第64話 秘密の大捜査
寒風山で俺を狙ったスナイパーが逮捕されたことにより、
密輸船の金塊は犯罪性があるとして、警察が動く大捜索になった。
そして、捜索差押許可状を裁判官から取り付けるまで、秘密裡に準備は進んだ。
田沢湖高原のダンジョン入り口を自衛隊が整備していた。
もちろん規制線を張り、関係者以外は通行止めだ。
何のための整備工事かというと、大掛かりな転送システムを作っていたのだ。
ダンジョン入り口側と、第5層界側とに待機所を作り、両方の待機所を転移石でつなぐ。
これで、ダンジョン内にトラック車両を持ち込める。
このやり方は、北部でキャンピングカーに暮らす高齢探索者から教わった。
*
数日前。
陸上運用支援課の隊員佐山さんと俺は、一緒に第5層界に来た。
北部のノマドキャンパーたちに接触を試みるためだ。
予想はしていたが、最初は警戒して口もきいてもらえなかった。
だが、俺が空から包帯を落とした者だと名乗ると快く受け入れてくれた。
「あんたかね、ドラゴンに乗って白い包帯をくれた少年は」
「あのときは、すみませんでした。驚かせちゃって」
「いやぁ、助かったんだよ。
あの時、ちょうど怪我人が出てね。
医療道具がなかったから困っていたんだ。
ありがとうって手を振ったのに行っちまうからさ、感謝を伝えられなかった。
俺はコロニーのリーダーでウィリアムという。ビリーと呼んでくれ」
「私は自衛隊員の佐山です」
「俺は最上といいますが、ハチ王子とも呼ばれてます。
どっちでもいいです。呼びやすい方で呼んでください」
「ハチ王子? 名前は知っているよ。
最近、日本でランキング1位になったレベル999だろ。
あっは! 俺はなんて運がいいんだ。
ハチ王子から包帯をもらっていたなんて!」
いや、包帯をあげたのではなく、うっかり落としただけです。
と、正直に言おうとしたが、あまりにも喜ばれたから言えなかった。
そこから、ビリーは自分たちの事を話し始めた。
彼らはエバンスが言っていた通り、仕事が出来なくなった高齢探索者だった。
みな、アメリカの路上でキャンピングカーに乗りながら、あちこち漂流して暮らしていたが、
このダンジョンを見つけて、車ごと転移してきたのだという。
「ここでは、小さなコロニーを作って、
皆好きなことをして暮らしている。
少年だから教えるんだが、
地上に行くときは待機所まで行って、
転移石の魔力で車ごと地上に戻るんだよ。
だが、どうしてそんなことを知りたいんだね。
自衛隊員まで一緒にくるなんて何か事情がありそうだな」
俺は、エバンスによる北部開発について話をした。
「ああ、そうだ。
どこから来たやつか知らないが、
あの男が来てから周辺の山を切り崩し、川の水も濁らせている。
そう、エバンスと名乗っていたな。
俺たちを雇用する場を作ると言って挨拶に来たよ。
だが、自然破壊することは俺たちの生活信条に反する」
その開発を止めるために、日本政府が秘密裡に動いていることも伝えた。
自衛隊員の佐山さんも、実は自分も探索者であることを明かすと、
「そう言うことなら、早く言ってくれ。
他にも俺たちに出来ることはないかね。協力したい」
「待機所をつくることを教えてくれただけで、十分なんですが、
あとちょっとだけいいですか?」
「何でも言ってくれ」
「みなさん、集会で歌など歌います?」
「ああ、よくやるよ。
ギターを弾ける者、歌が上手い者、ダンスがうまい者、
料理が得意な者、それから……」
「あの、ここまでわかれば十分です。
みなさん、配信しませんか?
世界中にこのダンジョン第5層界のすばらしさを発信しましょう。
そして、ここを開発という名のもとに破壊する行為を
止めるように訴えませんか?」
「それだけでいいのか?」
「あともうひとつだけ。
俺も一緒に配信に加わっていいですか?」
「何をいう。大歓迎に決まっているだろ」
*
ビリーが教えてくれた通りにダンジョンの陸上に待機所を作った。
一方で、海の座礁した小型貨物船に行く方法には問題があった。
御積島ダンジョンから行くには危険すぎる。
そこで、ボートは秋田港に転移石を設置して第5層界とつなぐ。
第5層界の砂浜の沖からボートを出して、座礁船近くで待機している方法をとった。
エバンス本人かその仲間が海で妨害行為をする可能性があるので、
逮捕権のある海上保安庁に協力してもらうことに。
押収した密輸品は、そこから陸自と海上保安庁の協力で陸上で待機しているトラックに積み込むという計画だ。
陸上では、警察が待機する。
残る問題は、エバンスに令状を表示するタイミングだ。
捜索差押状を執行する際には、令状を対象者に示さなければならない。
つまり、エバンス本人に令状を示さないとならないのだ。
これには、ジュリアが協力を申し出てくれた。
「OK、わたしがエバンスを第5層界に呼び出すわ。
わたしもせっかく建てた家の近くの山を崩されちゃって、
頭にきていたところなの。
で? 少年もわたしと一緒に来るんでしょ?」
「俺は警察官じゃないんで……それは警察官の仕事です」
「なあんだ、一緒に来ないの?
いいじゃないの、警察官と一緒に立ってれば」
「俺は、海で船に乗り込む役目があるから行けない。ごめんなさい」
「そう、じゃあわたしからの希望は聞いてもらえるのかしら?
一緒に来る警察官はイケメンなんでしょうね。
そこんとこ、重要よ」
「はい、そこはできるだけ希望に沿うように……」
「できるだけって、それじゃダメ! 絶対よ」
「はい、絶対、必ず、選りすぐりのイケメン警察官を複数名で行かせます」
*
ついに捜索差押許可状、俗称「ガサ状」が発布された。
ジュリアの要望を父さんに伝えていたにもかかわらず、
ダンジョン入り口に現れたのはちょっと冴えないおじさん警察巡査部長だった。
連れの警察官のほうがまだ若くてなんとかなりそうなレベル。
「これじゃダメです! せめて、眉毛を整えてください。
それから、お腹に力を入れて引っ込めてください!」
「何を失礼な。子供の遊びじゃないんだよ、君」
「俺だって遊んでるつもりはありません。
あなたの顔のせいで容疑者を取り逃がすかもしれないんですよ。
それでもいいんですか?」
父さんは、警察官の気分を害しないように静かに注意した。
「巡査部長、大変失礼とは存じますが、
あなたの容姿にすべてがかかっていると言っても過言ではありません。
ここでホシに逃げられたら、
あなたの警察官人生に汚点がつくかもしれませんね。
よろしいのですか?」
「そんなに重要なこと?なのか。」
「桜庭あずさ君、ユズリハ君、この方の眉を剃ってメイクしてくれ」
「はい、お父様」
現場に待機していた桜庭とユズリハが、令状を持っている巡査部長を押さえつけてメイクしはじめた。
「おじさま、ごめんあそばせ。
今どきのイケメンに仕上げてさしあげます。
もしかしたらカメラに映るかもしれないでしょ」
ユズリハは配信にきれいに映るナチュラルメイクが得意だった。
イケメンとまでは行かなくても10歳は若くなった巡査部長と警察官たち。
そのメイク完了を確認してから、俺とハヤブサ、そして陸自の佐山さんと潜水士は、ダンジョン内部に入って行った。
「最上君、ご武運を」
桜庭……前にも言ったがそれはやめろって。
どうせ君も第5層界に来るんだろ。
来るなと止めたって来るに決まっている。
狩野はどうしていたかというと。
彼は陸上自衛隊と一緒にトラックに乗り込んでいた。
トラックに乗り込んだ自衛隊は転移石で囲った待機場所から、ダンジョンへと転移した。
*
ダンジョン第5層界の待機場所に着くと、ジュリアが愛馬マロンに乗って待っていた。
「お待たせしました。ジュリア。
こちらの警察の方々とご一緒にお願いします」
「ん? これがイケメン警察官なの?」
「今、原宿界隈ではこの手の顔がモテモテなんです。
流行のモテ男は、この手のタイプなんですよ」
「本当に?」
「マジで本当。
この方のブロマイドが竹下通りで売れ筋だって知らなかった?」
「ふうーん、後ろに立っている警察官たちのほうが私好みだけど。
まあ、いいわ。少年が言うなら信じるわ。さ、この馬に乗って」
「わたくしどもはジープで向かいますから結構です」
「あ、そう」
ごめんよ、ジュリア。
これも任務遂行のためだ。
嘘も方便。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ってくださったら
下にある☆☆☆☆☆から、
ぜひ、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、
正直に感じた気持ちでちろん結構です!
ブックマークもいただけるとさらに泣いて喜びます。
何卒よろしくお願いいたします。




