第76話 魔物の正体
バッシャ-ン。
俺と魔物は沢に落ちた。
浅い小川の中で、俺と魔物は泥だらけになった。
水と泥で魔物の透明のシールドが解除されたのか、泥だらけの魔物の姿が露になった。
大丈夫。
俺と魔物の体は入れ替わっていないようだ。
魔物は沢に沿って逃げ出した。
その姿は、低層ダンジョンに棲んでいる魔物バグベアだった。
「待て! 逃げるな。お前、バグベアじゃねーか」
魔物は一瞬足を止めた。
「バグベア、何があったか知らないが、人間の世界に来るなんて何か事情があったりする?お前が望むのなら、ダンジョンに帰してやってもいい」
糸が伸びきったようにバグベアの動きが止まる。
傍からみたら、それはわずかな躊躇だったかもしれない。
しかし、瞬時の間合いを俺はうまく利用した。
バグベアの側面にダッシュで近づいて、抱き着いた。
そのまま、小川の中に一緒に倒れる。
いわゆるタックルだ。
体全体を押さえ込んで、バグベアの首を左手で押さえつけた。
魔物とはいえバグベアの動脈が激しく波打っている。
瞳は哀願するように俺を見上げてきた。
「このまま、力をこめてお前を殺してもいいが……」
「「戻れないんだよぅ」」
蚊の鳴くような声でバグベアがうめいた。
「戻れないとはどういうことだ」
「「ダンジョンの出入り口が崩壊した」」
「ん? なんだそれ」
「「少年、崩壊現場まで案内するから放してくれ。本当にあっしをダンジョンに帰してくれるんだろ?」」
「ああ、俺の言ったことは本当だ。そっちこそ、嘘じゃないだろうな。
嘘だった場合は、いつでもお前の首なんか…」
こう言って、俺はバグベアの耳元でささやいた。
「ポキリだぞ」
姿が見えない相手というのは、それだけで恐ろしく大きな姿を想像させるのだろう。
透明シールドが解けたこいつはは、哀れな泥だらけのバグベアだった。
後方からハチが急斜面を下ってきた。
ワン! ワン!
(忍、仕留めたのか!)
「アンツァ、大丈夫か?」
(すまない。気を失っていたようだ。魔物はこれか、透明じゃないじゃん)
「ああ、ただのバグベアだよ」
(どうする。心臓を一撃するか?)
「やめる。こいつをダンジョンに帰してやると約束したんだ」
(そんな…、信用できるのか)
「こいつを倒したところで、魔石にしかならない。
そんなことよりも、こいつがいたダンジョンを見つけて、他の魔物が来ないように封鎖するほうが、お互いの為だ」
(獲物じゃないのか。こいつは)
「獲物じゃない。
ダンジョンと人間界の棲み分けが崩れなければ、こいつだってここで人間を襲うことはなかったはずだ」
(忍がそう判断したなら、おらはそれに従う)
バグベアは自分が出てきたダンジョンの崩落現場まで、俺を案内した。
*
それは、玉川温泉よりも更に山奥に入った焼山にあった。
焼山火口湖から降りて来た斜面の一部が崩落している。
「「ここだ。地面が大きく揺れて、ぽっかり穴が開いた。どこに通じているのか興味本位でダンジョンから出てきてウロウロしてた。
そのあと、大雨が降って来て、その辺の山に隠れていたら、ここが崩落して塞がれてしまった」」
「土砂崩れだな」
「「戻れなくなったんだよぅ」」
「情けない声だすな。これを掘ればいい話だ」
アンツァは掘削作業に難色を示した。
(忍、こんな山奥まで重機なんか入って来れないだろ。どうするつもりだ)
「どうするって……、手で掘るしかねぇだろ」
(まさか、人力で?)
「人力と、犬力と魔物力で、だな」
「「あっしも、掘るんですか」」
「お前のために掘るんだよ。お前が本気出さなくてどうする」
「「やろうとしたけど、掘っても、掘っても崩れて来てできなかったから」」
「だろうな」
「「じゃ、どうすんだよ」」
「人力、犬力、魔物力。もうひとつ力を使う。魔術だ。
全体を凍結させて崩れないようにするんだ。
ダンジョン出入口が見つかったら、バグベアを帰した時点で、凍結を解除し、また穴をふさぐ」
「「そんなに、うまくできるかな」」
「できるかなじゃない。やるしかねえだろ」
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