第99話 疑惑の目
桜庭はノートの束を持ち、怖い目をして立っている。
「はい、これ。
最上君が休んでいる間に、授業のノートを取っておいたから」
「ありがと…。嬉しいけど、渡し方が乱暴だな」
「『乱暴だけど……嫌いじゃないわ』って、
言われたんだってね。よかったわね」
桜庭はツンとした態度のまま自分の席に戻っていった。
何あれ。
『……嫌いじゃないわ』というセリフが、あの記憶をよみがえらせた。
「な、な、なんで、なんでその言葉を桜庭が知っているんだぁ?」
その質問に答えたのは、狩野だった。
「警察であの女子がそう証言してたんだよ。
お前が電話に出ないからいけないんだ。
その言葉を桜庭にチクったのは、僕だ。
最上さぁ、あの女子が証言したことは本当だったんだな。
俺はお前に失望した。
お前がいない間じゅう、
桜庭はどれだけお前を心配していたと思うんだ。」
「それはありがたいけど。
なんでノートで殴られなきゃいけないんだ?」
「最上、悪い事言わない。あの女子、相当ヤバいぞ」
「やっぱり! 超ヤバだろ。
狩野にもエロ仕掛けしてきたか」
「いや全然……」
今度は桜庭から消しゴムが飛んできた。
ヒュッ…コツン
消しゴムは俺の頭にワンバウンドして、狩野がキャッチ。
ナイスプレイ。
なかなかいい肩をしている、みごとな牽制球だ。
桜庭が投げてきた牽制球について、狩野は何も触れずに俺の痛いところを突いてきた。
「あの女子は、君と付き合っていると証言した。
だから、山でもデートの待ち合わせをしていただけだと。
寒風山でもらったという手紙を見せて、『これが証拠よ』だって」
「手紙? 寒風山……」
「お前にも画像送っといたけど、僕のスマホで見るか?
これが証拠だ」
狩野はスマホの画像を選択して、画面を俺に向けた。
画面には、俺が下手な字で書いた手紙が映し出された。
[とわちゃんへ
俺は小展望台にいる。
ハチ王子こと最上忍]
詰んだ。
これは、ブロッケンに騙され、寒風山で書いた架空の少女宛への置き手紙だ。
あああああ、完全にタッチアウトだ。オワタ。
「確かに、俺が書いた。俺が書いたけど…」
ヒュッ!
今度は桜庭から毒矢……ではなく、シャーペンが飛んできた。
俺が瞬時にそれをスッとよけると、狩野の左腕に命中した。
「痛ったぁぁぁぁ!!!」
「狩野、大丈夫か?」
「最上、お前、わざと避けたろ。つーーー、痛てぇ」
俺が怒られる? 毒矢を放ったのは桜庭だろ。
誰がどう見ても、怒りの矛先が間違ってないか?
そして、桜庭はついに椅子から立ち上がり大声で俺を糾弾した。
「とわちゃんって、どこの女よ!!」
クラスが一瞬凍りつき、静かになった。
そして、俺の反応を見ようと一斉に俺に視線が降り注ぐ。
「とわちゃんって、架空の人物だから。
現実には、いないからそんな人」
「いない? 嘘つき!
じゃあ、狩野君と一緒に警察へ行ったという女。
あれは幻だとでもいうの?
狩野君、あなたは誰と一緒に警察に行ったのよ」
クラスのやつらがざわざわし始めた。
「警察って聞こえたが…」
「一緒に警察へ行ったって、…ヤバいんじゃないか」
「それであいつ、朝、担任に呼ばれていたのか」
「何だ、何だ? あいつら一体何をやらかしたんだ」
「最上、学校休んで、その…女の子と?」
「不純異性交遊ってやつ?」
「キャー、これがマスコミに流れたら、
ハチ王子はもう終わりね」
好き勝手に想像してくれちゃって、お前ら想像力豊かだな。
人の不幸は蜜の味かよ。
話が変な方向に流れそうだったので、改めて俺は狩野に向き直った。
「狩野、かんじんな情報がないぞ。
あの女子は一体何者だったのか、俺まだ聞いてない」
「だから、証拠があったじゃん!
あの女子が、とわちゃんだって」
「あの女子がなんであの置き手紙を持っているんだよ」
「それは、こっちが聞きたい。
あの日、寒風山に一緒に居たからじゃないのか?」
「居ないよ。居ない、居ない。
クマが出た山で捕まえた日。
それがあの女子との初対面だ。
だいたい寒風山事件は、
ブロッケンに騙されて展望台に足止めされたのが真相だ。
とわちゃんっていう名前も、
ブロッケンが勝手に作った架空の名前だからな。
この世に存在しないんだよ。
花館十和なんて」
「はなだてとわ? 誰だよそれ。
花館じゃないだろ、山上十和だろ」
「誰それ」
「クマを射殺したあの女子だよ。
警察でそう名乗って、裏も取れている。
ライフル銃を持っていたから、
銃刀法違反になるかと思ったけどお咎めなしだ」
「銃を持っていたのにお咎めなしだって?」
「ああ、所持許可証を持っていた。
それで本名を確認したから間違いない」
「あれで? あのノンコントロールで、
ハンターだって?」
ハンターといえば、ブロッケンが言っていた言葉をふと思い出した。
寒風山で確か彼はこう言った。
『「でも、他にスナイパーも雇われているし、誰があんたを撃ったって同じでしょ」』
あの女子も、寒風山で俺を狙っていた雇われスナイパーだったのか。
だとしたら、雇ったエバンスは相当イカれてるな。
ふむふむ、寒風山で俺を狙っていたから、あの置き手紙を拾ったということか。
さては、ブロッケンはあの女子の存在を知っていた。
知っている名前をひねり、架空の少女を作り上げた。
…なるほど、読めてきたぞ。
「何、読めたぞみたいな顔してるんだ。
安心するのはまだ早いぞ、最上」
「何? まだあるのか」
狩野が口を開いたタイミングで、ちょうどチャイムが鳴った。
チャイムは非情なことに、二時限目の授業の始まりを告げていた。
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