第92話 親子グマ
早朝、狩野はスマホを手に持って、配信をスタートした。
寝起きをレポートするバラエティー番組みたいに、小声でスマホに向かって話している。
「………おはようございまーす。
カリノ・チャンネルをご覧のみなさん。
おもろい、楽しい、あなたの探索者、カリノでーす。
音声小さいですか? 聞こえてます?
ちょっと訳ありで声を出せないので、静かに配信してまーす」
俺が、カリノ・チャンネルに出るのは二回目だ。
久々の配信で、リスナーさんはハチ王子なんて覚えていないだろう。
(早朝にライブ配信って、めずらしー)
(あまり早くて、アクセス数は伸びないんじゃね?)
(このチャンネルは、いつやってもアクセス数は伸びないだろ)
(おい、人気がないと言ってるやつら、結局、配信見てるじゃん)
(暇だったから)
(他に見るものなかったから)
(もっと楽しめや)
「みなさん、早起きは三文の得ですよー。
今日のスペシャル・ゲストは、なんとハチ王子でーす」
狩野が持ったスマホは、背中にアンツァを背負った俺を映し出す。
俺は、何も言わずカメラに向かって、右手をヨォっとあげて挨拶してみせた。
(マジで? ハチ王子がいる。久しぶりじゃん)
(ハチ王子生きてたんだ)
(ハチ王子出てるよと、みんなに教えたろ)
(やだ、早起きして正解。SNSで共有しよ♡)
(ハチ王子の背後に写っているのは何だ? 犬の亡霊か?)
(秋田犬を背負って登場かよ、ハチ王子ってぶっ飛んでるな)
(秋田犬、きゃわゆいー)
「今日はですね。僕たちがよく使うダンジョンの洞窟に、クマが住み着いてしまって、それを八王子が退治する予定なんですが、……どういうことになるのかは、僕もハチ王子もわからないんですよ」
(クマ? クマと戦うの?)
(それ、ヤバくね? ああ、ハチ王子終わるな、たぶん)
(動物愛護団体からクレームきそう)
(クマって、プーさんじゃないよね)
(それで犬と一緒なのか? ハチ王子頑張って!)
(久々にハチ王子が暴れるところみられるのか)
(いや、暴れるかどうか、その前に食われるかも)
(食われたら、放送事故、放送事故)
(残酷シーンをマジでライブ配信する気なのか?)
俺は左手を振り、配信中のコメント欄が表示された画面をざっと読んでいた。
カリノ・チャンネルのリスナーって、カリノを応援するやつがいないんだな。
もうちょっとカリノを応援してやれよ。
さてと、問題のクマはどこにいるのか。
ダンジョンと田沢湖高原を結んでいる洞窟を覗いてみた。
黒い塊が、もぞもぞと動いている。
もぞもぞ、もぞもぞ、もぞもぞ。
三頭もいるじゃないか。
よく見ると、一頭は大きいが後の二頭は子グマか?
これは、親子グマだ。
子連れの母グマは、神経質になっているから、注意しないと襲われる可能性大だ。
「ハチ王子、どうやって戦います?」
「……」
アンツァは親子グマを一目見て、俺にアドバイスした。
(これはやっかいだな。刺激しないほうがいいぞ)
「ハチ王子? 聞こえてます? どうやって戦いますか?」
「………」
(ほら、やっぱりね。ハチ王子はヤバいってわかったんだよ。クマは魔物と違うからな)
(動物愛護団体からの抗議のほうが怖いっての)
(でも、戦いが観たい)
俺は、狩野に向け、口に人差し指を当てサインを送った。
「しっ! 静かに。クマが動き出した。朝の食事に出かけるようだ」
親子クマは洞窟の出入り口でしばらく周辺を警戒していたが、安全を確認すると外に出て行った。
「なんだぁ、出て行ったじゃん。何もしなくて配信終わりかよ」
「食事したらまたここに戻ってくる」
「戻って来られても、困るよそれじゃ。
そしたら、駆除してよ。配信しているんだし」
「あれは親子グマだ。下手すると母グマにやられる」
俺はアンツァを背中から降ろして、クマが寝転がっていた場所まで歩いてみた。
そこは、昨日山で猿橋さんが教えてくれた寝床そのものだった。
「ここを拠点に、周辺の山でエサ場を求めて行動してるんだな」
アンツァは寝床の匂いを嗅いで、洞窟の出入り口付近まで移動し低く唸った。
(遠くへは行っていない。まだその辺にいる)
「ごめん、狩野。ちょっと、爺ちゃんに電話するから配信切ってくれ」
俺はカリノ・チャンネルの配信を止めるように言った。
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