第55話 下駄箱に恋文
今どき下駄箱に手紙なんか入れるやついるかよ。
下駄箱の前で俺は信じがたい物を発見してしまった。
真っ白い封筒が上履きの上に置いてある。
挑戦状か悪口か、いじめの類だろうか。
封筒を手にして裏を見たが、差出人名は描かれていない。
そのかわり、封筒は赤いハートのシールで封がされている。
もしや・・・
もしかしたら・・・
これって、ラブレターとか、恋文とかって類?
うっそ! 今どきラブレターを書く子なんているの?
だとしたら、どうしよう。
俺にもついにモテ期が、キターーーーーー!!!!
「おはよ、最上」
「うわぁ、びっくりしたぁ! 狩野かよ、お、おはよう」
俺は封筒を急いでブレザーのポケットに隠した。
「何驚いてんだよ。変な奴。
僕、今日は日直だから急ぐね。じゃあ、またあとでな」
「あいよ。」
狩野には見つからなかったようだ。ギリセーフ!
ラブレター読むには人目を避けてトイレだな。
俺は真っ先にトイレに飛び込んだ。
個室に入り鍵をかけ、ハートのシールを剥がす指が震えている。
◆
突然のお手紙、ごめんなさい。
わたしは、迷宮探索高等専門学校東北分校の一年生です。
ダンジョン探索については、まだまだ駆け出しのひよっこです。
いつもハヤブサ・チェンネルやユズリハ・チャンネルの配信を見て勉強しています。
そこで、いつも勇気ある行動で挑戦しているハチ王子を見て、元気を貰いました。
ハチ王子はわたしの憧れです。
探索者としての勇気と元気をありがとう。
最近、ハチ王子は同じ学校の最上先輩だと知って、
驚きと同時に胸のキュンキュンが止まりません。
ダンジョン探索のコツについて教えていただきたいこともあるし、
最上先輩の最高の笑顔をもっと近くで見たいと思うようになりました。
今好きな人がいないなら、私と付き合ってくれませんか?
男鹿半島ダンジョン近く、寒風山回転展望台で会ってくれませんか?
海を見ながらお話がしたいです。
そこで返事を待ってます。
一年組 花館十和
◆
これは、ハチ王子へのファンレターであり、俺へのラブレターだ。
「最上先輩だと知って・・・」だと。
名前に先輩を付けて呼んでもらうのは、初めてだ。
俺の周りにいる女子は強い子ばかりで、自分の事を「ひよっこ」ですなんて言う子はいない。
全く、しょうがないなぁ。
かわいい後輩に会いに行ってやるか。
今日の授業はずっと上の空だった。
頭の中は、花館十和はどんな女の子か気になって妄想が膨らむ。
まだ一年生ということは、つい半年前までは中学生だから、まだあどけなさが残る少女か。
いいじゃないか。デレ。
あれ?俺ロリコンじゃないよな。
先輩らしい振る舞いの練習でもしておこう。
昼休み時間も寒風山までのルート検索に夢中になって弁当も開けなかった。
終礼が終わると、ダッシュで教室を飛び出した。
田沢湖駅まで走った。
全速力で走れば、新幹線に間に合うことは調べていた。
新幹線代はさすがに財布に痛いが、俺のモテ期のためだ。
今まで貯めたポイントや貯金はこういう時に使わなくちゃな。
新幹線で秋田駅に着いたら、ローカル線の男鹿線に乗り換える。
脇本駅から車で10分とネットには書いてあったが、それくらいなら、走れば楽勝だ。
ただ、寒風山は当然山だから、上り坂が続く。
それも日ごろ爺ちゃんに鍛えられていたおかげで、ノンストップで駆け抜ける。
寒風山、寒風山、寒風山・・・・・
心の中で唱えながら、リズムよく登って行った。
寒風山回転展望台に到着。
花館さんはもう来ているのかな。
まだかな。
展望台の周辺をぐるりと回って女の子を探してみた。
それらしき女の子はいない。
そうだよな、俺より早く着いてたら最速の探索者だよな。
しばらく待つか。
ってか、「寒風山回転展望台で会ってくれませんか」
ということは、すでに展望台に入っている可能性もある。
おっと、展望台は有料だ。
これは花館さんが来てから、君の分は僕が払うよと言って、
二人で入った方がかっこよくね?
やっぱり、待とう。
寒風山からの眺めは絶景だった。
遮るものが一切ないので男鹿半島の湾曲がどこまでも広がっている。
真っ青な海の日本海と、遠くには鳥海山まで見える。
日は傾き、だんだん夕方になっていく。
展望台の入り口に「本日の営業は終了しました」という札がかけられた。
早っ! 午後5時に終了とは知らなかった。
花館さんはまだ来ない。
彼女もこんなに早く閉まるとは思わなくて、急いでこっちに向かっている途中かもしれない。
待っていてやらないと、かわいそうだ。
暗い中で、女の子ひとりポツンとたたずむなんて、悲しすぎるだろ。
俺は待つぞ。
そして、彼女は肩で息しながら展望台まで来るんだ。
―ここから妄想―
「ごめんね。待った?」
「いや、俺も今来たばかりだよ」
―妄想終了―
いいじゃん、いいじゃん。
俺の妄想は終わらない。
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