第53話 登録変更届
来た。尋問だ。
ブラックダイヤモンドは自分で持っていていいって小松先生に言われたし、
サファイアやルビーは海でタコのユタカからもらったものだ。
金塊は・・・・座礁した貨物船からちょいと無断拝借してきた。
船の所有者にバレたら、俺は窃盗罪に問われるかもしれない。
この辺はあいまいに答えておかないとヤバいな。
「ブラックダイヤモンドは小安峡ダンジョンで、
宝石と金塊は日本海のダンジョンで拾いました」
「日本海のどこだい?」
「飛島周辺のダンジョンです」
御積島というところを、飛島周辺とぼかして答えた。
「そんなところに海底ダンジョンがあったのか」
しまった! まだ未発見のダンジョンだった。
でも、事実だからしょうがない。
「ハヤブサさんと一緒にみつけました」
「こんなにたくさん・・・魔石も宝石も、
ほとんどが飛島周辺のダンジョンに沈んでいたんだな」
「そうですが、・・・何か」
「いや、疑っているわけじゃないんだよ。
忍がこんな貴金属をたくさん持っていて、父さんはびっくりしてるんだよ」
まあ、普通は驚くよな。
自分の子どもが宝石や金塊を大量に持っていたら、強盗でもしたのかと心配にもなるだろう。
金塊に関しては、強盗じゃないけど似たような行為だが。
「忍、よく聞いてくれ。父さんからもう一つ伝えたいことがある」
「母さんを連れ戻すことだろ」
「なぜ、ダン技研でプライベートな話をしなきゃいけないんだ。
違う、もっと緊張感がある話だ」
もう十分に緊張しているのに、これ以上緊張感のある話といったら・・・
やっぱり警察に通報するんだ。
ヤバい、ヤバい、かなり緊張感がある話じゃないか。
「本当は内部情報だから、こうことを教えてはいけないのだが、
忍がびっくりするといけないから伝えておく」
ごめんなさい、父さん。俺は嘘をついていました。
あの金塊は拾ったんじゃないんです。
涙目で父さんを見つめて白状すべきか。
「忍はレベル999に達している。
集計結果をちゃんとまとめないと確かなことは言えないが、
間違いなくトップ10に入る。もしかしたら1位かもしれない」
「へ?」
「へ?じゃない。
だから、文字化けがなくなった以上、本名で1位表示されるのだぞ。
急いで登録変更届を書くんだ。
忍が自筆で書く必要がある。だからここに連れてきたんだ」
なんだ、よかった、それか。
「わかった・・・・・はい書きました。これでいい?」
父さんは俺が書いた変更届を見て、首をかしげた。
「ハチ王子? 八王子じゃなくてハチ王子か。
・・・まあ、なんでもいいが」
他にいいハンドルネームが思いつかなかったから、ハチ王子と書いた。
この時の父さんは、このハンドルネームハチ王子がすでに配信で使われており、
学校のみんなには薄々感づかれていることをまだ知らなかった。
そして、俺もそのとこをすっかり忘れて考えもしなかった。
*
探索者ランキングトップ10の発表が朝のニュースであった日。
二学期の始業式だった。
校門をくぐると、なんとなく他の生徒からの視線を感じる。
「あの人じゃない? ランキング1位のハチ王子って」
「2年生だろ。武器も使わないで魔物を倒すんだってよ」
「私も配信見たわ。装備全解除でトレントに向かって行ってたわ」
「見た!見た! 細マッチョだった。キャー」
「そうかな。冴えない奴じゃん」
「名前は最上忍だってさ」
「最上忍とハチ王子がイコールだという証拠はないぞ」
聞こえてくるひそひそ話は、ひそひそ話とは言わない。
居心地の悪い昇降口から廊下を通って、教室に入り自分の席にカバンを置いた。
「もーがーみ君、おはよう。」
振り向くと狩野が真っ黒に日焼けした顔に真っ白い歯を出して笑っている。
「おはよう。狩野また焼けた?」
「ああ、ジュリアの家を建ててたらまた土方焼けしてしまった」
「ご苦労さん。ジュリアは喜んでいるかい」
「結構、物事をはっきり言ってくる人だよね。
ダメ出しばっかり食らっている」
「ハハハ、でもその分ちゃんと支払いしてくれるから、いいじゃん」
「ところでさ、寮で噂になっているんだが・・・」
きた。ランキングの話か。
「夏休み終わったら、桜庭がきれいになったと思わないか?」
なんだ、桜庭の話か。
確かに可愛くなったけど、きれいになったとは思わない。
「そうかぁ? 俺には全然わからないけど」
「ペンションで毎日見ていた最上は気が付かないんだよ。
絶対、きれいになった。
恋する乙女はきれいになるっていうからな」
「ふーん、そうなんだ」
「お前、相手が誰だか気にならないのか?」
「別に興味ないね」
「なんでそんなことを言うんだ。
おれは相手が誰だか見当がついている」
「その見当とは」
「僕だ」
「おめでとう、狩野。いろんな意味おめでたいやつだ」
「今僕をバカにしただろ」
「あれ、わかった?」
俺と狩野がじゃれあっていると、クラスのみんなの視線が一点に集中していることに気が付いた。
クラスのやつらが見ているのは俺たちじゃない。
教室の入り口に立つ人物を見ている。
その人物は、遠慮なくズカズカと教室に入って来て言った。
「おはよう、ハチ王子」
東京校3年生のユズリハだった。
彼女が俺を見て発した名前に、教室中がざわめき立った。
「聞いたか? ハチ王子って呼んだぞ」
「やっぱり、最上がハチ王子なんじゃん」
「あの子、東京校のユズリハさんでしょ」
「アイドル系配信者のユズリハが、なぜここに来ているんだ」
俺も狩野もじゃれあっていたポーズのまま固まって、きょとんとユズリハを見ていた。
「ここが二年組の教室なのね。東京校よりせまーい」
「ユズリハ、なんで、ここに居るんだよ」
「あら、聞いていなかった?
ダンジョンでお泊り会のとき、言ったでしょ。
東北校に転校してくるって」
教室がまたざわつく。
「お泊り会ってなんだ」
「ハチ王子とユズリハはダンジョンで一夜をともにしたのか」
「嘘でしょ。そんなこと高校生がやっていいの?」
この不穏な空気をなんとかしてくれ。
さらに悪いことに、このタイミングで桜庭が登校してきた。
「おはよう、もが・・・、ちょっと、嘘でしょ。
信じられない。あんたマジで転校してたの?」
「これは、これは、マネージャー兼小間使いの桜庭あずささん。
わたし、有言実行型なの。でも学年が違うから残念だわ。
わたしだけ3年組だなんて」
「そうね。そんなに残念なら留年したらいいじゃないの」
「ナイスアイディア! あずさいいこと言うわ。そうしようかなぁ」
「冗談よ。ほらほら、先輩は自分の教室に戻ってください」
「わかったわよ。ハチ王子、いつでも3年組に遊びに来てね」
ユズリハ得意の両手でハートマークをしながら、ウィンクしてきた。
教室の男子どもが悶絶している。
「うわぁ、最上に向かってそんなことするなー」
「生ハートでキュンを見てしまった」
「おい、鼻血出てるぞ」
桜庭は教室の後ろから箒を取り出し、ユズリハにむけてさっさと掃きだす。
「はいはい、もうすぐ先生がいらっしゃいますよー。
邪魔者は消えてくださーい」
クラスメイトたちはその様子を見て呆気に取られている。
「桜庭って、もっと大人しい子だったよな」
「あんな気の強いところ、初めて見たぜ」
ユズリハは桜庭に追い払われるように教室を出て行った。
そう、俺は忘れていた。
唯一、俺のことをハチ王子と呼ぶ人物がいたことを。
それはユズリハで、ここに転校してくることは予想外だった。
もう、ランク1位は謎ではなくなった。
はやくも正体はバレバレだ。
登録変更した意味はすでにない。
配信を見ている人しかハチ王子という名前は知らないのだから、本名の方がまだマシだったのでは。
「な、な、やっぱりだろ?」
狩野が俺の肩に手を乗せてそっと言う。
ユズリハがハチ王子と呼んだせいで、身バレしたことを狩野も嘆いてくれるのか。
「やっぱり、桜庭はきれいになったよなぁ・・・」
狩野、そこか。
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