前世では殺し合った仲でしたが、今世こそ仲良くなれたらいいですね
その世界には、天使と悪魔が存在した。
両者はお互いの利害の不一致から、しばしば衝突を繰り返していた。
天使軍はこの争いに勝利するため、特に戦いに優れた戦天部隊――ヴァルキリーを、悪魔軍は魔迅部隊――シュヌグーダを組織した。
まさに今、とある崩壊世界にて両軍団はぶつかり合い、最後に生き残った一人のヴァルキリーが、最後の敵、悪魔の長が鎮座する場所で、最終決戦を迎えようとしていた――
「ついに追い詰めたわよ、第一悪魔バエル。今こそ、数多の悪行を清算するとき。覚悟なさい」
悪魔はその布告に怒りをもって応じる。
「はっ、それはこちらのセリフだ、忌まわしきヴァルキリーめ。貴様らは降って湧いた虫のように、いつもいつも我々の邪魔する。いいかげん俺も我慢の限界だ。今、ここで引導を渡してくれる」
両者はにらみ合う。
そして雷鳴が大地に落ちた瞬間――同時に攻勢に出た!
「「はあああああああ!!!!!!」」
互いの刃が交わる度、周囲に火花と衝撃が走る。
地響きが地平の果てまで届く激しい戦闘は、三日三晩にわたって続いた。
そして、ついに決着の時が訪れた。
キィン――
天使は一瞬の隙を突いて、悪魔の持つ剣を彼方へと弾き飛ばした。そして立て続けに片翼を切り落とし、悪魔を地面に引きずり下ろしたのだ。
天使はなおも一切の油断を見せず、瓦礫にもたれかかる悪魔に剣先を向けた。
「これで、もうお前は戦えない。終わりね」
悪魔は威勢よく言い返す。
「それは、お互い様だ。俺の毒は貴様に充分行き渡った。その命も、もってあと五分だろう」
悪魔の策略通り、天使は傷口から大量の毒を浴びていた。天使は体の至るところに不和を感じていたが、依然としてはっきりとした意識を保ち、動じることはない。
「あら、負け惜しみかしら? お前にとどめを刺す時間があれば、それで充分よ」
「......貴様らの勝利に意味はない。たとえ肉体が滅びようと、我が魂を滅することなどできはしない。貴様が、俺を御することなどできない」
「見上げた虚栄心ね。なら、お前が悪事を企てる度、私は何度だって止めてみせる」
「最後の最後まで、忌々しい......」
天使は会話もそこそこに、剣を振りかざした。
「全力で戦った者として、せめてもの情けよ。最後の言葉を、選ばせてあげるわ」
「......全力で戦った者として、か......」
悪魔は少し悩んで、言葉を選んだ。
「......そうだな、貴様の、その忌々しいほどの行動力だけは、認めてやろう。......もし、もしも貴様との出会いが、今と違ったものだったなら......」
そう言いかけて、悪魔は目を閉じフッと笑った。
「......馬鹿馬鹿しい。殺せ」
悪魔がそう吐き捨てたあと、天使は剣を真っすぐに振り下ろした――。
天使はしばらく立ち続け、悪魔が絶命したことを確認した。
その直後、毒による激痛が体に走り、その場に座り込んだ。
「ぐっ......」
天使は崩壊直前の星を、呆然と眺めていた。
そして、一言つぶやいた。
「......奇遇ね。私も、少しだけそう思う」
次の瞬間星はまばゆい光を放ち始めた。
間もなく、星は大爆発を引き起こし、宇宙のチリとなった。
その星にある、全ての痛みを拭い去るように――
「――お嬢様! お嬢様!」
侍女の呼びかけに、マリアンは目を覚ました。
「ん~?」
「起きてください! もう、寝ぼけてる時間はありませんよ」
「え~、あと五分......」
「ダメです! 今日何があるのかお忘れですか?」
そうこうしているうち、マリアンの記憶は徐々に鮮明になってゆく。
マリアンはこの国、トレントランドの第三王女。
ちょうど先月十八歳になったばかりだ。
誕生日を迎えてからというもの、彼女の用事は急に増えた。
侍女もますます口うるさくなるばかり。
マリアンは眠い目をこすりながら、気だるそうに口を開けた。
「......分かってるわ。今日はお作法のお稽古でしょ? はあ、めんどくさい」
そうして彼女は半開きの目で立ち上がり、侍女の助けを借りて服を着替え始めた。
――マリアンは、ごく普通の貴族に見える。本人も、そう思い込んでいる。
本人を含め周囲の人々は、誰一人として知る由もなかった。
彼女がかつて悪魔と戦い、星と共に消滅したヴァルキリー、ミカエルの生まれ変わりであることを――
間違って短編で出してしまい、中途半端な状態になってしまいました。申し訳ないです......。
改めて連載形式で最後まで投稿しますので、その時にまたご覧いただけたら幸いです。