第52話 ダン技研、応接室
ここから第3章です。
ランキングトップに躍り出たハチ王子こと最上忍は、とうとう身バレしてしまいます。
ダンジョン第5層界北エリアの開発を巡り、事件に巻き込まれていく最上忍。
事件解決のために、ついに国が動くことに・・・
どうぞラストまでお楽しみください。
ペンション白鷺にチェックインしにきたお客さまが、フロントに荷物をおろし残念そうな顔をする。
「あれぇ?
可愛い女の子がフロント係でなかなか予約の取れない宿って、
ここで間違いないですか?」
「口コミにはそう書かれてますね」
「女の子は? 今日はお休みですか?」
「あの子は夏休みの短期バイトで来てもらってたんで、
もう辞めました」
お客様はよほど楽しみにしていたのか、桜庭がいないと知るとうなだれた。
もうこれで、今日は5人目だ。
「あ~あ、一緒に写真に撮ってもらおうと思っていたのに」
「申し訳ございません」
「君もホームページに女の子と一緒に写っていた子だよね。
君は辞めないの?」
「俺、じゃない、わたくしはこの家の者なんで・・・」
フロントにいるのが俺で悪かったな。
桜庭あずさは、夏休みが終わりそうな五日前の朝に寮へと帰って行った。
桜庭がいなくなると、そのあとを埋める役目が俺に回ってきてしまった。
人前に出るのが苦手だからひたすら裏方に徹していたのに、
爺ちゃんに引っ張り出されてしまったのだ。
「あずさちゃんがバイトやめて寮に戻ったがら、
忍、おめぇフロントさ出れ」
「ええーーーー、嫌だよ爺ちゃん」
「何言ってる。
おめぇだってホームページさ写真載ってるんだがら、ここの顔だべ」
ペンションの顔とか言われたくないし、勝手に写真撮ったのは爺ちゃんじゃないか。
と思いながらも、聞き分けのいい俺は今素直にフロントに座っている。
あずさと入れ替わる形で、ここにやって来たのは父さんだ。
何のために父さんが来たかというと、
それは母さんを東京に連れ戻すためだと俺は勝手に思っている。
夏休み期間だけの帰省という約束で母さんは来たけど、
放っておくとずーっとここに居座りかねない。
父さんだって東京の家で、ずっと一人暮らしを続けるのは大変だろう。
その父さんは、さっきからずっとテラス席で誰かと電話中だ。
真剣な顔をして話している。
何もこんな休みの日まで、仕事の話を電話でしなくてもいいのに。
父さんの電話が終わったようだ。
フロントに向かって歩いて来る。
「忍、このあとチェックイン予定のお客さまはいないか?」
「あとは、夜に一組だけだよ」
「じゃあ、フロントは爺ちゃんに任せて、ちょっと出かけよう」
「マジで? やったー。父さんから出かけようなんて言うのは珍しいね。
どこへ行くの? 映画館に行ってみたいなぁ。
『怪盗アンパンの城』が絶賛上映中なんだよ」
「寝ぼけたこと言ってないで、早く支度しなさい」
*
30分後、俺は父さんと黒い皮のソファーに座っていた。
映画館の椅子ではない。
そこは、ダンジョン探索技術研究所 田沢湖支部の応接室。
俺また何かやっちゃった?
「忍、何故ここに来たかわかるかい」
「全然」
「嘘をつくな」
「なんとなく」
*
―――二日前、
俺はダン技研田沢湖支部でステイタス画面を読み込ませ、魔石を提出した。
担当したのは、前回とは違う女性研究員だった。
「毎日ステイタス画面を確認なさってます?」
「はい、一応」
「スキルが変わって、レベルも変わったのはご存じですか?」
「うーん、なんか一回だけメンテナンスと表示されたけど、
意味がわからないからそのままに。
ちょうど、怪我をして入院していたころなんで、
あまり気にしていませんでした。
何か悪いことでも起きているんですか?」
「いいえ、そんなことありません。
アイテムボックスの中で提出するのは、魔石だけでいいんですよね・・・」
何故か研究員は、震えている。
まだ仕事に慣れていないのかなぁ。
「ポイントは換金しますか?」
「いいえ」
「ゴールドは換金しますか?」
「いいえ」
第5層界快適化計画のためにかなり出費していたから、本当は換金したかった。
しかし、魔石を10個提出すれば報奨金はそれなりになるだろうと読んで、ポイントとゴールドはそのままにした。
*
そして、このダン技研の応接室に父さんと座っている。
ドアを開けて職員が入って来た。
「室長、お休みのところをわざわざお呼びして申し訳ございません。
集計していたら、どうしても室長に相談しなければならない事になりまして・・・」
「前置きはいい。早く集計したものを見せてくれ」
父さんは職員が持ってきたノートパソコンの画面をのぞき込んだ。
父さんの仕事先なのに、俺まで一緒に連れて来るということは、やっぱりアレか?
金塊を持っているのがバレたのか?
このあと、警察に突き出されるってことはないだろうな。
パソコン画面に何が映っているのか知らないけど、俺はドキドキしていた。
「室長、いかがしましょう。
ランキングデータを夕方には本部に転送しないとなりませんが・・・」
「ううむ、登録変更届を出そう。
ステイタス内容はさすがに偽装できない。
とにかく、すぐ変更だ」
「はい、では。こちらが変更届の用紙です。
ご本人に書いていただきます」
机の上に、一枚の紙が置かれた。
「忍、これに記入しなさい。
以前はハンドルネームの欄に本名を書いたと言っていたね。
これは、ハンドルネームを変更しますという用紙だ」
「はーい」
「なぜこれを書くか、わかるかい?」
「さっぱり」
父さんはため息をひとつついて、それから言った。
「忍のスキルが環境依存から環境応答に変わったからだよ」
「はあ、・・・そういえば、メンテナンス期間があったよ。
頭を打って入院していたから、
俺に休みなさいという意味かと思ってたけど」
「そうか、そういう物の考え方をしていたのか」
父さんの言い方は、メンテナンスとはそういう意味じゃないと聞こえた。
「いいか、わかりやすく説明しよう。
環境依存というスキルは環境応答というものに変化したんだよ」
「なんだ、そうなの?
俺は環境応答って二つ目のスキルかと思っていたよ。
結局スキルは一つしかないんだ」
「父さんが言いたいのはスキルの数じゃない。
要するに、今の忍がランキングインしたら名前が文字化けしない。
つまり、本名が晒されるということだ」
「ふーん、それは困るね。
だからこの紙でハンドルネームに書いてしまった本名を変更しろと」
「そうだ。きちんとハンドルネームを書きなさい」
「わかったー」
おれは、ボールペンを手にしてから父さんに質問してみた。
「ところで、父さん、環境応答って何?」
「ちょっと難しい話になるが、付いて来られるかな?」
「がんばる」
「環境応答とは、
植物が重力、水、光、温度、機械的な刺激などの環境の変化を感知して、
成長を制御したりして、環境ストレスを回避、軽減する生存戦略だ」
だめだ、難しくてついていけない。
「まだ研究を進めている段階で、DNAの修復や老化、
寿命に与える影響を調べている。
研究段階だが、生き残れる種を残すために必要な戦略なんだよ。
ちょっと難しかったかな。」
「かなり難しい。
でも言おうとしてることはなんとなくわかる。
だって、俺はそれを体験したもん。
海で生命の危機を感知して、環境応答が緊急発動したよ。
それは、環境ストレスを感じて、生き残ろうとした
という解釈であってる?」
「海で?」
「海の中でも呼吸できたし、水圧にも対応できた。
凄いでしょ。細胞レベルで生存できるように
ストレスを回避したってことだよね」
父さんは口をポカーンと開けて俺を見ている。
自分の息子が海で死にそうになったことを聞いて驚いているのか。
俺はそう取った。
だが、違った。
父さんが驚いたのは、俺が環境応答の説明を理解できたことだった。
「そうか、理解できたのかすごいな」
驚くポイントはそこかよ。
「では、父さんからも聞いていいか?
アイテムボックスに入っていた宝石や金塊はどこで手に入れた?」
ヤバい! 尋問が来た。
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