第96話 気持ちイイならいっちゃえば?
狙撃犯は息を吐き、引き金を引いた。
カチッ
「終わりっていうより、むしろここからが本番だけどね」
「……?」
俺は上体をねじって狙撃犯を振り落とし、相手の腰をスパイク付きの地下足袋で踏みつけた。
「もう弾切れだ。
さっきのアンツァへ撃ったのが最後の一発だったんだろ」
「ウッ……数えていたの?」
「君こそ数えていなかったのか。
ハンターとしてありえないだろ。
俺を狙っていたんだって?
さっきから全然当たっていないけど」
「数えていたわよ。
あの犬さえ邪魔しなければ………
あん、そこよ、そこ、そこ……。
腰のツボ。そこが、気持ちイイ」
「だいぶ凝ってますね。お客さん」
「ほんと、最近は立ち仕事が多くて……って、違う!
腰ツボマッサージしてどうするのよ。
さっさと、その地下足袋の足、どかしなさい!」
「だーめ。さてと、どうする? 俺は狩る者になった」
「ったく、……優しくしたつもりだったけど、
物足りなかったのかしら。
それじゃ今度は、満足するまで逆の立場で楽しんでみない?
わたしをいじめてもいいのよ。
だって、……嫌いじゃないし」
「OK。この続きは別の男に頼んでいじめてもらおうか。
君こそ躾が必要なようだしね」
俺はスマホをポケットから出して電話をした。
「狩野か? 俺です。
アンツァと一緒に狙撃犯を捕まえたから、来てくれる?
狼煙をあげとくわ」
アイテムボックスから狼煙を取り出し、着火して場所を知らせた。
アンツァも場所を教えるために遠吠えし始めた。
ウォゥ、ウォゥ、ウォゥ、ウォォォォーーー!
「狩野って、もしかして子グマと一緒にいた少年?
狙ったはずよ。生きてたの?」
「だからさっきから言ってるじゃん。
全然当たってないよって」
「ううう……そんな馬鹿な。
その狩野という少年はイケてるのかしら」
「たぶん、君のお色気に一発でやられると思う。
素直なやつだしノリがいい。
俺と狩野は地下足袋ブラザーズだからな」
「何それ。あなたのお友達も地下足袋を履いてるの?
二人の少年に地下足袋で踏まれるなんて楽しみだわ」
「残念。狩野は、今日は地下足袋じゃない。
でも俺よりも地下足袋を履きなれてるはずだから、
こんなふうにツボを踏ませると上手いと思うよ」
再び狙撃犯の腰を、グイグイと踏んづけた。
狙撃犯は腰ツボマッサージがよほど気持ちいいのか、目を細めて「あああああ」と声を漏らした。
「気持ちいいところ悪いね。
俺はもうダンジョンに戻らなくちゃいけないんだ」
「いやん、やだ、やだ。
あなたがいなくちゃ意味ないじゃないの」
「なんで俺じゃなくちゃいけないんだ?」
「それは……、それは、
あなたに懸賞金がかかっているからよ」
「嘘だろ」
「嘘だと思うのなら、それでもいいわ。
腰ツボマッサージさえ続けてくれれば」
「懸賞金を懸けているのは、誰だ」
「教えてあげなーい」
「そんなことを言うなよ。
君に寂しい思いはさせないからさ。
狩野の他にもいっぱい男の人が来るはずだから」
「え、いっぱい?」
ちょうどその時、林の向こうから狩野の声が聞こえてきた。
「おーい、おーい」
「おーい、狩野、こっち、こっちだ」
アンツァが狩野を迎えに走った。
「ちょっと待って! 集団でわたしを襲うつもり?
想像してたのと違うわ。離して! 離してよ」
「離さなーい。
君が何者か教えてくれるなら腰ツボマッサージ続けてもいいけど?
ほら、さっさと教えろよ、君は誰?」
狙撃犯は蚊の鳴くような細い声でつぶやいた。
「……寒風山で」
「え? 何か言ったか?」
狙撃犯の顔を覗き込んで聞き直した。寒風山と聞こえたが空耳だろうか。
「なんでもない! やっぱり離して、離して!」
「じっとして。
これ以上、暴れたら君の腰がマジで砕けるぞ」
そして、耳元でささやいた。
「グチャってね。
だから、早く誰だか言っちゃえよ」
「あん……ハチ王子の声、嫌いじゃないわ。
イッちゃっていいの?」
「いいよ。言っちゃって、言っちゃって」
そのとき、笹薮をかき分けて狩野が到着した。
「おう、お待たせ―! 最上、大丈夫かぁ?」
せっかく正体を聞けるところだったのに……。
狩野に罪はないが、このタイミングで到着かよ。
狙撃犯は、眉間にしわを寄せて狩野を睨みつけた。
「ああ、もう!
もうちょっとでイッちゃうところだったのに……」
狩野は驚いて口を開けた。
「女か?」
「そうよ。あなたが狩野ね。
思ったよりも頭が悪そうだこと。
それに地下足袋じゃないし」
「はぁ?! 初対面で言ってくれるなぁ。
地下足袋関係ねぇし、
自慢じゃないが、最上よりバカじゃないぞ」
俺と比較するのか。
それから次々に、警察官と消防と猟友会のおじさんたちが、俺が踏んづけている狙撃犯のところへ現れた。
「げっ! みな、おっさんじゃないの!」
「おっさんで悪かったな。銃を置きなさい。
銃所持の許可は持っていますか?
じゃあ、おっさんと一緒に署まで同行願おうか」
警察官は狙撃犯を見て、非行少女を補導するような言い方で諭した。
ここまできたら、この非行少女はおっさんたち大人に任せた方がよさそうだ。
「じゃ、俺はこれで君とはおさらばだ」
俺は狙撃犯の腰を踏んづけている足を外した。
「待って、わたしからいろいろと聞きたいんじゃないの?」
「それは、このおっさんたちに話してくれればいいよ。
狩野と一緒に署まで行ってくれ。
狩野、悪りぃ、この女の子の事情聴収に付き合ってくれないか。
そんでもって、警察で得たあの子の情報を後で教えてくれ」
「いいけど…。僕はこの人に嫌われてる気がする」
「気のせいだよ。気のせい。
じゃ、俺はダンジョンに戻るわ。
あ、言い忘れるところだった。
あの子、なんていうか……ちょっとエロいところあるからな。
気を付けろ」
「え? どういうこと?」
「くれぐれも骨抜きにされないように気をつけな」
俺はダンジョンの小屋に戻るため、アンツァと一緒に洞窟へと走って行った。
「もーがーみぃー! どういう意味だよぉー!」
背後で狩野が叫んでいたが、どういう意味もこういう意味もない。
そういう意味なんだ。
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