第82話 アンツァの前世―2
旅館のご主人がロビーで出迎えてくれた。
「ホテル・カルフォルニア」ではなく、「ホテル・マタギニア」
というのは、俺の寒い冗談。
松崎旅館という小さな旅館だった。
ロビーはそんなに広くなく、うちのペンションと同じくらいの広さだ。
「いらっしゃいませ。草彅さま、お待ちしておりました」
草彅とは、俺の母さんの旧姓で爺ちゃんの苗字だ。
「どうも、松崎さんご無沙汰してます」
「お元気そうで何よりです。こんにちは。最上忍くんですか?」
「はじめまして、最上忍です。田沢湖高原から来ました。お世話になります」
「利発そうなお孫さんですね」
「そんなことねぇ。わしが最強のダンジョン探索者に育て上げているども、まだまだ、半人前よ」
「こんにちは、忍くん。小さな旅館ですが、お爺さんとは昔からよくしていただいてます」
ワン! ワン! ワン! ワン!
(ただいま、ただいま!)
「犬が、なんだか興奮してますね。大丈夫ですか。」
「すみません。ここの旅館、犬なんか入れちゃダメっすよね」
「そうですねぇ、他のお客様の迷惑になるので…」
爺ちゃんが必死にアンツァのことを推してきた。
「こいつは、猟犬です。忍の命を守るやつなんで、なんじが許してたんせ。
盲導犬だったらOKだべ? それと同じだ」
「他のお客様の迷惑にならないようにお願いしますよ」
「俺が、この犬の足をきれいに洗いますから」
ワン!
(やくざな商売から足を洗うのか? もしも、ヤバいのなら毛皮に擬態しようか?)
アンツァは、ベタっと床に張り付いてみせた。
「ご主人、これ何に見えます?
「犬…」
「アンツァ、無駄なようだ」
ご主人は犬の名前を聞いて、笑顔になった。
「アンツァって名前なんですか? 偶然ですね。
うちのひい爺さんに『伝説のマタギ、あんつぁ』っているんですよ。そこの展示コーナーに飾ってある写真の一番左端の人です」
ワン!
(これ、おらだから)
アンツァは、古い写真が飾ってある場所で、一声吠えた。
マジか……
ってか、お前土足で上がるなよ。
「すみませーん、今、アンツァの足を洗いますんで。床はちゃんと拭きますから」
俺は、急いでアンツァを抱きかかえてご主人に謝った。
いくら前世は自分の家でも、今は犬なんだからさ、土足はまずいだろ。
クゥーン
(ごめんよ。忍、興奮したら……おしっこしたい)
「え? ペットシーツ、ペットシーツ! 爺ちゃん、軽トラ開けて!」
俺はアンツァを抱えて外に飛び出した。
「ささささ! 待で、今行ぐ!」
軽トラに置いてあったリュックからペットシーツを取り出し、急いで荷台に広げ、そこにアンツァを座らせた。
ふぅ、間に合った。
アンツァは放心状態で放尿。
クゥーン
(情けない。『伝説のマタギ、あんつぁ』が、今ではこの姿だ)
「慰めてやりたいけど、俺は犬になったことないからわかるよって言えない」
俺は、汚れたペットシーツを丸めてビニール袋に処理していた。
その間に、軽トラの荷台から降りたアンツァは、今度は新たな困難に直面していた。
シャー!!
((なんだよ、お前、よそもんかぁ?))
シャーという鳴き声に驚いて後ろを見ると、アンツァは猫に威嚇されていた。
クゥーン
(ここを通してください)
シャー!
((やんのか、こらぁ! ここをタダで通れると思ってんのか、われ!))
クゥーン
(はじめまして、こんにちは。アンツァといいます)
シャー! シャー!
((知らねーよ、ここはおいらのなわばりだ。どきやがれ!))
クゥーン
(あ、そうですか。すみません)
ウウウ
((ちゅうるの一つでも持ってこいや))
ワン!
(すみません、うちの主人が至らなくって。ちゅうるを持ち合わせてないんです)
ギャー!!
((ざけんな! くらえ! 猫パンチ))
キャイーン
(こわっ! 猫こわー)
なんだよ、アンツァ。猫に脅されてるのかよ。
情けな。
俺が猫を上から目線で見降ろしていたら、猫と目が合った。
ウウーーーー
((なんだよ、われ、見てたんかい。今度来るときは、ちゅうる忘れんじゃねえぞ))
猫は俺にガンを飛ばしながら足早に去って行った。
「おーい、忍、ここにバケツと雑巾あるから、アンツァの足を洗ってやれ」
爺ちゃんに呼ばれて、俺はアンツァを抱っこして旅館に入った。
どれだけ前世で伝説のマタギと尊敬されても、秋田犬に転生したという現実には抗えない。
そんなアンツァではあるが……
夕食時、ドックフードを食べると満足して、俺の足に寄りかかって寝てしまった。
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