのか? よろしく伝えてれ。それでは食事にしようか?」


「は、はい……?」


兄と父の態度に軽い違和感を抱きつつ、皆で食事を始めた――




****



「ええ!? レオニー様! 馬車を使われないのですか!?」


馬繋場に、御者の声が響き渡った。


「ああ、今日は乗馬をしたい気分だったからな。ほら、こんなに青空なんだ。馬車に乗るにはもったいない……そうは思わないか?」


僕は空を見上げた。


「確かにそうかもしれませんが……ですが、おやめ下さい! その服は乗馬には不向きです。それに、旦那さまから仰せつかっているのですよ。今日は馬車を出すようにと。 命令に背けば叱られてしまいます!」


涙目で訴えてくる御者。


「わ……分かったよ。父の命令なら仕方ない。馬車に乗ることにしよう」


「ありがとうございます! レオニー様!」


こうして、僕は馬車でリューク伯爵家へ向った――



****



「えっ!? レ、レオニー様! 本日はいったいどうされたのですか!?」


リューク伯爵へ到着すると、僕を出迎えたフットマンが驚きの表情を浮かべた。


「どうされたって……婚約者に会いに来てはいけなかったのかい?」


何故そんなに怯えた表情を浮かべているのだろう?


「い、いえ。そ、そ、そういうわけではありませんが……」


フットマンは目を泳がせて、僕と視線を合わせようとしない。


「もしかして、いないのかい?」


「いいえ! シリル様は御在宅ではありますが……」


シリルとは僕の婚約者の名前だ。


「何だ、シリルはいるのか。だったら会わせてもらうよ。それでどこにいる?」


「え、えぇと……シリル様は……、ガゼボにいらっしゃいますが……」


「ガゼボだな、分かった」


踵を返すと、背後からフットマンの声が追いかけてきた。


「ですがシリル様はご友人たちと……!」


最後までフットマンの声を聞くこともなく、僕は足早にガゼボへ向かった。



 シリルがいるガゼボが見えてくると、女性達の話し声や笑い声が聞こえてきた。


「何だ? 随分大勢女性が集まっているな……?」


理由が分からずにガゼボに近づくと、ドレスを着飾った女性たちが集団で楽しそうに話をしていた。人数は……ざっとみて10人程度はいるかもしれない。

もしかして僕に内緒でパーティーでも開いているのだろうか?


そう思うと、むしゃくしゃした気持ちがこみ上げてくる。思わず足を止めて、女性たちの様子を見つめていると、1人の女性が僕に気付いた。


「あら? あなたはもしかして……レオニー様じゃありませんか?」


「え? ええ。そうですが……」


何故、僕のことを知っているのだろう?

すると、たちまち女性たちの視線が僕に集中する。


「え!? あのレオニー・バイロン様!?」


「あの名門セントクロス学園の!?」


「この間、剣術試合で優勝されましたよね!? あの時からずっとファンだったんです!」


「ここへ来たということは、シリル様に招かれたのですね!?」


気づけば、女性たちに取り囲まれている。


「え? ちょ、ちょっと待ってください! 僕は……ただ……」


婚約者に会いに来ただけだと言うつもりだったのに、女性たちは最後まで話をさせてくれない。

その時、赤毛の女性が他の女性たちをかき分けて僕の元へやってきた。


「あの! レオニー様! 初めまして。私、ジョアン・ヘルムと申します!」


「は、はじめまして……。レオニー・バイロンです」


その勢いに押されて、僕も挨拶する。


「あの……誤解されないでくださいね? 私が今日、ここに来たのは友人の付き添いなんですの……」


「は、はぁ……」


一体彼女は何を言い出すつもりだろう? 他の女性たちも何故か固唾をのんで見守っている様子だ。


「あの、レオニー様……突然ですが好きです!! 剣術の試合で、あなたの勇姿を見た瞬間、恋に堕ちてしまいました! 私と交際して頂けないでしょうか!」


「はぁぁあっ!?」


何と、いきなりの告白だ。すると、周囲の女性たちが歓声を上げる。


「キャアッ! 言ったわ!」

「ついに言ったのね!」

「まさか本当に告白するなんて!」


「ちょ、ちょっと待ってください!! 今、僕に告白しましたか? 聞き間違いじゃありませんよね!?」


僕に告白なんてありえないだろう!?


「いいえ。聞き間違いなどではありません! 本気の本気で告白しています!」


赤毛の女性は顔を真っ赤に染めて僕を見つめる。


するとその時――


「お待たせ、皆」


ふらりと、僕の婚約者……シリルが姿を現した。


「あ! シリル様!」


「驚きですわ。まさか、あのレオニー・バイロン様までお呼びになっていたのですね?」


「シリル様もお人が悪いわ。レオニー様とお知り合いだったなんて」


女性たちの言葉に、シリルの顔が青ざめる。


「な、何だって!? レオニー! お、お前……何だってここにいるんだよ!!」


いっちょ前に、ジャケット・スーツ姿という正装で姿を現したシリルが僕を指さして青ざめた。


「それはこっちの台詞だ! シリル! 一体これはどういうことだ! 何故、こんなに多くの女性たちを集めている! まさか……僕という婚約者がいながら、浮気をしていたのか!!」


「え!? 婚約者!?」


「レオニー様がシリル様の!?」


僕とシリルが婚約をしていることは、まだ殆ど誰にも知られていない。それはシリルが成人年齢になるまでは伏せておきたいと強く願っていたからなのだが……。


「シリル! 婚約の話を伏せていたのは、こうやって堂々と浮気をするためだったのか!」


ビシッとシリルを指差すと、生意気なことに言い返してきた。


「う、うるさい!! 俺はなぁ! 前からお前が気に入らなかったんだよ! 大体何だ! その言葉遣いは! 女なら女らしくしろ! 自分のことを僕なんて言うな!」


「僕と言って何が悪い! 男しか使っていい言葉と決められたわけじゃないだろう!」


「それだけじゃない! その男のような口調も気に入らないし、剣術が俺よりも優れていることも気に入らないんだよ!!」


「もうずっとこの言葉遣いだったんだ! 今更直せるものか!」


僕とシリルの口喧嘩の応戦は止まらない。

するとその様子を見ていた女性たちが、何故か口々にシリルに文句を言い始めた。


「酷いですわ! シリル様! 女性に対して乱暴な暴言を吐くなんて!」


「ええ、そうよ! レオニー様は私達女性の憧れの存在よ!」


「それを馬鹿にするなんて許せないわ!」


その言葉に、シリルが戸惑い始めた。


「え……? き、君たち……僕に好意を持っているんじゃ無かったのか? 一体誰の味方なんだい?」


するとその場にいた女性たち全員が声を揃えた。


『レオニー様に決まっています!』


「な、何だって……?」


グラリとシリルが膝をつく。


「全く、美味しいお菓子を用意してくれると言われて来たというのに……」


「婚約者がいるのに、こんな真似をするなんて最低ですわ」


「ほんと、クズですね。クズ」


女性たちはまるで結託したかのようにシリルに向って容赦ない言葉をぶつける。



「そ、そんな……」


へたり込むシリル。

いいざまだ。先程の口喧嘩で、シリルに対する気持ちが急激に冷めていった……というか、別に元々彼のことは好きでも何でも無かった。

ただ、親が決めた婚約者……それだけのことだ。


「行きましょう、レオニー様。あんな男、レオニー様には勿体ないですよ」


先ほど僕に告白してきたジョアンが声をかけてきた。


「ええ、行きましょう!」

「女同士でお話しましょうよ」

「私、良い会場を知っているんです」

「是非、レオニー様の武勇伝を聞かせて下さい」


女性たちが僕を取り囲む。


「そうだな……」


チラリとシリルに視線を移すと、彼は悔しそうに僕を睨みつけている。


「よし、それじゃ場所を移して話をしよう!」


僕の言葉に女性たちが頷く。

こうして僕は女性たちを引き連れて、シリルの屋敷を後にした。



その後……。

僕とシリルの婚約が破棄されたのは、言うまでもない――






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― 新着の感想 ―
これはなんとなくわかった 多分、この主人公はオスカル様だと。 ステファニーとサイラスもすっかり大きくなっちゃって、 これ婚約者は乙女チックな男の娘だと踏んでたのに ただのスケコマシでガッカリでした …
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