第77話 掘削作業
「できるかなじゃない。やるしかねえだろ」
俺は一呼吸おいて、精神を集中させた。
ハヤブサに以前教わったように、頭の中に崩落現場が凍結した場面をイメージする。
深呼吸してから、右手の人差し指を天にむけてから、呪文を唱えた。
「コゴ・シミデケーレ」
崩落現場は一瞬にして全体が凍った。
アイテムボックスから、スコップを取り出して、俺は穴を掘り始めた。
最初は固くてなかなか掘れなかったが、進むうちに内部はシャーベット状になり掘りやすくなってきた。
アンツァは、掘るのが得意なようで、みるみる掘り進んでいく。
バグベアは、最初戸惑っていたが、犬には負けられないと思ったらしく、アンツァを横目に見ながら掘り始めた。
ある程度掘り進めたら、天井が崩壊しないように凍結させた。
バグベアは一生懸命掘っている。
さっきまで、俺を襲った魔物とこうして共同作業しているのはおかしな気分だ。
「「だんな、ダンジョン探索者なのに、あっしを殺さないで話を聞いてくれた。何故?」」
バグベアは手を休めることなく、俺に聞いて来た。
「なんでだろな。俺にもよくわかんねーや」
「「だんな、もしかしたらハチ王子か?」」
「ああ、人にはそう呼ばれている。特にダンジョン内では皆、俺をそう呼ぶなぁ」
「「……、すみません」」
「なに、謝ってんだ」
「「だんなに首根っこ押さえられたとき、あっしはもうダメだと思った」」
「……だろな。だけど、あんとき、お前の動脈が波打っているのを感じたら、こいつ生きているんだなと思った。
自然界の動物だったら、食うか食われるかの世界だから、俺はお前を殺すこともできた。
だけど、俺はバグベアを食わない。魔物を殺しても魔石しか取れない。
この殺生は必要かなと思ってさ、やめたんだよ」
「「だんな……」」
掘り進めること、二時間。
ワン! ワン! ワン! ワン!
(貫通したぞ。風が吹いて来る)
「よっしゃ! バグベア、早く穴の中へ行け!」
「「あ、いいんですか? あっしがこの中に入ったら、ハチ王子さんの手柄がなくなるけど」」
「手柄のためにやっているんだったら、最初からお前を信用してないっての。
いいから、早く行け!」
バグベアは、わずかに空いた穴を這うようにして入って行った。
「「ここだ。このダンジョンだ。間違いない」」
「よかった。じゃ、俺は戻るぞ。そしたら凍結の魔術を解除してここを塞ぐ。
巻き添えを食わないように、できるだけダンジョンの奥深くまで進んでおけ。
じゃあな」
「「ハチ王子に助けられたって、ダンジョンの魔物仲間に俺言います。ハチ王子はいい人だったて、あっし、みんなに言います!」」
「そんなことしなくていいから、さっさと奥まで行きな。じゃあな。
アンツァ、戻るぞ」
俺は、掘ったトンネルを急いで戻った。
振り返らずにひたすら出口まで走った。
振り返ったら、きっとバグベアも足を止めるかもしれないと感じたから。
穴から出ると太陽の日差しが眩しい。
深呼吸して魔術を解除する
「シミデケーレ・アド・トゲデケーレ」
凍結は一気に解除され、また土砂が崩壊して穴は完全に塞がれた。
アンツァが吠えた
ワン!
(あばよ!)
「別れる前に言ってやれよ。今さら言っても聞こえてないよ」
(いや、きっと届いている)
「だといいがな。さ。戻ろうぜ、アンツァ」
俺とアンツァは来た道のりを、沢伝いに、戻り始めた。
ああ、腹減ったななぁ。
今、何時頃なんだろう。
あぁ、そういえば、婆ちゃんがおにぎりを持たせてくれたっけ。
あれ、おにぎり、どこへやったっけ?
あ、パトカーの中のリュックじゃん!
逃げて行った警察官たちは今頃、婆ちゃんが作ってくれたおにぎりを頬張っているだろな。
ちっ、逃げたもん勝ちか。
目に見えないバグベアと戦っていた場所まであと少し。
笹藪の中に光るものを見つけた。
近づいてみると、それはバグベアが持っていたであろう剣だった。
透明シールドが解けて、剣も形を表していた。
剣を拾い上げて
「念の為に、拾っておこう。誰かが踏んづけて足を切ったら大変だし」
剣を拾い上げて、ズボンの横ポケットに何気なく手を入れた。
転移石が入っている。
そうそう、そういえば、何度も通うのは大変だから、どこかに転移石を置くつもりで持ってきていたんだった。
もう片方の転移石は、リュックにいれたままだ。
「アンツァ、すぐに飯にありつけるぞ」
(ま、ここからなら、玉川温泉までもうすぐだしな)
「じゃなくて、秒で飯にありつく方法を思いついた。ワンチャン今すぐ飯が食えるぞ。
今すぐ、おれの毛皮になれ」
(いいのか? 毛皮に擬態して)
「早く!」
(あいよ)
アンツァは俺の背中におぶさった。
―転移!
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