第75話 何かいる
「いいから、逃げろ。うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「なんで? これからでしょ、仕事はぁ」
ウウウ……
「聞こえた!」
ワン!
(今のはおらだ)
「紛らわしいぞ、アンツァ」
周辺の動きに全力集中してみる。
かすかに、周辺で何者かの息遣いが聞こえた。
確かに、何かいる。
そいつの気配は、ゆっくりと左から右に移動していくのがわかった。
息遣いと一緒に、周りの風景の中、わずかに歪んで移動していくのが見える。
俺は、そいつにじっと見られているのを感じた。
「品定めしてんのか。俺は平凡な高校生ですよ」
魔物の視線は、俺とハチの周りを一周した。
見えない敵と戦うなんて、こっちが不利じゃないか。
いきなり、空を切って何かが俺の顔を横切った。
ブン!
頬をスーッと血が流れる。切られた。
「ちょい待ち」
今度は反対側から来た。
寸でのところで、俺はそれをかわす。
「なんでお前がここにいるのかわかんないけど、ここはお前の来るところじゃない。
おとなしく元いたダンジョンへ帰るんだな」
次は、脇腹を狙ってくる気配が…、
スッと交わして、俺は右手を挙げた。
「言うことを聞かないならしょうがないな。
俺は平凡な高校生だけど、実はもう一つの顔がある。
魔物を狩るダンジョン探索者だ。
あ、ごめん、ごめん。
それだけで平凡じゃなかったな。
悪いけど、俺のアイテム使わせてもらうよ。
そっちだけ姿を隠すなんて不公平だもん」
ワン!
(ハチ王子になるのか、忍。ええー、見たい! 見たい!
探索者のアイテムって何? やってみせて早く!)
「まずは、姿を検知させてもらうよ。アイテムボックス。サーマルビジョン!」
クウン…
(なんだ擬態するんじゃないのか。ハチ王子の擬態が見たかったのに。
でもなんか、カタカナ用語が長くてかっけーな)
「いちいち、ツッコミいれなくていいから。
黙ってろ、アンツァ!」
姿は見えないが、確かに何かいる。
サーマルビジョンにすると、目の前にスクリーンが現れ、視界がサーモグラフィー画像になる。
これなら目に見えない相手でも、温度差を検知して色で可視化することができるはずだ。
さてと、魔物はどこだ。
サーマルビジョンに映し出される青い風景の中を探す。
青い背景に、物体の表面温度が高い部分は赤やオレンジ色になって現れる。
ふと見ると、樹木である青い部分にオレンジ色のちっこいやつがしがみついている。
何だ、これは。
サーマルビジョンのスクリーンをすこしずらして、自然光で物体を確認してみる。
それは、木にしがみついているアンツァだった。
「アンツァ、お前、何やってんだ」
クウン…
(木に擬態している)
「…お疲れ。アンツァ、だがそれは思い込みだ」
そんなことを話していたら、突然!
林の上から、特大の何かが降って来た。
ズ、ウン…
笹藪の地面が揺れた。
サーマルビジョンで見ると、オレンジ色の巨体が前方に映し出されている。
何だこれは。
巨体は、こっちに向かって歩き出した。
巨体の胴体だけ黄緑色で表示され、腕や顔よりも温度が低いことがわかる。
鎧を着ているのか?
魔物は俺に向かって腕を振り下ろした。
降ろされた腕よりも離れた距離までよけたつもりが、左腕を何かがかすった。
シュッ。
切られた!
刃物? 剣か!
武器は温度が低いため、水色表示になっていた。それを、俺は見落としてしまった。
「…なんだよ。剣を持っているなら言ってくれよ」
俺は右手で切られた左腕をおさえた。
幸い、傷は浅くたいしたことはない。
オレンジ色の物体は木の上にジャンプした。
木の枝から、俺見下ろしている。
「下に降りて来いよ」
俺の挑発に、魔物は意外と素直に枝から笹藪の地面に降り立った。
グォー――!!
さっきと同じ要領で剣を振りながら、俺に向かってきた。
俺は魔物の腕をつかみ、剣の動きを止めてから、足払いをした。
腕を俺に捕まれたまま、魔物の巨体は大きく後ろに倒れた。
ド――ン
と、同時に俺は魔物の上に乗っかって動きを制してから、腕をさらにねじり上げた。
ウギャー!
魔物は痛みに耐えかねて、剣を手放した。
武器さえ無くなれば、こっちのもんだ。
それでも、力で俺をはねのけようとしてくる。
この巨体を俺ひとりの体重だけで押さえつけ続けるのは、ちょおっと無理かもしれない。
「くっ……」
魔物の力に負けそうになったが、つかんだ腕だけは離さなかった。
ただ、立場が逆転した。
今度は俺が下になって、魔物が上になった。
魔物は空いた方の腕で俺の首を絞めてきた。
重っ、アンツァ、助けてくれ…
クウン…
(ハチ王子、寝転がっているのか。おいおい、余裕じゃん)
バカ! 違う。戦っているんだ。お前にはこいつが見えていないのか。
と、アンツァを叱りたいところだが、首を絞められて言葉にならない。
「あ、う、ぅう…」
ワン! ワン!
(ん?……、おお、見えた、見えた。
輪郭がぼやけて透明だが、忍、何かに襲われてるじゃないか!)
今頃、気が付いたのか。早くこいつを追い払ってくれっ…
ワン! ワン! ワン! ワン!
(おらのご主人に何をする! さっさとどきやがれ、バケモノめが!)
アンツァが吠える声に驚いた魔物は、一瞬腕を離した。
次にアンツァは、見えない魔物に向かい、飛び掛かって嚙みつく。
ガブッ。
魔物はハチをうるさいハエでも払うかのように腕を回して、ハチを遠くへ飛ばした。
キャイーン!
アンツァは飛ばされて木にぶつかって落ちた。
「何しやがるんだ、俺のアンツァに!」
魔物の上半身が完全に俺から離れた瞬間、全力で俺は上体を起こして思いっきり鉄拳をくらわした。
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
後は無我夢中で、魔物をボコった。
魔物が俺にしがみつこうしてきた。
ええい、このまま横に転がしてしまえ!
魔物と俺は転がった先は、急斜面だった。
加速がついたまま、俺と魔物の取り組みは急斜面をゴロゴロと転がり続ける。
アニメや映画だったら、このまま転がって、俺と魔物の中身が入れ替わる場面だ。
冗談じゃない。
やめてくれ。
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