第60話 ハチ王子を探せー3(ハヤブサ談)
妹のあずさから最上君の行方が分からなくなっていると、泣きながら電話があった。
オーマイガッ!
可愛いあずさを悲しませるような男だったのか、最上君は。
見損なった。
「お兄ちゃん、それ違う。怒りの矛先が間違ってる。
最上君は自分から失踪したんじゃないから」
なんだ違うのか。
あずさの話によると、いなくなった日の最上君は終礼と同時に急いで学校を飛び出していったという。
狩野君がその様子を見ていて、それが最上君を見た最後の姿。
それから二日過ぎている。
畑仕事に夢中になっているとしても、何も連絡してこないのはおかしい。
「お兄ちゃんに任せなさい。必ず最上君を見つけ出してあげるから」
そうは言ったものの、どこから解決の糸口を見つければいいものやら。
謎なのは、なぜあわてて学校を飛び出していったのかだ。
最上君と接触した人物の洗い出しからしてみよう。
あいつと接触する人物なんて限られている。
家族を除いては、あずさ、狩野君、担任の小松先生、ユズリハ、この四名しかいない。
ネクラで友達が少ないのが幸いしたな。
手間いらずだ。
あずさと狩野君からの情報はすでに聞いているから、あと残り二名に聞き込みをすればいいだけ。
これは楽勝だ。
新しく担任になった小松先生は、ダンジョン技術研究所からの派遣だから何か情報を知っているかもしれない。
「最上君の最近の様子で変わったことですか?
そうですねえ、最近、ランキング1位になって
ハンドルネームをハチ王子としたことを後悔していましたね。
ハチ王子の方が有名で本名の方が目立たなかったのにと。
でも、その後は割り切った様子だったので安心しました。
あっそれと、ハヤブサ君だから言いますが、
ここだけの話にしてくださいよ。
日本海で拾ったという金塊。
金塊の商標と番号を調べたところ、
密輸品の可能性が高いとわかりました。
その辺は、最上室長のほうが詳しいかと・・・・」
小松先生はまったくの白だな。
もし、金塊が絡んでいるとなると、これは単純な話ではなくなる。
面倒なことに巻き込まれていなければいいが。
次は、ユズリハだ。
この子は東京校から転校してきたばかりだし、聞いてもあまり情報はないだろう。
期待はしないが、とりあえず聞いてみる。
「え、そうなの?
最近、最上君を学校で見かけないと思っていたのよ。
最上君に何かあったのかしら。
そういえば、数日前なんだけど、わたし朝早く登校したんだけどね。
え? どうして朝早く登校したかって?
やだわ、わたし疑われているの?
三年生は受験を控えているから、
7時20分から8時30分まで朝勉強しているんです。
大学進学するのかって?
当然でしょ、いつまでもアイドル系配信者で稼げないもの。
わたしはプロになるほど強くないし、
大学へ行って外国語を学んでから、起業でもしようかなぁって。
あ、わたしの話じゃなかったわね。ごめんなさい。
だから、朝早く登校した時の話なんだけど、
昇降口からブロッケンが校舎に入っていくところを見たのよ。
何しているのかしらと思って、
まさかあいつまで転校してきたのかと・・・・
後ろからずっと見ていたんだけど、
手紙みたいなものを下駄箱に入れていたみたい。
それから、さっさと引き返して校門から出て行ったわ。
ブロッケンが何しに来たのかわかんなーい。
だって、そのあとはブロッケンを見ていないし、
誰かが何かをされたという話も聞かない。
なんだか、ウロウロしていただけで終了した、みたいな」
予想に反して、重要な証言を得ることが出来た。
確かに、ブロッケンなら同じ制服だから、校内に入って来ても誰にも怪しまれない。
それに、ユズリハの証言に出てきた手紙みたいなものとは・・・
実際、手紙じゃないだろうか。
果たし状か、それともまさかのラブレター。
今どき、下駄箱にラブレター入れる奴いるか?
パターン1
ブロッケンからの果たし状が入っていた。
それで最上君は戦いに行った。
パターン2
ブロッケンからのラブレターが入っていた。
それで最上君は断りに行った。
最上君にはあずさという存在があるのだから、OKするはずがない。
パターン2はどう考えても不自然だ。ありえない。
すると、パターン1か。
だが、ブロッケンと戦ったとしても、最上君なら簡単に帰って来られるはず。
果たし状ではなく、脅迫状という線はどうだろう。
一体どんな脅迫状が入っていたんだ。
あの最上君が帰って来れなくなるような脅迫とは何だ。
どっちにしろ、よく練られた手口で誘い出されたに違いない。
相当、強固に拘束されて脱出できないのではないだろうか。
と、すれば・・・これはプロが一枚かんでいるな。
ブロッケンはただの捨て駒だ。
こんなことになるんだったら、最上君のお父さんに密輸船のことを話しておくべきだった。
今からでも遅くない。
急いで最上君のお父さんに連絡しよう。
「ハヤブサ君か、君も忍の居場所を君も知らないのか。
密輸船? それについてはだいたい調べがついている。
金塊のことだろう。
まさか、密輸の陰にある組織と関係しているとでも?
あ、ハヤブサくん、盗聴はされていないかね。
気を付けなさい。
・・・あの金塊を調べたところ、数か月前にマカオから
日本に向かった船に積まれていたところまでは判明した。
財務省関税局によると、大口の密輸の摘発が多発していると。
組織的に反復して行われている事案も確認されている。
金塊の密輸人を税関が摘発しているのは、
ほんの氷山の一角にすぎないんだよ。
相当の利益が密輸を企てる犯罪組織に流れているおそれがある。
もしも、それに忍が関係しているとしたら、これは事件だ。
恐れていた事態が起こったのだ。
よしすぐに、警察庁警備局に協力を要請しよう」
「お父さん、慌てないでください。
わたしに少しだけ時間をください。
心当たりがあるので、そこをに当たってみます」
その心当たりはダンジョン第5層界にあった。
金塊は第5層界の海にある船から見つけたと、最上君は言っていた。
北で開発を進めると言っていたエバンスが裏で手引きしている可能性がある。
座礁した小型貨物船があったのも北の海岸沖だ。
直接エバンスから話を聞いた方が早い。
「やあ、ミスター・ハヤブサ。遅かったじゃないか。
もっと早く動くかと思っていたが、案外鈍かったね。
おかげで、インフラの整備が整いつつあるよ。
次に取り掛かるのは敷地の確保と、資材の確保、
それさえできれば、あとは箱モノを建てていくだけだ。
向こうの山肌が崩れているって? ああ伐採したからね。
コンクリートを作るため、土砂も要る。
ハチ王子か。 そんなに弟子のことが心配かね。
弟子ではないバディだって?
そんなことはどっちでもいいよ。
うるさいハエは手で掃わないと。
場合によってはハエ叩きで叩くか、
殺虫剤で駆除するかしないと、
仕事の邪魔なんでね。
そう怒らないでくれ、ミスター・ハヤブサ。
君に出資しているのは、
君のダンジョン配信には宣伝効果があると読んだからだ。
行く行くはここの開発の広報担当として、
どんどん宣伝してもらうからね。
ブロッケン? ああ、あの少年は利用価値があった。
ハチ王子に恨みを持っていたからね。
だが、それだけだろうな。
あの子にハチ王子は殺せない。
寒風山に上手く足止めしてくれているが、
それがいつまで続くのか。
奥の一手はプロのスナイパーにやらせるよ。
おっと、いけない。口を滑らせてしまった。
わたしは何か言ってしまったような・・・
まあ、忘れてくれたまえ。
ミスター・ハヤブサ、
女性誌の記者ともう一回コンタクトを取ってあげよう。
そこで、ダンジョン開発の宣伝をよろしく頼むよ」
エバンス。こいつは本物のワルだ。
人の命も自然環境もなんとも思ってやしない。
自分の利益になること以外は、排除、破壊することに躊躇しない。
わたしは怒りで狂いそうになったが、必死で感情を押し殺し平静を装った。
ここで、下手に反抗したら最上君の命が危ないからだ。
すぐに、最上君のお父さんにエバンスから聞いた情報を流す。
「わかった。寒風山だな。
おい、東北管区警察局だ。
それだけではダメだ。SATだ。
SATの指揮系統は・・・警察庁警備局か。
大至急、寒風山を封鎖してくれと警察庁に・・・」
電話の向こうで、最上君のお父さんが部下たちに指示している。
「お父さん、警察のヘリで向かってください。
わたしもすぐ寒風山に向かいます」
最上君、今から救助に向かうぞ、待ってろ。
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