第5話 アイテムボックスって購買部で買えますか
「もーがーみー君、今日も五十嵐先生に怒られちゃったねぇ」
クラスメイトの狩野が絡みにくる。
こいつは、入学したての頃から、なぜか俺にくっついて来る。
東北分校に東京から入学する生徒は少ないから、最初は物珍しくて絡んできているのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
狩野によれば、《正直そうだから》というのが理由だという。
そう言われても、俺はそうは思っていないが。
*
東北分校一年に入学したての頃。
「ちょっと聞きたいんだけど、いいかな。
最上ってさぁ、東京から来たんだってな。
なんでわざわざ東北分校を受験したの?」
初対面でいきなりそう切り込んできて、俺はハッキリ言って驚いた。
しかも、いきなり呼び捨てにするなんて失礼なやつだ。
「あ、ひょっとして、怒ってる?
呼び捨て嫌だったらそう言っていいよ」
「嫌だ」
「あぁ、ごめん、ごめん、最上君。
僕は、狩野智也。宮城県仙台出身。
どうぞよろしくお願いします!」
「最上忍・・・・です。どうぞよろしく」
こういう陽気なキャラは苦手だ。
俺じゃなくても、他に友達になれそうなやつはいっぱいいるのに、何で俺に話しかけるんだ。
超ウザいんだけど。
「僕さ、何ていうか・・・・親から離れて寮に入ったんだけど。
なんだか学校でも寮でも同じ奴らと顔を会せるのって、息苦しいんだよな。
最上は・・・あっ、最上君は、寮で見かけない顔だよね」
「ああ、母親の実家から通っているから」
「へぇ、どうりで寮で見かけないはずだ。
それなら、親から離れて暮らしても寂しくないだろ。
僕なんか、最初は天国だと思ったけど、
今では母ちゃんの作る鶏のから揚げが恋しいわけよ」
「それ、ホームシックか」
「やっぱりそうか、これをホームシックって言うのか。
最上・・・君はそういうことないの?」
「無理に君付けしなくていい」
「あはっ! 悪いな。なんか僕、使い慣れないからさ」
面倒くさいやつに捕まってしまった。
自分を三人称で僕とかいう癖に、他人は呼び捨てにするって、どういう幼少期を過ごしてきたんだろう。
本当は、仙台のお坊ちゃまかもしれない。
それが狩野の第一印象だ。
とにかく、よくわからんからこいつにはあまり近づかないようにすることにした。
ところが、こいつは逃げても、逃げてもこいつは絡んでくる。
そのうちに、逃げることに疲れ、俺はあきらめた。
今では狩野が唯一の友達になっている。
*
俺は登校途中に出会った不思議なお婆ちゃんの話をした。
「遅刻したのには訳があってな、通学途中で道路を渡れないお婆ちゃんを助けたんだ」
「おう、美談じゃねえか」
「言いたいのはそこじゃなくて、そのお婆ちゃんからお礼にってこれを貰ったんだ」
俺は、マジックバッグから小瓶に入ったポーションを取り出して見せた。
「これ、回復ポーションじゃないか。なんで、道端で会ったお婆ちゃんがこんなものを持っているんだよ」
「やっぱり、これポーションか」
「何気にマジックバッグから出すなよ。盗まれるぞ」
「それなんだけど、学校から支給されたマジックバッグがそろそろ満杯なんだ。
購買部にマジックバッグ売っているかな」
「そりゃ売っているよ。マジックバッグは学校から支給された物だし、
必要備品だから購買部に行けば買える。
でもな、マジックバッグが二つになったら邪魔じゃね?」
「そうだよな。だから、アイテムボックスが欲しいんだ。
アイテムボックスも購買部行けば買えるのか?」
俺の発言を聞いて、狩野の口をあんぐりと開いたまま約三秒固まった。
「お前、バカか? 購買部に売ってるわけないだろが!!」
「え? だめなの? じゃあ、東京校に発注してもらえばいいのか」
「いやいやいやいや、そういう問題じゃなくて!
そもそも、アイテムボックスに関するお前の認識が間違っている」
間違っている。
狩野に指摘されて俺は焦った。
迷宮探索高専は、実技演習に特化した高校で座学が少ないため、俺は基本的知識が足りない。
自分ひとりでダンジョン探索を楽しんでいるだけだから、探索者として当然知っているべきことを知らないという欠点がある。
「狩野が言ってるのは、アイテムボックスとは買えるものじゃないという意味か?」
「お前、普通高校入学の時点で、能力が普通レベル10くらいになっているだろ。
レベル10になればアイテムボックスを覚えるんだよ」
「覚える? レベル? 俺、ポイントしか見てないから、お前が言ってる意味がわからない」
「おいおいおい、マジかよ、頼むよ二年にもなってよ。
いいか、物事の流れを説明するからよく聞けよ。
ステイタス画面を出す能力があって、探索者になれる資格をもらいます。
高校生になってレベル10になりました。
と、同時にアイテムボックスを出す能力が開花します。
アイテムボックスと言葉に出すか、もしくは念じれば、目の前にアイテムボックスが表示されます。
要するに、売ってるものじゃなくて、アイテムボックスは能力なんだ」
「え! そうなの? じゃ、クラスのみんなはアイテムボックスを使えるの?
知らないの、俺だけ?」
「特に皆言わないけど、アイテムボックスのスキルは習得していると思うよ。
配信していたらなおさらのこと。アイテムも増えているだろうしね」
「知らなかった。マジックボックスで事足りるものかと・・・・」
「入学当初はマジックボックスに入るくらいしかアイテムを持ってないから、
学校で支給されるもので十分だけどね。
二年になってマジックボックスを二つも三つも持って、ダンジョン探索なんかできるわけねえだろ」
無知だった。
ダンジョン探索・イコール・ポイ活だという認識だった。
レベルってそんなに重要なんだ。
皆はアイテムボックスを使えるくらいレベル上がっていたのか。
「ダンジョン探索はポイ活じゃないのか。
俺は無知だった。ありがとう、狩野。教えてくれて」
「ポイ活だと思っていたのが信じがたいよ。
まあ、そんなにへこむな。お前だって実は使える能力かもしれないよ?
ただ知らなかっただけで」
「そうかな・・・自信がない」
「その可能性はあるよ。だからあまり落ち込むなよ」
そう慰められても、クラスのみんなが当然のように使っているスキルを知らなかったショックは大きい。
それに、配信していたらなおさらの事と言っていた。
「狩野は配信しているのか?」
「してるよ」
「え? そうなの? 配信って機材を揃えたりしてお金がかかるんだろ?」
「最上、お前は本当に今まで何やってたんだ?
国が無料の配信サービスをしているし、配信用機材は学校が貸し出ししていることを知らなかったのか?」
「知らなかった」
狩野は頭を抱えてしゃがみこんだ。
頭でも痛いだろうか。
「大丈夫か、狩野・・・頭痛か?」
「今、ちょっとめまいした」
狩野のめまいは俺のせいだ。
「わかった。僕がお前の家に行ってレクチャーしたるわ。
学校じゃ他のやつに見られて何を言われるかわからないからよ」
「え、俺の家に? いいよ・・・・」
いいよ来なくて、
と言いたかったが、このチャンスを逃したら俺はこのクラスから落ちこぼれて行くような気がして、すぐ言い換えた。
「いいよ、俺の家に来て教えてくれ」
「ああ、一回3000円な。今ならお得な初回無料だ」
「そんな・・・金とるのかよ。そんな金持ってないよ。
そうだなぁ、えー-っとぉ・・・・
初回以降は、日帰り温泉ワンドリンク付きでどうだ」
「それのった! 商談成立」
こうして、俺は家に初めて友達を招待する体験をすることになった。
東京にいた頃も一度も友達を呼んだことはなかったのに、俺の心をこじ開けたのは狩野だった。
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