第61話 寒風山を封鎖せよ
俺は駆け足で寒風山を下りていた。
走りながら、ブロッケンに言われたことを思い出す。
「さすがに三日間飲まず食わずで、さぞ体力も落ちた頃よね」
言われてみればその通りだった。
茹でトウモロコシだけでは、やはり体力が落ちてしまっていた。
腹減ったなあ・・・
あ、忘れてきた、学校のカバン。
それから、あのカツ丼も。
俺は途中で忘れ物に気が付いて、降りてきた道を引き返した。
ヘリコプターの音がする。
見上げると、上空をヘリが飛んでいた。
「何だろう。どこかの放送局が中継でもしてるのかな」
引き返そうと登っていた道路は、頂上から降りてくる自動車で渋滞しはじめている。
下山する車と逆行して坂道を登りながら走っていると、箱根駅伝の5区の選手にでもなった気分だ。
車の窓から、皆が俺に注目している。
中には、俺に向かって手を振る子供もいる。
忘れ物を取りに走っているだけなんだが。
カバンがないと明日から学校に行くのに困るし、カバンの中には何よりも大事な弁当箱が入っているのだ。
大館の曲げわっぱの弁当箱。あれは高いんだ。
失くしたら婆ちゃんに怒られる。
小展望台近くまで戻ると、パラグライダーの青年たちが撤収を始めていた。
青年たちに早く撤収するように指示しているのか、防弾チョッキを着た男が立っている。
あれは、警察官?
警察の姿を見て、ブロッケンはさっさと逃げたのだろうか。
そこにブロッケンの姿はなかった。
それとも、ブロッケンはパラグライダー体験の費用を払わないでトン面したから警察官が来たのか。
理由はわからないが、俺を殺そうとした奴なんか警察に捕まればよかったのに。
小展望台に戻って来ると、学校のカバンはあった。
それと、ブロッケンが魔法で出したカツ丼も。
ゴクリと生唾を飲み込む。
これを食ってから山を下りても遅くはないよな。
さっそく、丼の蓋を開けて中のカツ丼のいい匂いをスーと吸い込む。
カツオだしと醤油の匂いが食欲をそそった。
あ、割りばしがない。
なんだよ、ブロッケン、割りばしぐらい魔法で出しておけよ。
ま、いっか、手で食うか。
俺は卵とじしたトンカツを一枚、手でつまんで、
大きく開けた口の中へほうり込もうとしたそのとき、
「君、ここで何をしている」
突然、声を掛けられ驚いてトンカツを床に落としてしまった。
「うわぁ! びっくりしたぁ!
トンカツを落としちゃったよー! あああああああ!!!」
声をかけてきたのは警察官だった。
「驚かせて悪かった。ここで何をしているんだね」
「カツ丼を食おうとしてただけですよー。
見ればわかるじゃないですかぁ。ああ、もったいない・・・
拾ってフーフーって息をかければ大丈夫かな」
「大丈夫じゃない。やめなさい」
「だって、だって・・・・」
俺は本当に悲しくなってのどの奥のほうがキュッとつまってしまった。
「この辺はね、今、特別緊急配備体制になったんだよ。
もうすぐ、寒風山は封鎖される。君も早く山を下りなさい」
とくべつきんきゅうはいびたいせい?
「へぇ、なんか大変なことになっているんですねぇ」
「そうだよ。悪い人を早く捕まえて、
いろんな証拠をとるために最大の警戒体制に入ったんだ。
どこかに悪い人が隠れているかもしれないんだよ」
悪い人? ブロッケンか?
「さっき、この周辺から発砲音がしたとの通報があった」
ただ一発発砲しただけで、ブロッケンが警察に包囲されたのか。
ヘリまで飛ばして、大げさなだな。
一体、誰の命令でこんな警戒体制にするんだ。
まさか、俺が金塊を無断拝借したことがバレた?
そういえば、エバンスは言っていたな。
「金塊に刻印されてあるナンバーや商標を調べれば、
どこの金塊かはすぐわかる」
これは、ヤバい状況かもしれない。
なんってこった!
俺はエバンスのエージェントからも狙われ、警察にも狙われているのか。
ヘリがまた上空を飛んで行った。この周辺をずっと旋回している。
ヘリの音が俺の不安をいっそうかき乱した。
「おじさん、俺、帰ります。どうもすみませんでしたぁー」
「おい、一人で大丈夫か?
わたしがボディーガードしてやろうか」
「大丈夫でーす」
小展望台から大きくカーブしながら続く坂道は、すでに下山するように指示された車が繋がっていた。
今度は箱根駅伝の6区か?
いや、そんなことしている余裕は無い。
俺は道路をあきらめ急斜面の草原を一直線に下って行った。
捕まったら大変だ、逮捕される、逮捕! 早く逃げなきゃ。
草原も低木林も駆け抜ける。
登山口付近まで来ると、すでにゲートが張られて検問中だった。
車が止められて、乗っている人を確認してからゲートを通している。
まずいぞ。俺はどうしたらいい?
藪にかくれながら一人思案していると、
突然後ろから何者かが襲い掛かって来て、俺はうつぶせに倒された。
「容疑者、身柄確保!」
一人が叫ぶと、次々に大人が俺の上に覆いかぶさって押さえつける。
「容疑者の身柄を確保!」
両腕を後ろに押さえつけられ、複数の警察官が俺を取り囲む。
捕まった!
俺の人生は終わった。
高校生で警察に捕まるなんて・・・・
あのとき、金塊に目がくらんだばかりに、人生を棒に振ってしまった。
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