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墓参り

 爺さんから生徒会メンバーの居場所を聞き出した。考えてみれば、居場所を特定するのは簡単な事だった。彼ら彼女らは意識だけの存在で、器は別の場所に保管されている。つまり、墓場だ。

 休日を利用して、俺は生徒会メンバーが保管されている墓場にやってきた。持ってきた袋の中には花と水が入っている。手ぶらで訪れるのも悪いし、不審がられて注目されるのも嫌だったからだ。

 

「で? なんで皆ついてきたんですか?」


「「暇だったから」」


 どういう訳か、進藤先生と心もついてきた。幽霊もどきと半怪異。よく墓場は肝試しに使われると聞くが、この場合はどっちが脅かす側だろう。


「ねぇ、門倉君。どうしていきなりお墓参りに来たの?」


「墓参りに理由がいりますか?」


「そうは思わないけど、普通はお盆の時とか。定期的にお墓の掃除をする人もいるけど、門倉君はそういうのじゃないでしょ?」


「ぶっちゃけて言うと、知り合いの墓参りなんです。まぁ、墓に入っているのは最近知りましたけど」


「……それって、私みたいな化け物?」


「当たらずも遠からず。というか、お前熱くないか? 最近気温も上がってきたし、厚着じゃ辛いだろ。水かけてやろうか?」


「……いい」


 一つ一つ墓に刻まれた名を確認しながら、生徒会らしい墓を探していく。しばらく進んでいくと、墓場の外からでも見えていた木の近くまで来た。その木の下には、他の墓よりも小さい墓があり、見覚えある男女が墓の前に立っていた。


「……あれ? なんだ、相棒じゃん!」


「げっ!? か、門倉冬美……」


 豊崎さんと橘先輩だ。共通点が無さそうな二人が一緒にいる事に、眉間にシワが寄ってしまう。そういえば、豊崎さんは副生徒会長と知り合いみたいな事を言っていたな。となれば、二人が立っている場所にある墓が、探していた生徒会の墓だろうか。   


「美女二人も連れて、相変わらず人たらしだね。そっちの人とは、面識あるけど」


「え? わ、私の事、見えてるんですか?」


「……あれ?」


「会長、下手な事はあまり言わない方が……!」


「会長?」


「ギクッ!」


 聞き出す手間が省けた。まさかあっちから勝手にボロを出すとは。誰かに相談したい時、あの二人は選択肢から外しておこう。

 それよりも気になったのは、橘先輩の言葉だ。彼は豊崎さんの方を見て、豊崎さんを会長と呼んだ。副生徒会長が言うには、生徒会長の席が空いていると言っていたが、豊崎さんが会長だったのか。

 しかし、それだと新たに疑問が湧く。生徒会メンバーは橘先輩を除き、全員意識が器から離れた存在だ。豊崎さんが本当に生徒会長ならば、どうやって器を手に入れたんだ?


「ま、まぁまぁ! お互い探り合いは無し! ここは墓場で、死者を弔う場所。喧嘩も口論も無し! 穏やかな気持ちで、ね?」 


「……チッ」


「おい誰だ! 会長に向かって舌打ちした奴は! お前か門倉ァ!」 


「今のは俺じゃないけど、舌打ちしたいですね」


「はいはい! 喧嘩はそこまで! どんな人間であろうと、お墓の前で騒ぐのは駄目よ。先生として、お説教しようか?」


「フッ。生徒から認識されない癖に……」


「心ちゃ~ん? 聞こえてるわよ~?」


「アッハハハ! 場所が場所だけに素直に喜べないけど、みんな仲良くて嬉しいよ!」


 一番の火種である心の口にガムを詰め込ませ、ようやく口論が収まった。改めて墓に刻まれた名を見ると、そこには何も書かれていなかった。


「この墓に、生徒会が?」


「ッ!? お前、一体誰から―――」


「まぁまぁ。バレちゃったならいいじゃん。むしろ、普通の生徒に知られなかっただけラッキーだよ」


「墓に保管されてる生徒会メンバーの人数は?」


「到底数え切れない。信じられないかもしれないけど、この小さな墓の下には何万という守り人が保管されている。君が知り合った生徒会メンバーは、私の世代の守り人だよ」


「世代交代はいつ?」


「基本的に、トップが退いた時かな。と言っても、私が退いた後も、彼女は次の世代を拒否しているようだけど」


「……豊崎さんは、どうやって解放されたんですか? 器が保管されてるとはいえ、そんなに綺麗な状態で保てないでしょう」


「私は解放されてないよ。ただ、ちょっと疲れて席を立ってるだけ。こっち側に馴染み過ぎた所為で、誰の目にも見えるようになったんだ。だから、この体は偽物で、本当の器は墓の下に保管されたまま」


 そう言って、豊崎さんは酷く冷たい表情で墓石を人差し指で撫でた。その表情は守り人としての使命を与えた前世代に向けたものか、あるいは骨になっている自分の器に対してか。

 

「……もし……もしもですよ? 豊崎さんや、この墓の下に保管されている人達が、守り人としての使命から解放されるとしたら、俺に協力してくれますか?」


「私と君は相棒だ。損得勘定抜きに、協力するに決まってるだろ?」


 豊崎さんは俺に顔を向けると、左の口角を吊り上げてニヤリと笑った。


「そう言ってくれて、俺も嬉しいです。それじゃあ協力についてですが……いや、その話は後にしましょう。せっかく墓に来たんです。守り人じゃない部外者の俺でも、墓参りくらいはさせてください」


 俺は持ってきた袋から水を取り出し、墓に水をかけ、墓の前に花を置いた。線香をあげるのは、彼ら彼女らが守り人の使命から解放される時だ。 

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